第四部 第七章 四つ目の鼓動を待ちながら
亜香里が帰ったあと、SOLEIL のステージには
さっきまで鳴っていた音の余韻だけが漂っていた。
照明は落ちている。
それでもスネアの残像やベースの振動が
空気のどこかにまだ揺れているように思えた。
遥がピアノ席に座ったまま、
ぽつりと呟く。
「……亜香里ちゃん、すごかったね。」
瑠美はベースを抱えた手で胸元を押さえ、
まだ興奮が抜けないように頷く。
「うん……なんか、音が“まっすぐ”だった。
心臓から出てるみたいに響いて……。」
俺もうなずいた。
「あのドラム、派手じゃないのに強い。
一つ一つに意思があるっていうか……
聴いた瞬間に“違う”って分かった。」
遥が軽く鍵盤を叩き、俺を見る。
「蓮、やっと気づいたね。」
「何を?」
「三人の音にあった“穴”。」
その言葉に、胸の奥で何かが合わさる。
「……そうか。
俺たち、ずっと“心臓”を探してたんだな。」
遥は満足そうに頷く。
「うん。
亜香里ちゃんは、その“心臓”になれる。」
瑠美も力強くうなずく。
「四人になったら……絶対すごい音になるよ。」
その言葉に、胸が熱くなった。
けれど同時に、現実も見える。
「……でも今は、まだ三人だけだ。」
「うん。」
「だから――待ってるだけじゃ足りない。」
俺はギターを握り直す。
「亜香里が“正式に入ってくれたとき”、
胸を張って迎えられるように。
三人の音も、もっと強くしておかないと。」
遥がふっと笑った。
「うん。
ちゃんと備えておかないとね。」
瑠美もストラップを肩にかけ直しながら笑う。
「任せて。
三人のユメトセツナ、もっと磨こう。」
俺は大きく息を吸い、二人に向けて言った。
「じゃあ……始めよう。」
遥の指が鍵盤に触れ、
瑠美が低音を鳴らし、
俺は弦をそっと弾いた。
三人だけの音。
だけど、その奥には――
確かに“四人になる音”が見えていた。
まだ届かない。
でも、もう手は伸びている。
亜香里が 正式に入ったとき――
本当のユメトセツナが始まる。




