第六話
マディアが大事に大事に育てた成果があり、シファラは推定12歳になると、ずいぶんほっぺがぷくぷくになった。
スタイルも年相応で、さらに人より美しくて、ばっちりだ。
「さすが、マディアだ」
リュートによく褒められる。
そういうとき、マディアは誇らしいと同時に連れてきただけのリュートがかわいそうになる。シファラを育てるのはとても楽しかったからだ。
「マー、シファはお庭に行きたい」
マディアはそろそろ家庭教師を付けることを考えている。
あと少し自由にさせてあげたい。
シファラはトルドの影響なのか、庭が好きだった。そして、誰にも言わないが、絵を描くのが好きらしい。
実際、シファラの絵は素晴らしかった。
とても12歳の描く絵ではない。
もう少ししたら、王宮絵師に選ばれてもおかしくないレベルだと、リュートも言っている。
リュートは王宮の武官だが、文官にひけをとらない知識の持ち主であるため、宰相に重用されている。
だから、シファラにはコネがあるのだ。
リュートが口を聞けば、シファラの絵は即国王に献上されるだろう。
「国王陛下も泣いてしまうかもしれない」
リュートはかつて、シファラの絵の前で、止まらない涙に困ったことがある。それは、トルドもマディアもだ。
シファラの絵は心のうちの深いところに届く。気がついたら、泣いているほどに。
シファラは表現するということに飢えている。やはり、シファラの特殊な生い立ちは無関係ではないだろう。
シファラの絵は素晴らしい。でも、一般常識もそろそろ必要だ、とマディアは思う。淑女として振る舞えるのは大事なことだ。
所作、表情、食べ方飲み方、おじぎ、外国語、詩。マディアがシファラに習ってほしいことはたくさんある。王宮絵師になるにしても知識は不可欠だ。
マディアの大事なシファラが小さな事で恥をかくなんてありえない。
でも、シファラにはもう少し、自由な時間が必要だ。体はだいぶ戻ってきたが、心はまだ育ち切っていない。
夜中に泣きながら、マディアの部屋の前まで来ることもある。