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第四部 第三章 再会と、これからの話

 夕暮れの光が緩やかに沈んでいくころ、

 SOLEILの店内には、まだ人の少ない静かな空気が漂っていた。

 テーブル席に、俺・遥・瑠美の三人が並んで座っている。


「……なんか緊張してきた。」

 瑠美が、膝の上で手をぎゅっと握りしめながらつぶやいた。


「大丈夫だよ。」

 遥は柔らかい声で微笑んだ。

 「君が“紹介したい”って思った子だろ?

  僕は楽しみだよ。」


「そう言われると逆に緊張するんだけど……」

 瑠美は頬を少し赤くして俯く。


 俺の胸も、どこか落ち着かない。

 ――幼稚園の友だちとの再会。

 しかも今回は“音楽”が絡むかもしれない。


 すると、カウンターの向こうから声が聞こえてきた。


「三人とも肩に力入りすぎだよ。」


 店長が、磨いたグラスを置きながら近づいてくる。


「今日は誰か来るんだって?」

「はい。」と瑠美が答える。


 店長は三人の様子を見て優しく微笑んだ。


「再会ってのはね、来る前から空気がちょっと変わるんだよ。

 ……ほら、来た。」


 扉のベルが「チリン」と鳴る。


 三人同時に顔を向ける。


 そこに立っていたのは、

 幼いころの面影をそのまま残した、少し大人びた少女だった。


「……蓮くん?」


 胸の奥がふっと温かくなる。


「亜香里。来てくれてありがとう。」


 彼女はぱっと笑顔になり、少し駆け足で近づいてきた。


「蓮くんだ……ほんとに……。

 なんか、夢みたいで……。」


「遠くから悪いな。」

「ううん。呼んでくれて嬉しかったよ。」


 その隣へ、瑠美が歩み寄る。


「改めて紹介するね。

 幼稚園の蓮くんのお友だち、一ノ瀬亜香里ちゃん。

 で、こっちが遥くん。私と蓮くんの中学の同級生。」


 遥は立ち上がり、やわらかく会釈した。


「僕が遥です。

 今日は来てくれてありがとう。」


「初めまして……一ノ瀬亜香里です。」

 亜香里は少しぎこちなく、でも丁寧に頭を下げた。


 そして短く息を吸い、少し照れくさそうに言った。


「……はじめましてなのに、なんだか不思議ですね。

 蓮くんの……“中学の友達”と、

 こうして同じテーブルに座ってるの。」


 遥はやわらかく笑った。


「僕も同じ気持ちだよ。

 蓮の“過去”が、こうして今に混ざるのって、

 なんか良いよね。」


 亜香里はふっと微笑む。


「うん……。なんか、安心します。」


 店長がゆっくり近づいてきて、声をかける。


「はじめまして。

 ここ“SOLEIL”の店長です。」


「は、はじめまして。よろしくお願いします。」


「緊張しなくていい。

 この店は、音楽が好きな人が自然と集まる場所だから。」


 店長は四人を見渡し、静かに言葉を続ける。


「いいかい。

 三人はまだ何者でもない。

 名前も、肩書きも、実績も、これから作っていく。

 でも、この店で鳴らした音がある。

 あれは、ちゃんと空気を変えた。」


 三人とも、息をのんだ。


「そういう音があるところに、

 縁ってのは勝手に集まるんだ。

 君がここに来たのも、そういう流れなんだろうね。」


 店長の言葉に、亜香里は小さく頷き、

 抱えていたスティックケースを胸の前で少し強く握りしめた。


「……瑠美ちゃんから蓮くんの話を聞いたとき、

 どうしても会いたくなっちゃって。

 “ありがとう”って言いたかったの。」


「え……俺に?」


「うん。

 幼稚園のとき……

 わたし、ずっと一人で座ってて。

 でも、蓮くんが声をかけてくれて、

 あれが、わたしにとっての“最初の友だち”だったんだ。」


 その言葉が胸に落ちる。


 言い返す言葉が見つからず、

 ただ小さく息をついた。


「……あのときは、

 ただ一緒に遊ぶ相手がほしかっただけだよ。」


 亜香里は、くすっと笑う。


「それでも、わたしにとっては大切なことだったの。」


 ゆっくりと静かな沈黙が落ちる。

 けれど、その沈黙はあたたかい。


 店長が柔らかい声で締めくくる。


「いい夜だね。

 音はまだ鳴ってないのに、

 ちゃんと“始まりの空気”がしてる。」


 その言葉に、

 四人は自然と、同じ方向へ心が向いていくのを感じた。


 ――ここから何かが始まる気がした。


 SOLEILの小さなテーブルの上で、

 確かに“新しい縁”が灯っていた。

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