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第三部 第五章 外の音をつかむ日

 SOLEIL のステージに立つのは慣れてきたはずなのに、

 その日の空気は違っていた。


 昨日まではただの練習場所だった。

 今日からは──

 “外に出るための準備をする場所” になる。


 店長がステージの照明をつける。

 ライトの熱がゆっくり三人を包んでいった。


 「じゃあまず、いつも通り弾いてみな。」


 俺はギターを構え、

 遥は指先を鍵盤に置き、

 瑠美はベースを抱いて深呼吸した。


 三人で音を重ねはじめると、

 店長は腕を組んだままじっと聴いていた。


 1曲を通し終えると、

 店長は静かに言った。


 「……いいな。

  でも、外じゃこれじゃ足りない。」


 瑠美が驚いて目を瞬かせる。


 「足りない……?」


 店長はステージの奥を指さしながら続けた。


 「昨日言ったイベントの会場は、

  この店の──何倍もデカい。」


 言葉に重みがあった。


 「SOLEIL は音が壁で返ってくる。

  だから“内向き”の音でも聴こえるんだ。

  でも外は違う。」


 店長は手を広げる。


 「広い会場は、音が逃げる。

  薄くなる。

  届かない場所が出てくる。」


 俺は思わず息をのんだ。


 遥も腕を組んだまま黙り込む。


 「だから──

  その何倍もの広さに“届く”音を作らなきゃいけない。」


 瑠美が不安そうに小さく呟いた。


 「……どうすれば、届くんでしょうか?」


 店長は微笑んだ。


 「音を大きくすればいいって話じゃないんだよ。

  コントロールだ。」


 「コントロール……」


 「そう。

  音の“始まり”と“終わり”。

  強さと弱さ。

  三人の空気の合わせ方。

  それを調整できるようになれば、

  音は自然と遠くまで飛ぶ。」


 店長は俺たちを順番に見た。


 「蓮、お前の歌は“芯”がある。

  だから広い会場でも通りやすい。」


 「遥、お前のピアノは音が澄んでる。

  だけど外だと埋もれる時がある。

  鍵盤の“アタック”を意識しろ。」


 「瑠美、ベースは外だと一番大事だ。

  会場全体を揺らす“地面”になる。

  でも音を置きすぎると逆にぼやける。」


 三人とも真剣に耳を傾けていた。


 「いいか。

  SOLEIL で鳴らしてる音は“内側用”だ。

  外に出るには、三人の音を

  “届けるための形” に変えないといけない。」


 店長の合図で、三人はもう一度音を合わせた。


 さっきと同じ曲なのに、

 まったく違うものに感じた。


 遥のピアノは芯を持ち、

 瑠美のベースは深く沈み込みすぎず、

 俺のギターと声は前に伸びる。


 音が、確かに“前へ進んでいく”。


 曲の最後の音が消えたとき、

 店長は静かに言った。


 「……それだ。」


 遥が息を吸う。


 「……さっきより、音が遠くに飛んだ気がする。」


 瑠美も目を丸くして言う。


 「うん……自分の音が、

  お店の外まで届くみたいな感じ……」


 俺もその違いをはっきり感じていた。


 店長が言った。


 「これが“外の音”だ。

  三人はもう外に立つ準備が始まってる。」


 三人の影がステージに重なる。


 この日は、

 SOLEIL が初めて“外の世界へつながる場所”になった。


 外の音をつかんだ初日。

 ここから始まる。

この章について少しだけ。


この章で店長が語った

“外の音” や “音の飛び方” といった話は、

あくまで 僕個人の想像 です。


僕は音楽の専門家でも、

ライブハウス関係者でもありません。

ただの──本当にただの、

小説と音楽が好きなだけの人 です。


だからこそ、

「広い会場では音が逃げる」

「音をコントロールして飛ばす」

といった表現は、

僕の中で思い描いたイメージにすぎません。


もしかしたら間違っているかもしれない。

これから調べたり、勉強したりする中で、

いつか書き直すことになるかもしれません。


でも今は、

物語の中の店長がそう言ったなら、

それが“ユメトセツナ”の世界での

ひとつの真実 なんだと思っています。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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