第三部 第十二章 CrossPoint再挑戦 ──光を掴む日──
CrossPoint に戻ってきた。
あの巨大な天井、
吸い込まれるような暗闇。
昨日と同じ空間なのに、
胸にある感情はまったく違った。
俺、遥、瑠美。
三人とも緊張はしている。
でも今日は、逃げていない。
スタッフが俺たちを見るなり言った。
「戻ってきたんですね。
すぐ準備しますので、昨日と同じ段取りでどうぞ。」
口調は淡々としているが、
その目は少しだけ期待を含んでいた。
遥が小声で言う。
「……蓮。昨日より音が見える感じ、する?」
「する。
俺たち、昨日とは違う。」
瑠美も頷いた。
「うん……昨日は怖かったけど、
今は“やりたい”が勝ってる。」
音出しが始まった。
■ 遥のピアノ——
鍵盤の最初の一音が鳴る。
……昨日と違う。
遥の音はまだ少しだけ細いけど、
前に向かって伸びている。
スタッフがうなずく。
「おっ……芯が出てきたね。」
遥の顔に、
昨日にはなかった“光”が灯った。
■ 瑠美のベース——
低音が空間を跳ね返り、
昨日より短い距離で耳に届く。
「あれ……ズレてない……」
瑠美の瞳が揺れる。
「昨日より……全然崩れてないよ。
蓮くん、遥くん……!」
瑠美の声にも力があった。
■ 俺のギターと声——
ギターを鳴らす。
昨日の“軽さ”はまだ完全には消えない。
でも、
音が前へ飛ぶ“方向”は確かに掴めてきていた。
そして声。
昨日の自分の歌が嘘みたいに、
今日は“跳ね返ってくる”。
遥が笑う。
「蓮……!今日の声……全部前に進んでる……!」
瑠美も思わず拍手した。
「聞こえるよ……蓮くんの声……ちゃんと!」
スタッフが腕を組んで言った。
「じゃあ、通してやってみようか。」
三人はそれぞれの位置に立つ。
遥の指が鍵盤に触れ、
瑠美が深呼吸し、
俺はマイクを見据える。
曲が始まる。
昨日は崩れた第一音が、
今日はまっすぐ重なった。
ピアノの光、
ベースの地鳴り、
ギターの風。
俺の声は、
そのすべてを押し出すように前へ進んだ。
完璧じゃない。
でも──“音楽”になっている。
CrossPointの空間で、
三人の音が初めて“形”を持った。
通しが終わると、
スタッフが微笑んだ。
「昨日とは別人だね。
正直……びっくりしたよ。」
遥が少し照れたように言う。
「まだまだなんですけど……
昨日よりは……行けてますよね?」
「うん。
この調子なら本番も問題ない。
……あとは歌の圧を少し上げれば十分だ。」
瑠美が嬉しそうに振り向く。
「やった……!
蓮くん、遥くん……!」
そしてスタッフが言った。
「本番の日、正式に決まりました。
来月の二日目のステージ、
CrossPoint の“プライム枠”です。」
三人は息をのんだ。
プライム枠。
新人ではあり得ない、
“メインに準じる時間帯”。
遥が震えた声で言う。
「プ、プライム枠……って……
僕たちが……?」
スタッフは笑った。
「昨日は正直どうなるかと思ったけど、
今日の音を聴いて確信したよ。
こっちが下手に扱う方が失礼だ。」
瑠美が涙ぐむ。
「蓮くん……遥くん……
わたし……信じられない……!」
外に出ると、
昨日よりもっと暖かい風が吹いていた。
遥が言う。
「蓮。
本番……絶対成功させよう。」
「当たり前だ。」
瑠美が笑顔で続ける。
「三人で……絶対、光掴もうね……!」
俺は二人を見て言った。
「掴む。
俺たちはやれる。
CrossPointで“証明”する。」
その瞬間、
俺たちの胸にはっきりとした確信が生まれた。
昨日負けた場所で、
今日、確かに“光”を掴んだ。
ユメトセツナの音は──
まだまだ先へ進む。




