寝言
「ただいま。」
俺は小声で家に入った。
「おかえり。今日も遅かったわね。」
妻が玄関まで出迎えに来てくれた。
「優菜は?」
「先に寝ちゃったわよ。」
「そうか…。」
6歳の娘の寝顔を見に寝室に向かう。
娘は気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「今日も頑張ってきたよ。」
小声で呟くと優菜は寝返りをうちぼそっと言った。
「パパ、公園楽しいね。」
くすっと笑ってしまった。
日々の激務も娘の寝顔とこの寝言を聞ければ乗り越えられる。
娘を守るためなら何でもできるような気がしてくる。
ありがとう。
パパはいつもお仕事で帰って来ない。
朝起きるとお仕事に行ったってママが言うの。
夜も一緒に寝たいからお絵描きしたりして待ってるのにパパは帰ってこない。
ママにもう寝なさいって言われてもパパを待ちたいって言ってママと一緒に待ってるけどいつも眠くなっちゃって寝ちゃってるの。
もっとパパに会いたいのに…。
お仕事がお休みの日は朝起きるとパパはだいたい寝てる。
ほっぺたを引っ張っても、揺らしても全然起きてくれない。
早く遊びたいのに…。
パパはうっすらと目を開いて私を抱きしめた。
「優菜…。寂しい思いさせてごめんね。大好きだよ。」
パパがぼそっと呟いた。
嬉しくなって私も大好きだよって言ったのにパパはまた寝息を立てている。
パパと公園に来た。
私が走り出すとパパは荷物を持ちながら一生懸命追いかけてくる。
「優菜ー!パパからあんまり離れないでー!」
そう言いながら走ってくるパパを見ると楽しい気持ちになる。
私が行きたいところに全部ついてきてくれて一緒に遊んでくれる。
途中でお仕事の電話がかかってきたみたいで嫌な気持ちになったけどチラッとパパはこっちを見てすぐに電話を切った。
「パパ、お仕事なの?」
「ううん。今日は優菜と遊ぶ日だからお仕事は無し!」
そう言ってパパは笑いかけてくれた。
私は嬉しくてパパの手を強く握ってブランコに向かった。
旦那と娘が一日中遊んで帰ってきた。
美味しそうに昼ごはんを食べたと思ったらそのまま二人とも昼寝をしてしまった。
片付けをしようとするとぼそっと声が聞こえてきた。
「もっとたくさん遊ぼうね。」
「うん。大好きだよ。」
「優菜も大好きだよ。」
寝言でも会話をしている二人に少しの妬ける気持ちとずっと見ていたい幸せな気持ちを感じながら眺めた。