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エッセイ

和食レストランで買った猫のおもちゃ、もうすぐ15歳。

作者: シサマ


 それは今から15年も昔、2010年の3月末……。


 

 当時京都でフリーターをしながら続けていたロックバンドの解散が決まり、メンバーやファンを集めた食事会が、私のマンションの近くにある和食レストランで行われました。

 メンバーは皆すでに30代になっており、各々が帰省や婚約、昇進を機にバンド活動からの遅い卒業を決め、私も1年後を目処に地元に帰る決意を固めていたのです。


 当時、男性陣で唯一運転免許を持っていなかった私に配慮してくれた会場選びでしたが、私はこの機会にとあるものを手に入れようと心に決めていました。



 物価高と収入がなかなか釣り合わず、庶民の多くが苦しめられている昨今。

 この時代、「和食レストランチェーン」も苦しい経営を強いられています。


 これといった看板メニューがなく、中途半端に洋食も扱っていてこだわりが感じられず、価格もファミレスやラーメン屋さんと比較すると高い。

 そして何より、ハズレは少なくてもめっちゃ美味しいメニューもないですよね(笑)。


 ただ、比較的高齢な客層をターゲットにした店の造りは落ち着いていて、お昼時以外は混雑が少なく大人数の予約も取りやすい。

 そんな和食レストランの雰囲気が好きで、私は交通費をかけない「たまの贅沢」に利用していました。



 当時は味とコスパの良さで『ネギトロ丼』をよく食べていたのですが、その和食レストランチェーンにはレジの下に「おもちゃを売っている棚」があるではありませんか。

 高齢のお客さんが、一緒に来たお孫さんに買ってあげるんだろうな……程度に微笑ましく眺めていたのですが、そこに気になるブツを見つけてしまったのです。


 それは1000円くらいで売られている黄色い招き猫のおもちゃで、光を浴びると太陽電池で首と片手が動く仕組み。

 その可愛らしさに魅せられてしまった私は、その後も和食レストランを訪れ、お会計のついでに買おうと何度もチャレンジしたのですが、いい歳した男がひとりで猫のおもちゃを買うハードルは当時、余りにも高かったのでした……。



 そんな過去がありつつ、解散食事会当日は全く悲愴感なしに楽しく進行。

 私の隣には、私が書いた詞や曲のファンだった女の子が座ってくれたのですが、独身のまま特にモテない今思い返してみると、とても幸せな事だったのですね(涙)。


 そしていよいよ会計、解散の瞬間が近づいた時、その女の子が猫のおもちゃに気づいて、「あっこれ可愛い!」と言ってくれたのです。

 まさに千載一遇のチャンス!


 私はすかさず、「いいよ、買ってあげるよ」と紳士ヅラしながら、ちゃっかり2個購入(笑)。

 たった2000円で、ファンの女の子に喜ばれながら念願成就するという高コスパ体験をしました。



 バンド解散後、私は京都での気ままなダメ人間暮らしにピリオドを打つために動きます。

 東日本大震災で被災した兄夫婦への援助で予定が少しズレたものの、マンションの近くにある教習所で運転免許を取得したのち、2011年10月に地元の北海道釧路市へ帰還。

 

 その後も紆余曲折はありましたし、京都時代のバンド仲間のその後と比較しても冴えない方かと思いますが(笑)、50歳になってようやく社会人として認められてきたのかなと実感しています。


 猫のおもちゃも私の帰還にあわせて北海道に上陸し(笑)、似たセンスを持つ母親や兄夫婦にも好評を得て実家の玄関前に置かれ、もうすぐ13年半。

 京都時代から数えると、もう15歳になろうとしているんですね。


 安いおもちゃだけに太陽電池が弱っていて、今では首と手を振る動きも随分ゆっくりになりました。

 

 でもそれが、むしろ現実の猫の様な愛おしさを醸し出しています。

 つまりこの13年半、社会人としての私の悪戦苦闘ぶりを玄関先でいつも出迎えてくれているのですからね。



 たかが1000円のおもちゃなんですけど、出来るだけ長生きして欲しいなと切に思います。


 

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― 新着の感想 ―
思い出の招き猫(*´ω`*)
素敵なお話をありがとうございます(*´▽`*) めっちゃ泣ける( ノД`)シクシク…
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