第二話
日常一
この日記を書き始めた理由は、僕が学校の男子数人からいじめを受けているからです。
昨日はお弁当が全部食べられたからとてもお腹がすいていたし、その前は僕が絵を描いていた大事なノートを燃やして消火しなきゃと言って水に浸し、わざとビリビリにされました。
毎日のように続くいじめは日に日にひどくなっていて、明日が怖くて仕方がありません。
どうかこんな日々が、人生が終わりますように。
胸の内に秘めて絶対に外に漏らさないように、昨晩も紙に書き留めて蓋をした。
母から教わった「人からされて嫌なことは自分はしてはいけないよ」という言葉を守り抜く為に、そして母に心配をかけないように笑顔を貼り付ける。
「おはよう、学校行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけてね。
遅くまで遊ぶのもいいけどたまには早めに帰っておいでね」
「…うん。わかったよお母さん、じゃあ行ってくるね」
登校中によく“意味”について考える、
ヒトはよく生きることに理由など必要ないと言った。
だが自分はどうしてもそうは思えなかった。
死ぬことにこそ理由など必要ないが、死なない為には苦しくても尚必死に掴み、もがく為の理由が必要である。
ならばそれこそが生きる理由になり得るでは無いだろうか。
では、僕の生きる“意味”は何なのだろうか。
まだ見つけられない、もしくは見つけられないことを怖がって探すふりをしている。
見つからないことを理由にしてゆらゆらとただ生きている。
「…今日は、……何をされるんだろう」
「ねぇ、」
不意に声がした
「!?」
透き通るほど綺麗な声
流れは決して弱くなくとも、泳ぐ魚がはっきりと見えるほど綺麗な川
そんな声だ
「ごめん、驚かせてしまった」
「い、いやっ!大丈夫!こっちこそごめんね、気が付かなかったよ」
改めてその少女の方に体を向けた
目が合った
白い
真っ白な髪
真っ白な肌
真っ白な服
例えるならばそれは、
まるで「天使」のようだった。
「ねぇ、質問してもいいかな。」
「あ、うん!いいよ。」
少し上ずってしまった。
それもそうだ
今目前にいる少女は、あまりに容易く年頃の男の子の初恋を奪い去れる。
そう思えるほど可憐な容姿をしていた。
「なら……」
ここら辺でこんな見た目の子は居なかった
道案内か、それともそれ以外か。
何にせよ最初の出会いは肝心だ。
この出会いをいい思い出として、或いは……きっかけになんてなってくれたりして──
「君はどうして罰を受けているの。」
──最悪だった。
彼女は僕がいじめられている現場を見ていたのだ。
「ぁ…えっと、その…」
あまりの衝撃で笑顔が崩れていることに気がついた。
ただ、もう遅かった。
落ちた。
自分の部屋以外で涙を流したのは、一体いつぶりだろうか。
また一粒落ちる。
止まらない、こうなってしまったらもう自分の手では止められない。
嗚咽が、声が抑えられなくなってきた。
──────そうだ、彼女。
さっきまで目の前にいたあの少女はどうなったのだろうか。
目を擦りながらゆっくりと少女の顔を見た。
「え…」
少女は理由も分からないまま
静かに涙を流していた。
少女は自分の涙に触れながら困惑しているようだった。
まるで初めて見た物を触って確かめる赤ん坊のようになんども、なんども目から流れ出ていることを確認して驚いていた。
彼女はあまりにも無垢であった。
そんな違和感を確かに感じながら、でもただ一つ僕の中で変化があった。
嬉しかった。
彼女になら、僕の苦悩を話してもいいかもしれない。
そう思えば、僕らの出会いは思ったよりも悪くなかったのかもしれない。