第三部 第十三章 CrossPoint本番 ──知られざる中継
あっという間に一ヶ月が経った。
本番直前、舞台上で俺たち三人は待機していた。
出番だ。
CrossPoint の巨大な空間が静かに息をしていた。
先月よりも広く見える。
怖さも、不安もある。
けれど──逃げる気はしない。
遥が小さく言う。
「蓮……いけるよね。」
俺は深い呼吸をして答えた。
「ああ。やってやろう。」
瑠美が手を重ねてくる。
「二人と一緒なら……大丈夫。」
三人の指先が重なり、
ほんの十秒間、誰も動かなかった。
照明が落ちた。
観客のざわめきがすっと薄れる。
遥のピアノが、一音目を置いた。
光が滲む音。
俺のギターが風を作り、
瑠美のベースが空間の底を支える。
昨日は崩れたリズムが、
今日はちゃんと前に進んでいった。
少しだけ震えた。
でも音は止まらなかった。
途中で遥が俺を見て笑い、
瑠美が低音を一段上げて支え、
俺は声を、まっすぐ、まっすぐ投げた。
その瞬間、客席の空気が変わった。
――届いた。
演奏が終わると、
拍手が波のように押し寄せた。
三人は顔を見合わせて、
誰よりも先に笑った。
ステージ裏に戻ると、
店長が腕を組んで立っていた。
「……おつかれ。
三人とも、よくやったな。」
その声は落ち着いていて、
でもどこか誇らしげだった。
瑠美が息をつめる。
「店長……どうでした……?」
店長は少し笑って首をかしげた。
「どうって……
あれだけやれたら十分すぎるだろ。」
遥の肩から力が抜ける。
そのとき、店長は表情を引き締めて言った。
「ひとつだけ言っとくぞ。」
三人が同時に顔を上げる。
「今日のライブ……
テレビでサイレント中継されてた。
音だけで新人を探す番組だ。」
静まり返る三人。
瑠美の声がひっくり返った。
「え、えええっ……!?
なんで言ってくれなかったんですか……!」
店長は苦笑した。
「言ったら緊張で足震えるだろ。
だから黙ってた。」
遥が小さく震えながら笑う。
「……たしかに……言われてたら無理でした……」
俺も思わず頭を抱えた。
店長は三人の表情をひとつずつ確認すると、
静かに言葉を続けた。
「でもな。
そんなのどうでもいいくらい、
今日の音は“お前ら自身”のもんだった。
本当にいいライブだったぞ。」
三人の胸に熱いものが広がる。
店長は腕を組み直した。
「これから先のことは、
全部俺が受ける。
連絡もオファーも変な噂も。
お前らは音だけやってろ。
それで十分だ。」
瑠美が泣き笑いの声で言う。
「店長……そんな……
ありがとうございます……!」
遥も鼻をすする。
「ほんとに……助かります……」
店長は照れたように視線をそらした。
「別に大したことじゃないよ。
お前らの音、すげぇ好きだからさ。
それだけ。」
その言葉に、
三人はしばらく言葉を失った。
第三部まで読んでくださり、
本当にありがとうございます。
今回の部では、
ユメトセツナの三人が初めて“大きな壁”にぶつかり、
そしてそこから自分たちの音をもう一度見つけ直す姿を書きました。
本当は、新しい出会いまで辿り着く予定でしたが……
挫折や不安、そして成長を書いていたら、
思っていた以上に長い章になってしまいました。
でも、結果として──
三人の音がCrossPointで初めてしっかり届いた、
そんな大切な瞬間を描けたと思っています。
初の大型ライブは、大成功でした。
彼らの音は確かに前へ進み、
それを受け止めてくれる人も確かに存在した。
ここから三人がどんな景色を見ていくのか?
どんな出会いが待っているのか?
そして、ユメトセツナというバンドが
どう姿を変えていくのか?
僕自身もまだ、すべてを決めているわけではありません。
彼らと同じように、手探りで、胸の高鳴りのまま書いています。
もしよければ──
これからも、温かく見守っていただけたら嬉しいです。
次の部では、
ついに“大事な出会い”が訪れます。
第四部もどうか楽しみにしていてください。




