カディアの伝説 誰かの声がする
見つけて下さりありがとうございます。
本当に王道ファンタジーなんでしょうか?
書いててちょっと迷うんですよね、楽しんでいただけると、とても嬉しいです。
何も無い世界に最初に存在したのは建国の英雄?
それとも英雄に語り掛ける誰か?
「心を強く持ちなさい。」誰かの声がする。
生きとし生けるものはその声に従った。
何も無い世界に光が灯り、理が生まれた。
ここはカディア、心が万物を形作る世界。
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建国の英雄は愛剣にその心を宿した。
その血に繋がる王族もカディアの存続のために心を強く保ち続ける。
何もない空間に浮かぶカディアは彼らの献身によって存在している不安定な楽園だ。
王の力が弱り始めて数年、次代はまだ動かない。カディアは徐々に曖昧になりつつある。
無理もないカディア存続の為とはいえ、何の関係もない『ここではない世界』から同意も無く誰かを呼び寄せる。
そんなこと、まともな感性が残っていれば出来るはずがないことだ。
王を支える『誰か』になり得る誰かを無関係な世界から調達しようなどと......。
ここはカディアの始まりの地にして最端の地、学問の塔。
理由は分からない、しかし、『大無し』はじわりじわりとこの土地を無かったことにし始めた。
僧侶は懸命に祈り、学者はその知恵と知識量で対抗しているが決定打に欠ける。
ここには致命的に戦える者が少ない......。
学問の塔周辺の世界の理も随分と希薄になっている、じき『大無し』に飲み込まれ、その存在は消えてしまうことだろう。
勇者の心を宿す愛剣とともに.......。
「ダメだろ!そんなの、せめて抗えよ!」
どれだけ頼んでも諭しても首を縦に振らないお護り巫女アイリーンにライアンが詰め寄る。
「その剣と俺の戦う力があれば、『大無し』を退けられる。あんたの立場も分かる。でも、今は有事なんだよ!」
「だめです!どんなに脅されても封印を解いたりしません!
私は護り巫女なのです!妹が力を得るまで耐えて見せます。
貴方みたいな無法者に決して屈しはしません!」
(元王女は世間知らずで強情だ。自身のお役目に固執して俺の言い分を聞きもしない。)
こうして無駄な口論をしている間にも
『大無し』は学問の塔を無かったことにして行く。
ライアンは伝説の剣の借用を諦めた。
「いい.....もう頼まない。自前でなんとかする。」
『自前でなんとかしよう。』
都でも屈指のガーディアンであったライアンはこの言葉で都を追われた。
伝説の誰かを待つこの国にライアンの考えは理解し難い異物だったようだ。
ガーディアンーー
己の存在を力に変えて、ものごとを無かったことにする『大無し』を打つ。
『大無し』への攻撃に特化したカディアの一騎当千の戦士。
しかし、今のライアンには武器が無いのだ。都を追われ学問の塔での再教育が決まった時にライアンは愛剣を奪われて無力化された。
「頼りないが.....無いよりはましか。」
ライアンは自身の長い三つ編みを左手で持ち、根元にハサミを入れた。ジャキリと音がして三つ編みがライアンの左手に収まった。
「思ったほどは長くないな。」
背中で揺れていた時より短く感じるそれを右手に持ち替えライアンは己の存在の力を注ぐ。
ググゥーンと唸りを上げてライアンの右手の三つ編みは輝く剣へと姿を変えた。
後ろでアイリーンが息を呑む気配がする。
「ほんじゃ、行ってくるわ姫さま。」
ライアンは学問の塔深部の間を後にした。
「そんな......。どうしてあんな無頼漢から勇者の気配が漂うの?」
誰よりも生真面目に国の安定を願い続け、渇望した力。
それでも手には入らなかった勇者の力。
その力を纏うライアンの後ろ姿を睨みながらアイリーンは奥歯を噛みしめた。
『大無し』はそこら中で無尽蔵に湧き無秩序に世界を食い荒らして行く。
ライアンは長剣とは言い難い自前の剣で『大無し』を豆腐でも切るように制圧して行く。
最果ての『大無し』に比べればここのはまだ攻略し易いとライアンは息を吐く。
とにかく多勢に無勢なのだ、これで敵の戦力が通常より上など洒落にもならない。
「おい!聞こえるか?」
ライアンの働きで『大無し』の攻撃から間一髪、生還できた僧侶たちにライアンは指示を出す。
「闇雲に力を使うな。地面に線を引き『ここより内』を自身の陣地と思い込め!」
はっとした顔をした僧侶たちが大きく頷く。
(ここはもう大丈夫。)
ライアンは更に進む。
『大無し』の大群にその存在を消し尽くされそうな学者たちを見つける。
(間に合うか?)
「いや、間に合わせる!」
ライアンは心を強く持って地面を蹴る、学者と『大無し』の間に身を割り込ませて剣を鋭く振り抜く。
間一髪、学者たちの周りで蠢いていた『大無し』は砂塵と化した。
「諦めるな!存在の力を信じろ!あんたたちの学びにかける情熱は本物だ、誇りを武器に変えろ!」
学がない訳ではないが自分たちの話に同調はしなかった男がいきなり繰り出す全肯定......。
学者たちの瞳に正気が戻る。
(そうだ、我々は考えることを辞めてはいけない。)
(思考を力に、ここに木が有る。ここに私がいる、世界はまだ存在している!)
ライアンはなおも行く。
仲間を鼓舞し、己も剣を振る。
「自分を信じろ!」
「今ここに居る我々が踏ん張らずにどうする!」
『大無し』の大群が前方に見えた。ライアンは力いっぱいに踏み込む、おそらくはあれが今回の中心だ。
ところが、踏み込んだ先が悪かった。
そこに地面はもう無くなってしまっていた。
ライアンはなす術なく何もない空間に飲み込まれ行く。どうにか、存在の力で自我を保とうとするが、『大無し』の侵蝕が止まらない。
仲間の心に絶望感が頭をもたげる。
「いけません。自分を疑っては駄目なのです!」
アイリーンの声が響いた。
護り巫女の透明感のある強い声が辺りの理を僅かばかり補強する。
学者も僧侶も闘志を取り戻す。
当のアイリーンはライアンと自分の力の差に打ちひしがれているのだが.....。
(悔しい。ずっと精進してきた私の精一杯があの男の何割にも届かないなんて......。)
それでもアイリーンは腐らない、今、学問の塔を救える可能性を掬い上げるために。
「ライアン、貴方の足場は私が作ります!どうかカディアを救って!」
何も無い空間。その中でライアンの足元だけにできた小さな足場、驚くほどに小さな足場はその大きさとは裏腹に恐ろしくガッチリとした理で強化されていた。
「まったく、さすがは頑固者の作る足場だな。」
ライアンは不敵に笑う。
(こんなに安定した足場は見た事がない。)
足場を得たライアンは何も無い空間から躍り出る。
諦めの色が抵抗の色にそして、勝利への渇望に変わりやがて、存在への礎が学問の塔に戻ってきた。
ライアン達は辛くもこの難局を乗り切ったのだ。
「心を強く持って......。」
誰かの声がした気がする。
『大無し』に呑み込まれ無かったことにされた土地の奪還。カディア建国以来の悲願がこの小さな土地で成された。この奇跡を知るものは少ない。
お付き合いいただきありがとうございました。




