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うちの上司シリーズ

うちの上司 4

作者: sapom

私の上司は社歴20年。4歳年下。




上司と2人で職業訓練校に会社説明…不安しかない。当時の私は入社半年。ようやく会社に慣れて、仕事も一人でできることが増えてきた。上司とは基本挨拶しかしなかった平和な頃の日常一コマ。




とうとうこの日がやって来た―――。


一週間前―――


社長「上司と下っ端(私仮)で〇〇に会社説明に行って来て。」


オィオィオィオィ、社長マジカヨ?

上司は挨拶すら人と目を合わせられないコミュ障だぞ?

業務の説明だって私にしたことない(逆に聞いてくる)のに、いったい何をさせる気だよ?


私は思った。

今回何が起ころうと上司に非はないと。(ウソ、あるある。だって社歴20年だぜ?!)

人選を誤った社長が全て悪いんだと。


優しい先輩たちは

「ドンマイw」

「元気だせ!何とかなるw」

「帰って来たら話聞かせてねー!」

完璧に他人事だった。


私は会社説明会に行くにあたって覚悟を決めた。

・爆笑しない。(現場で何があっても。)

・上司云々ではなく、新入社員獲得に全力を注ぐ。(私も後輩が欲しい!)

・上司が会社説明会の打ち合わせに来たら優しく対応する。(馬鹿なことを言ってきても)

以上3点。



…予想通りというかなんというか。

上司から会社説明会の準備指示や打ち合わせ等の声掛けはなかった。社長からもなかった…。オワタ。


私は前職で何度か会社説明会を開いていたので人前に立つこと自体には慣れてはいるが、新入社員を獲得するには会社の方針を知り、それに則った魅力を語らねばならない。そうしないと入社後、「話が違うっ!」ってなっちゃうからね。

いったいうちの会社(社長)は上司に何をさせる気なんだ…。

上からの指示も何も無いので、私は一週間、日々の業務をこなしながらヒッソリと万が一に備えて準備を整えた。



―――会社説明会当日

まずは普通に会社に出社する。会社を出るのは大体1時間後だなぁ…私は1時間でできる作業の段取りを組み立てながら朝の挨拶を…「おはようござい…ます?」

???

社長と上司がデカい紙袋に何十年も前に作られた自社製品をツメツメしている…。

そのツメツメされている製品達は、今はもう、うちの会社で作れる人がいないものばかりだ。

まさかあれを持って…いやでもそれならばいったい何を説明するんだろ?


覚悟を決めたと思っていたのにまだ甘かったようです。(白目)


私「それでは行ってまいります」

上司「い、い、いいってきます」


「「「いってらっしゃ~い!!ニヤリ」」」


イジメか?



ついに始まってしまった。


私「上司、車を回してきますのでお待ち下さい」

上司「わ、わわわかりました」


小走りで社用車まで行き運転席に乗り込む。

エンジンをかけ、ちょっと行きたくねーなーと思う気持ちにフタをしてアクセルを踏み込む。


私「お待たせしました」

上司「し、し、下っ端さん、よ、よろしくお、お願いします」


あとは…無心で目的地まで車を走らせるしかない。

何故なら助手席で上司がぐりんぐりんと上半身(シートベルトで固定されない箇所)を回転させながら爆睡しているから。

会社を出てから約5分の出来事でした。


会場になる職業訓練校に近づいた時、私はわざとブレーキを強めに踏んだ。

ガクンっと私自身にも負荷がかかる。

上司はダランと前方へ身を乗り出し、シートベルトさんの力を借りてシートへ戻ってきてその衝撃故か薄目を開けた。


すかさず声をかける。


「もうそろそろ着きますが、コンビニに寄りますか?」私は暗に目ん玉覚ませよの意で言ったのだが、上司には伝わらなかったようだ。

上司「こ、コンビニ、に寄りますか、あ、あ、は、はい、わかりました」


いや、私命令したんじゃなくてお伺いを立てたんだけどな。


とりあえずコンビニに寄って、私は自分へのご褒美にあたたか〜いレモンティーを買って車へ戻った。あったまるわ〜。

上司はトイレへ行き、何も買わずに出てきた。

このトイレ泥棒ヤロウ!(失礼)

私は心の中だけで叫び、あらためて職業訓練校に向かった。



…そこからも本当に酷かった。


まず車を降りて正面玄関に向かう。向かいながら私はコートを脱いだ。上司はそのまま(作業着のようなジャンパーを着たまま)だ。おいっ?大丈夫か?そのまま担当者さん玄関にいたら失礼なんだぞ?知ってるよね?知らないのかな?

何故か私が上司の前を歩きながらチラチラ後ろの上司に目をやるが、上司はオドオドしながら私の後ろに隠れるように着いてくる。私はその姿を尻目にスーツのポケットに入れた名刺入れを取りやすい位置に直し、カバンとコートを見栄え良く左腕にかけた。

玄関に着き、上司の為にドアを開けてどうぞと促す。

上司が中に入る。そしてフリーズ。

バッと振り返り、私に言った。


「し、下っ端さん…ど、ど、どうしたらよいですかっ?!」


?!

なにが?!

どこで困ってますか?!


たぶん?どうやら?


上司は靴を脱ぐ→スリッパをはく


を新規の場所ではできないようだ。


私は無言でパンプスを脱ぎ、お客様用と書かれた靴箱にしまう。同じくお客様用と書かれた棚から上司と自分のスリッパを出して床に置き、さっさと履いた。


事務室に行き要件を伝えると、連絡を受けた担当者さんがすぐに来てくれた。上司もギリギリ私の横にいる。良かった、間に合った…私はここで少し気を抜いた。抜いてしまった。

担当者「ここは少し寒いのでご挨拶はあちらで…」

「あ、はい」私はポケットに入れようとしていた手を自然に戻して担当者さんに着いて行った。上司を置いて。


あ、と気づいて背後を見る。

…何故たたずんでいるの上司よ。

他社で何をしているの上司よ。

あん?寝、寝てる?!

やべー!!私はススススと後戻りし、上司の肘を掴んだ。

覚醒した上司に今の状況を小声で説明する。

私「担当者さん来てます!移動してから挨拶になりますからよろしくお願いします」

上司「他、担当さん…は、は、はいっ!!ありがとうございます!」(めっちゃデカい声)


先を歩いていた担当者さんが振り返りどうしましたか?といった顔で見ていたけど、私は笑顔で「何か?」みたいな、そんな雰囲気を醸し出し担当者さんの訝しげな視線をスルーした。


小会議室のような部屋に通され、担当者さんは私に名刺を先に渡す素振りをみせた。私はスッと半歩下がりさりげに上司を前に出す。あからさまに上司を役職で呼んでみたりする。ハッとする上司…あー!!貴方の名札と名刺入れジャンパーの中じゃね?!ってかまだ着てたのジャンパー!バカバカ上司の馬鹿!

常識知らねー会社だと思われたら訓練生回してもらえなくなるじゃん!

私は上司に目で訴えつつも、担当者さんに近づき自分の名刺を差し出しながら朗らかに言い放った。

「申し訳ございません、こちら弊社の〇〇、上司なのですが、ほんの、ほんの少しだけ風邪気味で、しかしどうしても御社の訓練生と交流を持ちたい、疑問があったら先達として答えたい、ということで参った次第でして…」

長々と説明(時間稼ぎ的言い訳=嘘)している間に上司の準備が整った。

担当者さんはとても良い方で、私の適当なウソ

「体調すぐれない中、わざわざありがとうございます!」って感動までしてくれてる。

上司の万年マスクが効いたのかな?

うちの上司、マスクと瓶底黒縁メガネで素顔がさっぱりわかりません。

ようやく、ようやく挨拶の名刺交換が終わり、その後の時間配分等の説明を受けて「では5分後に教室の方へ…」と一旦担当者さんが部屋を出た。

上司をチラ見してみる。


?!


寝んのか?!

駄目だよ?!


私「上司!」

上司「は、は、は、はいっ?!」


いや、あんたそれどもりじゃなくて、寝ぼけじゃねーか!


私「お持ちになった資料等あれば私が荷物持ちしますからご指示下さい。配布用もありますか?」

上司「あ、あ、なんか良くわからないんですけどぉ、社、社長がこれ、持って行けって、い、い、言ってましたぁ」

私「良くわからないってどういう?社長はなんとおっしゃっていたのでしょうか?」

上司「あ、あ、言ってることが、よ、よ良くわからないんですけどぉ、社、社長がこれ、持って行けって、い、い、言ってましたぁ」

私「社長に言われたから持ってきたけど、これらがなにかわからないということですか?」

上司「社、社長に言われたから…も、持ってき、た…は、はい、そうです!」


うちの上司は何故かこちらの言葉を復唱したり、同じ言葉を輪唱の様にかぶせてくる癖がある。



…ダメだコリャ。

ヤバい、片腹痛し。オモロ。



私「どうするんですか、説明会始まりますけど」

上司「せ、説明会が始まる…ど、どうすればよ、よいですか?あ、あたし、や、やったことないからわからないんですけど」


いや、質問したのはペーペーの私なんですけど。


私「社長からの指示も上司からの打ち合わせもなかったので、私はサポートか運転手か、勉強のために連れてこられたのかと…」

上司「社、社長からの指示…う、打ち合わせ…す、すみません、今日の準備忘れてました!」


うん、いや、知ってるよね、さっきからだから質問したの。

上司ー、しっかりしてくれよー。面倒くさい。


私「わかりました。勉強のために私にやらせて頂いてもよろしいでしょうか」(棒読み)

上司「あ、べ、勉強の、ため…あ、はい、よ、よろしくお願いし、します」


あー資料作っといて良かったー。


社長が準備して上司に持たせたのは、我が社が誇る(先代の)特許技術を駆使した商品(古い)と自社のカタログ(営業が持ち歩くやつ)のみ。

私は入社してからこれまでに思ったQ&A冊子と業界用語集(下っ端作・必ず覚えなきゃなやつ)、あると便利な手作り早見表(業界でしか使わん便利なやつ・お土産用)を最大限に利用し、何とか1時間を乗り越え、最後の質問コーナー30分を

業界半年の付け焼き刃知識でノラリクラリし、お土産用早見表で機嫌をとって大喝采の中退室した。


あー、上司?

田んぼのカカシって役にたつのかな?

って感じで立ってた。

寝そうになってた。

その都度質問の答えを上司に振ったよ。

一番最初にこの方は業界歴20年のベテラン!プロフェッショナル!職人です!って言っといたから、上司がボーって立って目を瞑っていても訓練生からは何か考えてる風に見えるだろうし、上司は上司で質問に答えなきゃ恥ずかしい思い(だってキャリア20年だよ?!)するからね!なんとか答えてた…自社カタログみながらw


訓練校からは感謝され、また是非と言われながら帰途についた。

上司「し、下っ端さん、きょ、今日はありがとうございました!あ、あたし会社説明会、は、初めてで!す、すみません!」

私「初めてなら尚更打ち合わせ等必要じゃないですか。私が言うのもおかしいんですけど、なんで初めてでなんの準備もなく出来ると思ってたんですか」

上司「う〜、う〜、あ〜」


うちの上司、唸りだすともう会話にならない。

それは入社してから4年目の今もかわらないけど、昔と違うことは…

唸りだそうがなにしようが、はっきり返答するまで逃さないようにしたこと。


社長への報告…上司がするから自分がカカシやってましたとは流石に言わなかった…どころかなんか問題なく終わったと思わせたみたい。


私の上司は嘘つきで…

ホントに変わってる。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  1から読んでますが、毎回予想の遥か上(下?)をいく『上司様』ですね。 [気になる点]  なぜこの方が上司(管理職?)をしていられるのか。 [一言]  お疲れ様でした。
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