家族
とある家の一室、開いた窓から優しい風とまばゆい光が差す一室。
空腹を知らせる音が響く部屋に横たわる少女が一人。
部屋の外から聞こえるのは、母親と見知らぬ男の声。
私は、この家では邪魔者だった。
いつだっただろうか。
いつものような耳障りな声ではなく…悲鳴が聞こえてきた。
私は部屋を出てて、念のため、はさみをもって一階に降りた。
そこで見たものは今でも覚えている。 裸の男が血まみれで横たわり、母親が血を流し何かにおびえた表情をしていた。
でもその母親は私を見るなり笑って言った。
「私じゃなくてコレを食べて!私は死にたくない!!」 そんな言葉を目の前の女は叫んだ。
刹那、誰かが女の前に立つ。
「血を分けておきながら、そんなことを叫ぶのは愚かだな」
人影からは、女の人の声がした。
そう思ったのもつかの間、人影は倒れている男のほうに近づき、首にかじりついた。
「やはり死体はまずい」
ぐぅぅと、おなかが空腹を訴える。 私はふらつきながら、女の前に立った。
「何ぼさっと立ってるの!?さっさと助け…」
何かを言いかけた女に、私はかじりついた。 女が叫んでいたが関係なかった。
「かたい」
私は女の首を持っていたはさみで切りさき、かぶりついた。
「生きてたはずなのにおいしくない」
私は人影を見ながらそう言った。
「お前は人間か?」
私は首をかしげた。
ふたたびぐぅぅとお腹が鳴る。
私は女に視線を向ける。
「や…め…」
目の前の肉に再びかぶりつく。
それでも、空腹は満たされなかった。
「……」
人影が私のほうに近づく。
その人影が何かを差し出した。
それはちいさなパンだった。
その瞳は赤く、悲しげだった。
はじめてのパンは、血の味がした。
それから数日が経過した。
あの人影はこの血なまぐさい家に居座っていた。
でも、その影は私を殺すことはなかった。
私はいつも通り部屋にこもっているだけ。
でも少し変わったことがある。部屋の前に、食べ物が置かれていることだった。
私は部屋から出ることもあった。
男と女の死体が転がっているリビング。
その死体を食べている影の横を通り抜けることもあった。
しばらくして、「お風呂」という物をしった。
臭いなんて気にならなかったが、影に言われて入った。
その時、その影のことを少し知れた。 赤い目、白い髪。私と同じぐらいの身長の女の子だった。
それから数日が経過した。
血の匂いが減ってきたリビングにいつものようにその子は死体を食らっていた。
私は一度だけ聞いたことがある。
「おいしくないんじゃないの?」
その子はしばらく固まった後、言った。
「まずい。でもこの血は必要」
それが私とその子との、最初で最後の会話だった。
とある日。私はいつも通り部屋にいた。
部屋の前にはいつものパン。
そしてその横に、何かが置かれていた。
「絵本?」
私はその本を開いて読む。
そこに書いてあったのは、【吸血鬼】という存在についてだった。
吸血鬼は不老で、人間の血を吸うことがある。
それは空腹を満たすためと言われているらしい。
そして吸血鬼は「ハンター」と呼ばれる人間に追われていること。
吸血鬼にとって血は特別だということも分かった。
血を吸うことで元の人間の記憶を読めることも分かった。
最後のページをめくり終え、本を閉じる。 裏には血で書かれていた。
「誕生日おめでとう」
と。
どれだけ立ったかはもう覚えていない。
けれど、その日は唐突にやってきた。
部屋で過ごしていると悲鳴が聞こえた。
見知らぬ男の悲鳴だった。
私はリビングに降りる。
そこには、銃を持った男と、血を流した男、そして、血を流しているその子がいた。
銃を持った男が私を見た。
その瞬間、私の前にはその子が立った。
直後パンという音と同時、その子は血を流して倒れた。
その子は苦しそうにしていた。
その子は私を見て、私に飛びつこうとした。
その瞬間、もう一度パンと音が鳴り、その子は倒れた。 それを見て男は銃を下ろした。
私は倒れている男のもとへ歩いて、それを拾い、男に向けて撃った。
その男はしばらく声を漏らしていたが、何回か撃ったら静かになった。
静かになった部屋にぐぅぅと空腹を知らせる音が鳴る。
今日はまだパンを食べていなかったことを思い出す。
私は銃を下ろしてその子のそばにしゃがみ込み、撃たれた傷口を見る。
私はその首にかじりついた。 その刹那、私の中にはその子の記憶が入ってきた。
私はいつの間にか涙を流していた。
最後に食べたその食事は、まだ暖かく、幸せの味がした。
おやすみなさい




