表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/30

第九章 君の残響(遥視点)

帰国してからの日本の空は、やけに低く感じた。

 アメリカの広場の青を思い出すたび、

 遥は無意識に空を見上げていた。


 旅を終えてからも、あの数日間の音が耳から離れなかった。

 蓮と過ごした夜、初めて聴いたあの“声”。

 今もはっきり思い出せる。

 冷たい風の中で震えていたのに、どこか温かかった。


 遥は美容師の仕事を辞め、街の片隅にあるライブバーでピアノを弾くようになった。

 週に一度だけ。

 客は少なく、拍手もまばら。

 それでも音を出すたびに、あの夜の残響が胸に広がった。


 「君のギター、誰かを探してるみたいな音がする。」

 自分があのとき言った言葉を思い出す。

 今思えば、それは自分自身のことだったのかもしれない。


 ある夜、演奏を終えたあと、店のオーナーが声をかけた。

 「遥くん、この曲、SNSに上げてみたら?

  最近は動画がすぐ広まるからね。」

 軽い気持ちでスマホを取り出し、ピアノを弾く姿を録った。

 投稿にはこう書いた。


 > “ある人に出会って、音が変わった。”


 翌朝、スマホの通知が止まらなかった。

 コメントの多くが同じ言葉を口にしていた。


 > 「このピアノ、あの広場の音に似てる。」

 > 「まるで続きを聴いてるみたいだ。」


 ――“広場の音”。

 アメリカのあの広場から、どんどん拡散されていった。


 驚いた。

 あの夜、たった一度きりの“初めての演奏”が、

 こんな形で人の心に残っているなんて。


 遥はスマホを見つめながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。

 「……ねぇ、蓮。」

 小さく呟く。

 「僕たちの音、まだここにあるよ。」


 そして、彼は知らない。

 その頃、海の向こうで――

 蓮がすでに教授職を辞し、日本行きのチケットを手にしていたことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ