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人滅3:運命共同体

「運命共同体ってどういうこと?」


 メルフィーナの発言を受け、無邪気な子供のように首を傾げて人差し指を顎の下につけたポーズでジュリオが尋ねた。


 メルフィーナはジュリオが疑問を感じた時に見せるこの癖をとても愛らしく思っていた。ジュリオに向けて少し微笑んだ後、彼女は質問に応えた。


「この件について全員が同じだけの責任を負って、みだりに他人に相談したりすることができなくなった、ということです」

「全員が同じ責任って?」

「はい、連合会議の投票システムでは誰が賛成したかは分かりませんから、賛成2票のうち少なくとも1票は誰が入れたかは分かりません。つまり、この場の全員がこの議案に賛成した可能性が出ました。これによって全種族代表が同じ責任を負ったことになります」


 メルフィーナの説明を遮るようにアマンダが口を挟む。


「だけど発案したのがエルフ族だってのは変わらないよ。全員が同じ責任っていうのはちょっと言いすぎなんじゃない?」

「確かに議案が提出され、審議されていることが外部に漏れれば最も高いリスクを負うのは議案を発案した種族でしょう。ですが、エルフ族の発案だという証拠なんてどこにもありません。今ここにあるのは『主要種族連合が人間族に対してエクスターミネーション実行の審議を開始した』という事実だけです」

「あんたがさっき見せた世界シミュレーションの結果は?」

「証拠にはなりえません。それこそただのシミュレーション結果。これをもって1つの種族を滅ぼすなんて馬鹿げた提案をした、などと誰が信じるでしょうか?」


 アマンダは呆気に取られたような様子を一瞬見せたが、すぐに冷静になり応えた。


「誰も信じないでしょうね。全部織込み済みってわけ……相変わらず子憎らしい娘だわ。話を遮って悪かったわね。それじゃ、他人に相談できないっていうのはなんで?」

「はい、それはエクスターミネーションの審議が開始されたことを他種族に知られることのリスクが極めて高いからです。主要種族以外に知られてしまった場合、仮に途中で廃案になったとしても、この議案が提出されたという事実が漏洩しただけで主要種族に対する不信の火種は燻り続けることになります。これは次の大戦の引き金に十分なりえるでしょう。それだけは絶対に避けねばなりません」


 同意を求めるように全員の顔を見渡すメルフィーナ。


 アマンダとオッポネンは彼女と目が合うと頷いて同意を示した。ジュリオは首を何度も縦に振って同意の意志を示していた。ブレットは明らかに苛立っていて『その原因を作ったのはお前だ』などと言いたげな様子だったが、何度もオッポネンに諫められて反省したのか、その場で食って掛かるようなことはしなかった。


「みなさん同じお気持ちのようで安心いたしました。他種族に漏れることのリスクはこれでご理解いただけたと思います。そして、他種族に情報を漏らさないために、主要種族内においても情報が広まることを避けねばならないことは容易にご想像いただけたかと思います。ですから、他人に相談することはできないのです」

「それじゃ、この5人の『運命共同体』だけで最後まで審議するっていうの? それは難しいわね。私は悪魔族の宰相として魔王様には必ず報告しなくちゃならないし、仮に魔王様に黙って進めて議案が通ったとして、1年後に急に『決定したので実行してください』なんて通るほど簡単な事案だと思う? ここにいる5人だけなんて絶対不可能よ」


 アマンダに同意するように頷くメルフィーナ以外の3人。しかし、メルフィーナはそれも想定していたように即座に回答する。


「はい、アマンダさんのおっしゃる通りです。しかし、私は他人に相談できないと言っただけで、運命共同体がここにいる5人だけとは言っていません。そこで、みなさんには各種族内でもう2人、協力者を選んでいただきたいのです」

「本当に頭も口もよく回る娘ね。で、その協力者2人のうち1人が魔王様みたいな各種族のトップってことなんでしょうけど、もう1人は?」

「はい、おっしゃられた通り一人はエクスターミネーション実行の際に国を動かせる権限を持つ者。つまりは種族長にご協力をお願いしていただくことになります。そして、もう1人は私たちを補佐し、有事の際には私たちの代替となって審議を行う者を選定してください。こちらは各種族で審議に必要と思われる人員を任意に選んでいただいて構いません」


 メルフィーナが言葉を発した瞬間、全員の表情が険しくなる。探りを入れるようにオッポネンが慎重に問いただす。


「審議中に誰かが消される可能性がある、と?」

「いえ、通常の審議とは異なる1年の長い審議です。健康面で何かある可能性もなくはありませんから。それに暗殺なんてリスクの高い行為は、冷静な判断ができる方であればしないでしょう」


 そう答えたメルフィーナだったが、全員の表情は依然険しいままだった。アマンダが空気を変えるように努めて明るい口調で話し出す。


「しっかし、これじゃ運命共同体というより共犯者ね。そして、さらに各人2人の共犯者を連れてこい、と。悪魔よりよっぽど悪魔してるわ、あなた」

「お褒めいただき光栄です。さて、では最後に私たちが本当の運命共同体になるために、もう1つ議案を提出させていただきます」


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