第一話:序 【悪魔の彫像】
初めまして、リムと申します!
初投稿となります!
自粛期間中に書いた小説が、一区切りついたので投稿させて頂きました。
カクヨム様にも、同じ小説を投稿させて頂きました。
好きな要素を詰め込みました! 月並みですが、少しでも面白いと思って頂けたなら幸いです。
また、感想や評価など頂けましたら、それは大変励みになります。
よろしくお願い致します☆
「――さん!」
藤咲燈は、初めて同級生の名を呼んだ。
しかし女生徒の双眸は、既にこの世を見てはいなかった。
また一頁、記録を捲る。
「誰かが誰かを助けるのって、元々理由とかないじゃん」
燈は危険は承知の上とし、
「私は、当然の事がしたい」
自らの本心を語った。
そしてまた、読み進める。
「よろしくね、お姉ちゃん」
少年の悪戯っぽい顔に、燈は身体の火照りを感じた。
「ふ、藤咲燈です。燈って呼んでも、お姉ちゃんでも……なんて、ははは」
続けて、新しい章に。
「貴方がした事は、殺人。――を使い、――を殺害しました」
結衣が語ると、決死の思いを胸に秘め、燈はカードを切る。
「思い出や出来事さえも全部世界から消しちゃうなんて、絶対に許されないよ! お願いだから、 今ならまだ、やり直せるよ……!」
「聡明な相手のようですね――」
その声は、落ち着き払った大人の男性。
もはや、交戦は避けられない。
そして、物語は終盤へ。
「大怪獣だ」
目を見開いた燈の言葉。その一言で、十分だろう。
「いぃやぁあああああああ!? もうダメ死んじゃうぅ! 早く倒せないの結衣ぃい!?」
生まれて始めて、燈は腰が抜けてしまった。
半泣き絶叫。多分、また思い出して内心笑う。
「明日こそ、誰か他の人を探して、一緒に昼食を食べて下さいね?」
軽妙な冗談を混じえつつ、結衣は手を差し出した。
「うん、約束する」
燈の声。別れの握手を、今ここに――。
少女は静かに記録を閉じた。
この物語は新しい、つまりラベルは『新刊』だ。
「私が独り占めしておくには、些か勿体ないですねぇ」
雲隠れした満月を案じ、持参したランタンの火が揺れる。
塔の中なら必要もないが、ここはせっかくの日本。見事な満月と共に、読書というのも乙であろう。生憎の曇り空でも、だ。
と、
「おや、随分冷えてきましたね」
少女は人間と同じよう、寒気を肌で感知した。白いコートに手袋、マフラー、お次は帽子も欲しいところか。
「四月も僅か、もうすぐ五月ですが……やはり、列島北部は違いますねぇ」
憶えた歌を口遊み、少女は北の夜空を仰ぐ。
雲は流れて、満月が出た。それは少女と周辺を、優しい明かりで照らし出す。
黒い髪の艶めく少女、その姿キャンプの椅子に揺られて。
膝上には【藤咲燈】という、彼女の好きな新刊と、白亜の賽子が一つ。それからランタンの光と、小型のテントまで見えた。
「満月も無事に観れた事ですし、また明日に備えましょうかねぇ」
道具一式を片付けて、少女はテントへと消えた。
『アルターダイス』の霊魔、“髪結い”。『ラプンツェル』の外套を纏い――只今、一人で野営中。
しかし、何も不自由は無い。
少女は『櫛髪結衣』という、日本の名前まで貰ったのだから。
これはまだ、少し未来の一頁。
物語は、四月十一日。その夜の夢へ巻き戻る。