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人滅9:他種族の補佐官

 エルフ族の2人が種族の立場の表明と補佐官の紹介を終えて席に座ると、ジュリオと全身を覆うような長い緑色の髪の女妖精が立ち上がってこれに続いた。


「僕たち妖精族も『賛成』の立場だよ。補佐官はバンシーのロレイン」

「私、ロレイン、よろしく」


 ブレットと長いギザギザ鼻が特徴的な魚人が彼らに続く。


「俺たち魚人族は『反対』の立場だ。補佐官はノコギリザメのデクスターだ」

「魚人国軍左将軍のデクスターです。お見知りおきを」


 次は天使族の番だ。オッポネンと端正な顔立ちの眼鏡をかけた若い天使が立ち上がる。


「我々天使族は『反対』の立場だ。補佐官は熾天使のマルコ」

「マルコです。天使の国では司法官を務めています」


 最後にアマンダと、栗色の髪の間から生えた巻き角が特徴的な薄暗い青色の肌をした女性が続いた。


「私たち悪魔族は『反対』の立場よ。補佐官は……」


 言葉を切ってアマンダがパチンと指を鳴らすと、女性に生えていた角は消えて無くなり、肌の色も青から肌色へと変貌していった。


「補佐官は人間族のカルラよ」


 アマンダが彼女の正体を明らかにした瞬間、騒然とする会場。


「人間族だと!」

「悪魔族は何を考えているのだ!」


 特に魚人族と天使族の動揺は大きく、彼女を責め立てるように口々に言葉を発していた。


「静粛に! 静粛にお願いします!」


 メルフィーナは必死に呼び掛けたが、一向に場が静まる気配はなかった。


 しかし突然、耳を裂くような高い音が響いたことで、悪魔族への非難はかき消された。耳を塞ぐ会場の面々。音が鳴りやむと、その音の発生源と思しき付近にいた人物が激しい怒気を帯びた声で告げた。


「……少し、静かにしようか?」


 ジュリオである。彼は少し間を取って怒りを内に押し殺し、普段の楽天的な調子に戻ってから続けた。


「さ、これで全種族の立場と補佐官の紹介は終わったね。それでメルフィーナ、次は何をやるのかな?」

「……後は、質疑だけです」

「じゃあ最初に僕からいいかな?」

「どうぞ」


 ジュリオはメルフィーナの方へ視線を向けて質問を始めた。


「じゃあメルフィーナに質問だけど、他種族を補佐官に任命するのはルールには反していないのかい?」

「いえ、誓約の指輪の内容には協力者に関して種族の制限は元からありませんでした。補佐官に他種族を任命することは何も問題ありません。現に私達エルフ族もエルフ国の民とはいえエルフと人間のハーフを任命しています」

「そっか、最初からそのつもりで君はルールに穴を設けておいたのかな?」

「……それはこの会議の趣旨から外れた、個人の思惑を探るための質問です。お答えできかねます」

「意地悪な質問だったね。じゃあ、もう1つ。次は悪魔族」


 そう言うと、ジュリオはアマンダの方へ視線を向けて質問を続けた。


「悪魔族に質問だけど、よりによってエクスターミネーションの対象である人間族を補佐官に指名した理由を聞かせてもらえるかな?」

「知らないところで自分たちの滅亡が決まるなんて可哀想でしょ?」

「仮にその人間族1人が知ることになっても、誓約の指輪の制限で他の人間族がこの内容を知ることはできないはずだ。その娘が無駄に苦しむことになるだけだよ」

「それについては心配いらないわ。彼女はそんなにやわじゃない。それに人間族がこの場にいることはこの集まりにとっても有益なはずよ? だって、仮にエクスターミネーションが執行される段階になって、審議に人間族も関わってたってことが公になれば、他種族からの批判も少しは和らぐかもしれないでしょ?」

「……これ以上、君に何かを聞いても埒が明かなそうだね、じゃあ、最後に1つ」


 ジュリオはアマンダの横に座っていた人間族の娘、カルラに目線を向けた。


「人間族の娘。君はどういう立場でこのプロジェクトに参加するつもりなのかな?」

「魔王様とアマンダ様は我々人間族の滅亡に反対の立場を取られるとおっしゃってくれています。私はそれが覆ることがないよう努力するつもりです」

「なるほどね。メルフィーナ、もうプロジェクトは解散でいいよ。どうやっても悪魔族が賛成に覆ることはなさそうだ。仮に他の4人が賛成しても、全会一致が必要になる3回目の臨時会議で悪魔族が否決して、それで終わりさ。時間の無駄だよ」


 ジュリオのこの訴えに一番早く反応したのは意外にもアリシアだった。


「それは分からないと思うの!」

「人間の次は半分人間の君か。何がどう分からないんだい?」

「世界しゅみれーたーだと……」

「―――シミュレーターだよ」

「そ、そうシミュレーター! 世界シミュレーターだと悪魔族さんは1番最初に人間族さんに滅ぼされることが多いの。だから、それを理解してもらえれば悪魔族さんももっと真面目に考えてくれるようになると思うんだけど……」

「……プッ、これは傑作だ! アマンダ、君たちが一番最初に人間族に滅ぼされるんだってさ。それを必死でかばってるのが君たち自身だ。もし本当にそうなったら、とんだ笑いものだろうね」


 アマンダが血相を変えてこれに反応する。


「ジュリオ! それに銀髪ハーフエルフ! あんたたち、覚えておきなさいよ!」

「おー怖い。ほら、おばさんが血相変えて睨むから彼女も怖がってるよ。それに銀髪ハーフエルフじゃなくて、ちゃんとアリシアちゃん、って呼んであげなよ」

「さっきまで半分人間なんて言ってたのはどこのどいつよ」

「そんなこと言ったっけ? まあ何はともあれアリシアちゃん、僕は君のことがすごく気に入ったよ。君に免じて『プロジェクトは解散でいい』って言った発言は取り消させてもらう」


 ジュリオの言葉にアリシアが不器用にお辞儀を返してその場が収まったことを確認すると、メルフィーナは進行を続けた。


「それでは、他に質問がある方はいらっしゃいますか?」

「聞きたいことはだいたいジュリオが聞いてくれたから、私は交友を深めるためにそろそろ宴会に場を移すことを提案したい」


 と、いたって真面目な顔で不真面目な発言をしたのはオッポネンだった。それに対してブレットが反応する。


「爺さんは早く酒が飲みたいだけだろう? まあ、俺もこの場で聞きたいことは特にないし、交友を深めるってんなら酒の場で話した方が話も弾むだろうから爺さんに賛成だな」


 アマンダは先ほどのやり取りで少し機嫌を損ねたのか、仏頂面のままメルフィーナと視線を合わせて小さく頷いただけだった。それを確認したメルフィーナが全体を見渡して最後に一言。


「補佐官の方々も問題ないでしょうか? ―――問題ないようですので後は宴会の席で。今回は連合会議とは別の開催となりますので、持ち回りの順番とは関係なく主催のエルフ族が担当させていただきます」


 こうして、連合会議から一ヶ月後のプロジェクトEの会合は閉幕した。


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