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人滅2:議論なき採決

 メルフィーナの発案を受けて、議長のオッポネンは顎髭を撫でながら少し思案した後、その要求に応えた。


「エクスターミネーションの要求は主要種族に認められた権利。もちろん議案として取り上げよう。しかし、この場で君たちエルフ族以外に最低でももう1種族の賛成が得られなければ、その審議は始まらないということは君も知っているだろう。反応を見る限り根回しなどまるで出来ていないようだが、お友達のジュリオ君を当てにしているのかね? それとも、何かもっと重要な情報を隠し持っているか」

「僕はあくまで妖精族の代表として、妖精族の立場だけを考えて判断させてもらうよ。メルフィーナには悪いけど、君との関係で立場を変えることはない」

「そうしてもらって構いませんよ、ジュリオ。それから、今お出しできる情報はこの世界シミュレーターによるシミュレーション結果だけです。大変恐縮ですが、皆様にはこの情報だけでご判断いただき―――」


 メルフィーナが言い終える前にブレットは勢いよく椅子から立ち上がり、興奮気味に彼女に詰め寄りながら叫んだ。


「待て! これだけ重要な議案でありながら、他に何の情報もないのか? そのシミュレーションの結果だけで判断しろと?」

「はい、その通りです」

「馬鹿げてる!」

「いいえ、重要な議案だからこそ最小限の情報しか出せないのです。1つの種族を滅ぼそうという議案が連合会議に提出された、という事実だけでも大きなリスクを伴います。『次は自分達が標的にされるかも』と考える種族が団結して主要種族に向かえば大戦が再び起こる可能性も十分にあります。情報の管理は徹底しなければなりません。ですので、最小限の情報でご判断いただきたいのです。その結果、議案が流れるのであればそれも仕方のないことと覚悟しております」


 ゴホン、と注意を引くように大きく咳払いをしてからオッポネンが話し出す。


「ブレット、座りなさい。君が興奮する気持ちもわかる。しかし、議案は議案。発案者がこれ以上の情報を出せないというのなら、それを基に判断すればよいだけのこと。先にも述べた通り、エクスターミネーションは通常の議案と異なり過半数の賛成は必要とせず、2種族の賛成があればなされる。しかし、これはあくまで審議を開始することへの賛成、ということだけは頭に入れておいて欲しい」

「分かってるよ、おっさん。だとしてもこんなもん、誰も賛成なんかするわけねぇ。投票するだけ無駄だぜ」

「それでも議案として出されたら投票によって採決する必要があるのだ。それが連合会議なのだよ。では諸君、他に質問がなければ投票に移らせてもらうが、よろしいかな?」


 アマンダが両手を組んで、小さくため息をついてから少し呆れたような顔で話し出す。


「これが出せる全てだって当人が言ってるんだから、これ以上何を聞いても無駄でしょう? さっさと投票しちゃいましょう」


 彼女の言に一同が頷くと、オッポネンは投票システムを稼働させた。


 連合会議はどの種族が賛成したかが分からないような投票システムが採用されていた。賛成票と反対票の数だけが表示されるという仕組みだ。誰がどちらに入れたかは結果が表示される前に消えて証拠は残らない。単純だからこそ不正の余地のない仕組みだった。


 投票を終えた一同が再び席に着いたことを確認した後、オッポネンは投票結果を映し出した。結果は賛成2票、反対3票。2種族の賛成で承認されるという特例により、人間族に対するエクスターミネーションの審議は開始されることとなった。


「ふざけんなっ! 誰だ賛成なんてしたのは!」


 立ち上がって喚き散らすブレット。

 それを諫めたのは、またしてもオッポネンだった。


「落ち着きなさい、ブレット。その質問は賛否を明らかにしないという連合会議の原則に反している。それに事前に伝えた通り、これはあくまで本格的な審議を開始するための投票だ。実際にエクスターミネーションが実行されるには3ヶ月に一度の臨時会議でより多くの賛成が必要となる。そして9ヶ月後の臨時会議と1年後の連合会議では全会一致が必須だ。これで決定というわけじゃあない」

「分かってるよ……でもよ、みんなエクスターミネーションで巨人族を滅ぼした時のこと、忘れたわけじゃないだろ。俺はもう二度とあんな思いはしたくねぇんだよ……」


 堪え切れず涙を流すブレット。

 オッポネンは立ち上がり、彼の肩に優しく手を乗せて語りかけた。


「巨人族の件については、みな同じ思いのはずだ。あんな光景は二度と目にしたくはない。しかし、仮に巨人族が再び現れたなら、私は躊躇わずにまた彼らのエクスターミネーションに賛成するだろう。もしも人間族に彼らと同じ道を歩む可能性が本当にあるのなら、それを見定めて世界のために非情な決断をすることも我々の務めなのだ」

「……取り乱してすまねぇ。けど、俺は気を変えるつもりはねぇぞ。人間族に巨人族のような力があるとは到底思えねぇからな。俺1人でも反対な限り、この議案が通ることは絶対にねぇんだ」


 メルフィーナは彼らのやり取りが終わるのを待っていたかのように壇上に登り話し始めた。


「皆様、少しよろしいでしょうか。まずは審議が開始されることになり安心いたしました。これで私たちは運命共同体です」


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