第一話
「また。」
記録一
また目をひらく。
同じ朝を迎え、同じ服を着て同じ作業をこなす。いつも通りの一日だ。
周りのみんなはこの天使の仕事にやりがいを感じているらしいが…私は少し、いやとても窮屈で息苦しいとすら感じてしまっている。
天使の仕事は至って単純、下界に屯う生物を監視し、罰を与える。それが正当であるかなんてものは関係無く無作為に選ばれた生物がそれぞれの罰を受けるのだ。
これを黙々と、粛々とこなす者も居れば
形容し難い下劣な笑みを浮かべて行う者も居る。私はどれも理解が出来なかった。
百二十と数年ほど先輩の天使から「上手くできないのか。」と聞かれた。
「いえ、ですがなぜ罰を与えなければならないのでしょうか」
「…何を言っているんだ?それが俺たちの仕事だろう。どんな罰がいいのか分からないなら見せてやろうか、あそこの人間にしよう」
先輩の指さす先を覗き込んだ。
落ちた。
建物のあれは何階だろうか、小高い所から不自然に足を踏み外して落ちたのだ。
もがき苦しんでいる、どうやら死んではいないらしい。
苦悶の声を上げながら地を這い何かを取ろうとしているが、先輩はそれを見るなり重ねて罰としてその四角い物体を破壊した。
「どうだ、分かったか」
横を見ると、先程まで隣にいた人物の面影など残らぬほど、到底健常であるとは思えないほど歪んだ笑みを浮かべていた。
「……はい。重ねて質問をしても良いでしょうか」
「あぁなんでも聞いてくれ、俺はお前の百二十四年と四ヶ月先輩だからな」
「なぜあの人間だったのですか」
「あれは良くないやつだったか?」
「いえ、単純な疑問です。あの人間を選んだことに理由があったのかな、と」
「なんだ、そんなことか
人間の反応がいちばん面白いだろう。それだけさ」
「……分かりました、ありがとうございます」
分からなかった。ただ、
その現場を目撃して尚表情一つ変えなかった自分も、はたして健常であると言えるのか分からなかった。
先輩がその場を離れてからも、あの表情とあの言葉が脳裏を反芻した。「人間の反応がいちばん面白いだろう」そう言いながら罰を与えていたあの人も、きっとこの仕事が好きで仕方が無いのだろう。
そんなことを思いながらしげしげと人間の様子を眺めていたら、とある集団に目が止まった。
何人もの人間が一人の人間を囲い、罰を与えている。
なんども罰を、次から次へと。
飽くまで延々と、
罰を与えていた。