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第三部 第七章 静かな再燃

 SOLEILでの三人の練習は、気づけばもう日課のようになっていた。

 蓮のギター。

 遥のピアノ。

 瑠美のベース。


 音を重ねるたびに、

 三人の間に目に見えない“温度”みたいなものが生まれていく。


 そんなある日の夜、店長からメッセージが届いた。


 《ちょっと来い。見せたいもんがある。》


 店に入ると、店長はカウンターで腕を組んでいた。

 スマホの画面には、客が投稿した三人の演奏動画。

 暗いステージに光が差し、顔は影、音だけが浮かび上がる。


 その下のコメント欄が、みるみる増えていた。


 《ギターの人、前より音に輪郭出てる》

 《二人の頃より響きが深い…誰か入った?》

 《影の二人組じゃなかった?今日三人やん》

 《ベースの子、プロみたいなんだが》

 《え、今“歌声”みたいなやつ聞こえた気がする…》

 《これ“ユメトセツナ”って噂の二人?》


 遥が目を丸くして息を飲んだ。


 「……すごいな。

   二人の頃より反応早い。」


 俺は静かに頷いた。


 「三人になって音が変わった証拠だな。」


 そんな中、瑠美がぽつりと言った。


 「ねぇ……ちょっと言わせて。」


 俺と遥は振り返る。


 瑠美は少し照れて笑い、


 「加入した日のあたし……

   ほんとヤバかったんだよ?」


 遥が首を傾げる。


 「ヤバかった?」


 「うん。

   “バンド名はユメトセツナ”って聞いた瞬間、

   頭の中で全部つながったの。」


 俺は自然と笑ってしまった。


 「……前から知ってたって言ってたもんな。」


 瑠美は大きく頷いた。


 「知ってたよ!

   影の二人組の動画、何回も聴いてたし。

   でもさ……

   まさか中身が“蓮と遥”だなんて思わないじゃん?」


 遥がふっと笑う。


 「顔出してなかったしね。」


 「そう!

   加入するって日に名前聞いてさ、

   ほんとに心臓止まるかと思ったんだから。」


 瑠美は照れながら続けた。


 「でもね……

   こうして三人で音合わせてると、

   あの日驚いた自分に教えてあげたくなるの。」


 俺と遥が見つめる。


 瑠美は少し赤くなりながら言った。


 「“大丈夫。

   その二人と一緒に、

   あんたもちゃんと音の中に立ててるよ”って。」


 胸にじん、と熱いものが広がった。


 俺は素直に口を開く。


 「……ありがとう。

   瑠美が入ってくれて、本当に良かった。」


 遥も笑って頷いた。


 「うん。

   なんか三人になって、ようやく“バンド”って感じがする。」


 店長がスマホを置きながら言った。


 「問い合わせ来てるぞ。

   “正式に三人になったんですか?”

   “次いつ観られますか?”

   “ユメトセツナで合ってますか?”ってな。」


 瑠美が驚く。


 「もうそんなに?」


 「噂の名前とはいえ、

   正式に名乗ったのは俺たちだ。」

 俺は言った。


 瑠美は優しく微笑んだ。


 「……なんか、いいね。

   噂の名前が、本物になるって。」


 店を出ると、春の夜風が三人の間を通り抜けた。


 遥が空を見上げて言う。


 「……二人の頃の音がね、

   三人になってまた動き始めてる気がする。」


 瑠美が笑う。


 「そりゃそうだよ。

   三人の方が強いに決まってる。」


 俺は二人を見て、ゆっくり言った。


 「……正式に、外へ出る準備をしよう。」


 二人が同時に頷いた。


 「うん。」

 「やろ。」


 影だった二人の音が、

 三人の音として再び燃え上がる。


 静かな再燃。

 火は小さいようで、確かに強かった。

 これから先を照らすには十分すぎるほどに。

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