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「さて、こちらまでご足労いただき、感謝する」

ディビッド・ライト公爵は全く感謝など感じさせない冷たい声色で、フライアン侯爵夫妻を迎えた。

見るからに歓迎していない事がわかるのに、何故呼ばれたのかわからない。

カーネルは落ち着きなく視線を泳がせひたすら汗を拭き、キャロルはクラブで働いていた頃を彷彿とさせるような媚びた視線を向けている。

だが次に発せられた一言で、二人の顔が青ざめた事は言うまでもない。

なんせ、行方不明中の長女の事なのだから。


「数日前、ユスティア嬢が領地から戻って来られたと思うのだが、今はどちらにいらっしゃるのか?」

二人はギョッとしたように、身体を固くした。

「フレデリカ様とのお約束で、王都に戻られた際は我が公爵家が後見になる事になっていたのだ」

初めて聞く事に二人は「えっ!?」と叫んだ。

だがディビットはそんな彼らを無視し、さらに問う。

「再度お聞きする。ユスティア嬢は今どちらに?」


二人は青を通り越し白くなった顔色で俯き、握りしめた己の手を見る。

答えられない・・・

答えられるわけがない。

彼女がどこにいるかもわからないのだから。

ただ震えながら沈黙する二人に、ディビッドは、これ見よがしに溜息を吐いた。

「あなたたちが答えられない事は、はじめからわかっていた」

ハッとしたように顔を上げれば、そこには冷たい目をしたデイビッドが二人を睥睨していた。

「何故なら、家を出た彼女を今まで探しもしなかったのだからね」

その言葉に、大きく震える二人。

「まずはユスティア嬢の事を、あなた達に教えてあげようか。それを聞いた上で、あなた達が何をしたのかよく考えるといい」


そう言い、ディビッドは彼女が生まれ落ちたその時からの、彼女の立場を明かした。

「ユスティア嬢はフレデリカ様の祖国で王位継承権を持っておられる」

思いもしなかったディビッドの言葉に、二人は衝撃を受けた。


―――ユスティアに王位継承権?

カーネルは只々驚くだけだったが、キャロルの胸中は違った。


あのババァの国だって?王位継承権だって?あぁ・・・王族だって!?

何てこと・・・・ただの生意気なだけのガキだと思っていたけど・・・あれに王位継承権があるのなら、息子であるカーネルや同じ孫でもあるライラだって持ってるはず!


カーネルが王位継承権を持てば、例え末端であっても王家に連なる者となる。

ましてや嫌っていたとはいえ、フレデリカは第一王女だったのだ。


今の国王はババァの弟のはず・・・

その息子が国王になれば・・・多分、カーネルと同じくらいの年齢のはずだったわ。

だったら、側室だって夢じゃないわよね。

侯爵夫人ってだけでもこれだけ煩いんだもの。王妃なんて無理無理。

気楽に過ごせる側室が良いわ。もし、年頃の王子なんていたら、それこそお愉しみじゃないの!


自分の思い通りになると、本気で信じているおめでたい脳内では、まだ見ぬ次期国王の傍に寄り添う自分の姿を想像して口元が緩む。

そのめでたい妄想に近づくには、ユスティアではなくライラに王位継承権がなくてはならない。


「ならばっ!ライラにも、ユスティアの妹であるライラにもあるのでは!!」

食い気味にディビットに期待の眼差しを向けるも、彼の表情には何の感情も見受けられない。

「それは無い。ユスティア嬢一人だけだ」

「なっ!何故あいつだけにっ!!」

激昂そのままに立ち上がり、テーブルに激しく手をついた。

その衝撃で、カップがガチャガチャと音を立てる。

あまりに無礼な態度にカーネルは呆然とし、キャロルを宥めようと腰を上げる同じタイミングで、ディビッドの底冷えするような声が真実を紡ぐ。

「それは夫人、あなたと結婚した為に王位継承権を辞退せざるを得なかったのだよ」

「え?・・・私?」

「他国に嫁いでも、フレデリカ様は王位継承権を放棄しなかった。その身を守る盾は幾つあってもいい。子や孫にも選択肢があってもいいと」

フレデリカは本来、息子にも王位継承権を持たせようとしていた。

「カーネル殿には選ばせるつもりだったのだ。そんな時、夫人と結婚された。その時点で、王位継承権を持たせる選択は無くなった」

「な・・・何故、私との結婚がそんな事に・・・」

キャロルにはわからなかった。何故、自分との結婚がそういう選択になるのかが。

そんなキャロルをデイビッドは、軽蔑したように見つめる。


「わからないとは・・・今現在見せた態度で十分だと思うがね」

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