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―――あぁ・・なんで、俺はここに居るのか・・・・

カーネルは心の中で呟いた。

公爵から発せられた一言に、これまで目を逸らしてきた事の重大さに、血の気が失せるという感覚を初めて味わっていた。



妻キャロルとは高級クラブで出会い、周囲の反対を押し切り結婚した。

傾国並みの美貌を持つ母と凡庸な父との間に生まれ、周りからはよく「侯爵様に似たのね」とがっかりされていた。

だが、人は外見ではないと、父であるエイトのすばらしさを説く母はとても幸せそうで、それほど劣等感を持たずにまっすぐ育った事は両親の愛情のおかげといえよう。

本当はフレデリカの薦める縁談もあったのだが、キャロルと出会い彼女を選んでしまった。因みにそのお相手となるはずだった女性は、今ではライト公爵夫人である。


逃がした魚の大きさに気付かないカーネル。それが破滅への始まりだった事も知らず・・・・


両家から猛反対をされていたが、それをねじ伏せ結婚した二人。

だが、結婚してほどなくして二人の間には距離ができはじめる。

徐々にカーネルが冷静になり、理性を取り戻した事により、付き合っていた頃には感じなかった、彼女の言葉遣いや態度に疑問を感じ始めたのだ。

腐っても彼は貴族だ。しかも母親が元王女という、彼に施された教育もかなり高度だった。

だが、キャロルと出会った事で全てが無駄になってしまったのだが。


始めからわかっていた。

結婚して間もなく、カーネルは現実を理解してしまっていた。

彼女は自分ではなく、金と権力目当てに自分と結婚したという事を。

後から知ったのだが、色んな男との身体の関係が原因で店をクビになりそうになり、そんな時にカーネルと出会ったのだと。

始めから、愛情などない体のいい避難場所の様な扱いだったのだ。


そんな彼女が妊娠した。

正直生まれた子の顔を見てホッとしたのは、何も親達だけではない。

夫でもある自分もそうだった。特にユスティアの顔を見た瞬間「自分の子だ」と安堵したことを覚えている。

そのユスティアを嫌い、ライラだけが自分の娘だと豪語する妻を、化け物にしか見えなくなって、愛情などとうに消え失せてしまった。

母を愛していたカーネルは、母に似たユスティアを愛していたのだから。


ユスティアを守ろうと動くものの、いつも裏目に出てしまい、ユスティアに辛い思いをさせてしまう。

ならば離れたところで見守ろうと、父と母にユスティアを託したのだ。

だが、起きてしまった今回の暴力事件。

家令からユスティアの姿が見えないと報告を受け、頭を抱える。

この事は公にはできないと、カーネルはごくわずかな使用人にユスティアの行方を探らせていた。

そして、妻に事の次第を問い詰めれば、親というより人としてあり得ない言葉を吐く。

「あんなの、死んでしまえばいいのよ。私達は三人で家族なんだもの」

醜く口元を歪ませ笑う妻に、カーネルはただ絶望に目の前が真っ暗になる。


この女に騙されたせいで、俺は最愛の両親を失い、愛する娘もこの腕に抱く事も出来ず、世間での信用さえ無くしてしまった。

騙された自分が一番悪い・・・すべては自分が悪いんだ・・・・その所為で愛する両親を悲しませ、絶望させてしまった・・・


何度後悔しても時間は戻ることは無い。

このまま毒婦を放置するのではなく、何らかの対処をしなくてはいけない。

自分が招いた事態は、自分で責任を負わなくてはいけないのだから。

そうは思うのだが、尊敬する父を亡くし、最愛の母を亡くしたその時からカーネルは殻に閉じこもり、全てを拒絶するように仕事に没頭し家の事は家令に任せきりにしていた。

そしてそのツケが、今こうして回ってきたのだ。


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