第三部 第四章 小さな波の予感
翌朝。
目覚ましより早く目が覚めた。
昨日、店長が言った「来月のイベント」という言葉が
ずっと頭の中で反響している。
スマホを開くと、通知がいくつも届いていた。
《#SOLEILの三人組》
《昨日のバンド誰?歌すごくない?》
《顔出してないのに上手すぎる》
《次いつ聴ける?ほんとに》
思わず息をのんだ。
——まだ小さな波だけど、確実に広がってる。
昨日のライブを撮った動画が、
深夜から朝にかけてじわじわ伸びていた。
昼前、グループチャットが動いた。
《瑠美:SNSやばくなってきてるね……》
《遥:昨日のあの一発で、もう見つかり始めてるよ》
俺もすぐ返信した。
《蓮:いよいよ“外に出る”って実感わいてきたな》
遥からメッセージが入る。
《遥:そういえば、店長から連絡きた》
《瑠美:え?なになに?》
《遥:イベントの日程、決まったって
場所と時間も送られてきた》
画面を開く。
——本当に、決まったんだ。
昨日「出たい」と言った言葉が、
今こうして本物の予定になっている。
瑠美からメッセージが送られてくる。
《瑠美:なんか緊張してきた……
でも楽しみの方が大きい》
《遥:うん。
三人で外に行くって、もう決まってたことだしね》
俺もゆっくりと文字を打った。
《蓮:行こう。
三人で最初の景色を見に》
夕方、SOLEIL に集合した。
店長は、俺たちの顔を見るなり
ふっと安堵したように笑った。
「イベントの出演、正式に通ったぞ。
あとはお前たちが準備するだけだ。」
瑠美が深く息を吸って、
真っ直ぐ店長を見る。
「……ありがとうございます。
三人で頑張ります。」
遥も続けて言う。
「昨日、蓮が歌ってくれて……
三人でやっていく確信が持てました。
絶対に、外でも音を届けます。」
俺も頷いた。
「ここからが本番です。
だから、全力で準備します。」
店長は誇らしげに笑った。
「よし。
じゃあ今日から!
“外に出るための練習”を始めよう。」
ステージのライトが点き、
三人がそれぞれ楽器を手に取る。
まだ誰も知らない小さなバンド。
けれどその日、
たしかに“外へ向かう扉”が開いた。
小さな波は、
ゆっくり、だが確実に広がっていく。




