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ペットのぼやき

作者: 凡 徹也

もし、ペットショップで売られるペットに、人間並みの心理があったら…

どんな気持ちで日々の生活を過ごすのか、それを想像して書いてみました。

 我が輩は犬である。名前は未だ無い。しかも子供なのだ。

 産まれたときは目も見えず、ママさんの匂いと声だけを頼りにヨチヨチ歩き。思い切り甘えたがりやで寂しがり屋の俺だった。しかも、パパさんは産まれたとき、既に側には居なかったので、シングルマザーのママさんだけを頼りにずっと一緒に生活できるものだと思い込んでいたよ。それが「人並みの幸せ」ってもんだよな(違った!「犬並み」だった。)

 そうしたらさ、やっと目が開いて普通に歩き廻れる様になった途端にだよ、ママさんと引き離されてさ、兄弟達と一緒に子犬達だけの保育園みたいな場所、しかも凄く狭くて檻に囲まれた密空間に詰め込みられてさ、僕はここはアウシュビッツの強制収容所か?と思ったぜ。周りに聞いたらさ、皆俺と同じようにママさんとろくに別れの挨拶も交わせなかったってさ。

 まあ、そこで暫く暮らし始めたと思ったら、また直ぐに兄弟達とも離ればなれにバラバラにされちゃって遠くに運ばれて、現在はこのペットショップの狭い小部屋に閉じ込められている俺なのさ。

 それにしても何なんだ?この部屋はよー!トイレも食堂も総て一緒くた。それに入口は鍵を閉められ、壁は薄い透明の板で出来ていているから目の前を通る人間達に丸見えだよ。プライベートもへったくりも有ったこっちゃ無いんだ。一日中姿曝されていてさ…。普通に起きてる時だけなら俺だってどうって事無いんだよ。でもさ、寝ているときの間抜けな顔も、ご飯食べてる時も、挙げ句の果てにはトイレでうんちしているときまで見られてて御覧よ。俺が露出狂だったらそれで良いかもしれないけど俺はまともなんだぜ。ハッキリ言って神経まいるぜ。俺って見世物なのか?それともイジメかSMなのか?そんな恥ずかしい思いを毎日させられてさ。お前らは同じ思い出来るのかって言いたいよ、本当に全く。

 それにペットショップの主なんて本当に残酷な性格してやがんだよな。お客が見ていないとき、俺達は虐待されてんだぜ。パワハラってやつ。

 俺達に向かって何て言うと思う?

「売れ残りたく無かったら思い切り愛嬌振りまいて一日でも早く買われて行けよ。売れ残ったら惨めだぞ」って脅すの、毎朝ね。それで俺達は仕方なく一生懸命朝から晩まで可愛さ100%頑張ってるんだよ。

 でもさ、先輩のラブラトールなんかさ、直ぐに成長して大きくなっちゃったら、誰も彼のことなんか見なくなっちゃって、等々売れ残った。価格も1/3まで引き下げられて叩き売りされても未だ売れなくて、主人からご飯も減らされて「飯ドロボウ」ってケージ蹴られて罵られる。惨めなもんだよ。

 最近じゃ「どうせ俺なんかは名前も貰えず、誰からも愛されず、主人からは嫌われて、間もなくお払い箱になるだけさ」何て言ってグレちゃってる。

 俺だってそんなにゃなりたくねーさ。だから、一生懸命朝から媚び売ってるけど、それでも一日中笑い顔繕って可愛い振る舞いするなんて出来やしないのさ。

 それは、人間界で言う「アイドル」ってやつと同じだろう?それに、人間の芸能界では、「楽屋」ってのが有るじゃないか。そこでは一息ついて楽が出来る。

 でも、僕の入れられている透明な薄い壁で出来た「見世物小屋」では、一時も隠れる場所も無く、「化粧直し」だって出来やしない。こっちの都合なんてお構いなしだよ。俺だってさたまには気分が乗らないときだって有るのにさ。

 それに、俺を見る人間の中には凄く嫌な奴も一杯居るんだ。

「あんまり可愛げがない」とか、「生意気そう」とか言ってさ、中には酔っ払って酒の匂いぷんぷんさせて顔近づけてきてさ、早く何処かに消えてくれって思うときも有るんだよ。

 それでも、ルックスが良くて人気ある奴は直ぐに「商品」として買い手が着いて貰われていく。その時、新しく主人になる人がそいつを見つめる笑顔が堪らない。その買われていく「戦友」を見送るときの残された俺達の気持ちって判る?羨ましくて寂しさに襲われるんだ。そんなシーンを幾度も見せつけられる。そして、空いた部屋には直ぐに新たな後輩がやってくるのさ。

 そんな日々の続いたある日、俺のことを気に入ってくれた家族が居たんだ。その小学生の息子が俺のことを抱き上げて「可愛い~」って言ってくれたときは本当、嬉しかったぜ。俺もいよいよこの狭い部屋から出られる。庭の土や芝生の上を思い切り駆け回る様になるんだって。自由を手に入れられるんだってね。

 新しい主人の家族は、とても優しそうな人達だったよ。最初の見た目はね。それで連れて行かれるとき、俺だってワクワクドキドキ、夢のような生活を想像していたぜ。

 でも、理想と現実はちがうものさ。連れて行かれた新居は、高層マンションの28階だった!。庭なんて何処にも無い。そして、部屋の一角に柵で囲ったスペースが、俺の新たな棲み処に成ったわけさ。

 まあ、以前の生活よりは大分広くなったし躰はある程度自由に動かせるように成った。透明の壁越しにじろじろ見られることも無くなった。

もっとも、離れたところにもっと大きな透明の壁はあったけれどね。

 暮らしは確かに窮屈では無くなったんだ。その代わり今度は一日中周りの景色が変わらないんだ。昼間は俺以外は皆出掛けてしまい、部屋には誰も居ないし他人は誰も通らない。「独りぼっち」「孤独感」に襲われるんだ。

 その寂しさに負けて、1度柵を跳び越えて広々とした家の中を探検していたら、奧さんが帰ってきてそりゃあ大変だった。叩かれて散々叱られた。そのヒステリックな叫び声今でも想い出す。俺は、「家庭内暴力だあ!」って鳴いて叫んだけど、奧さんはそれを「躾」だって言い張る。そして、今度やったら箒で叩くって脅かされて…僕には恐怖心と不信感が宿ったよ。

 更に、以前はサークルの中で自由にトイレ出来たのに、その日以来トイレも無くされて、「ウンチは外に散歩しに行くときにしろ」ってさ、身勝手なこと強要された。部屋が匂うからって言うんだよ。それなら俺専用の水洗トイレやウォシュレット付けてくれって言いたいね、俺は。だから、一日二回、朝と夜、たまに気紛れで昼間の時にしかウンチ出来なくなった。俺だってさお腹の調子が悪いときだって有るのにさ。

 でも、外に出掛けるときはおめかししてくれる。体に丁寧にブラシをかけてくれる。その事はとても気持ち良くて嬉しいけどな、それって俺のためじゃないんだ。自分達もコスチューム着込んでさ、外へ向けての「見栄張り」なんだよね。

 俺にとっては、服着るのは冬は確かに温かいけど、夏は暑くて堪らない。窮屈で嫌で堪んない。それなのに、外で他の犬とすれ違ったりするとき、いつもと違う「よそ行きの声」出して挨拶したりして、それで「ご機嫌よう」って別れた後、小声で「勝った!」とか言うんだ。浅はかだよね。

 そして、次は夜の散歩の事。御主人が帰ってきてからだから、夜が遅いんだ。辺りは真っ暗だし、夏は幽霊出そうで怖いし、冬なんてさアスファルトがとっても冷たくて凍えるの。俺はね、草の上とか土の上を歩きたいわけさ。そこで思い切り走り回れれば体も温まって気持ちいいのに、リードで繋いだまま引っ張られて行きたくても行けない。走ることも許されない。それは、土の上は足が汚れて、後でそれを落とすのが面倒くさいって理由なんだ。それで行かせてくれない。

 本当はね、最初の内は息子が夕方まだ日が落ちない内に散歩に連れて行く約束だったんだよ。でも、その息子が酷かった。買ってから数ヶ月は俺のことを凄く可愛がってくれた。友達にも自慢げに見せて廻っていた。

 それが、俺が成長して身体が大きくなってくると態度が変わってしまってさ、その内、新しく発売された携帯型ゲーム機に夢中になってさ、一日一回の散歩が「あー、面倒くさい」とか言ってさ俺のことを邪魔者扱いするわけ。愚痴もこぼして、俺に当たる。有るときからコースを半分以下に短くしちゃってさ、公園のベンチ座って、ゲームにはまってずっとそこから動かない。1年たった頃にはもう俺と一緒に散歩に行くことも無くなって、俺のことは放りっぱなしで撫でてもくれなくなった。彼自身の中で、俺に対するブームは終わったんだよね。そうして、抱っこも風呂も掃除も散歩も、御主人がやることになったんだ。

 最近ではご飯は毎日同じメニュー同じ量、おやつは気紛れで…。もう、飽きてきて食べたくない時もある。よく考えてみて。自分達は毎日違うメニューで、美味しそうな匂い漂わせていてさ、俺がそれを欲しがっても全然くれもしない。「健康の為」とか、「太りすぎないように」とか言ってさ。それでいて奧さんなんかブクブク太ってる。自分達の方こそ健康管理はどうなってるんだ?

 御主人だってさ、大の野菜嫌いで人参とか一切食べないんだよ。それで、代わりにサプリメントで補給するから許されているんだってさ。それだったら、俺だって美味しい肉を沢山食べてサプリメントで栄養の補充して暮らしたいよ。

 それと、奥様の気紛れで、たまに俺のことを車に乗せて海にドライブに連れて行ってくれるんだ。けれどね、海に入るのも駄目。砂浜を走り回るのも駄目なんだ。俺のために行くわけじゃ無い。海沿いに有る気取ったドッグカフェに行きたいだけなんだ。そのファッションアイテムの1つに過ぎないんだよね。それで、俺もお洒落させられてさ行儀良くしろって言われるの。到着すると車から降ろされて、そのカフェの「ドッグラン」という場所に入れられる。そこではリードも外してくれてドッグランの中だけは自由に走り回れるんだ。そして、見知らぬ仲間達と一緒に走り回って友達になれる。そいつらも、リード外して走り回れるのは、此処に来たときだけだって言っている。彼等にとっては、此処はまさにパラダイスなんだよね。

 そして、走り回って息が切れた頃に揃って迎えが来る。そしてこの時ばかりは見てくれは着飾ってある味の薄い料理や大して甘くも無いケーキ(人間がスイーツとか呼んでいる代物)の食事をさせてくれる。でも、結局は俺達は「ついで」みたいなもので、女性達はガヤガヤとずっとお喋りに夢中で途切れることなく笑ってる。

 食事が落ち着くと、僕達は又ドッグランに戻されて、自分達は甘さたっぷりのケーキと、お茶を飲みながら又ずっとお喋りするんだ。僕達はきっとお飾りで、あの店に行くためのアイテムの1つに過ぎないのさ。 

 季節が代わり、真夏にもなると「バーベキュー」っていうのに付き合わせられる。それで海に行くんだけれど、今度は灼熱地獄の砂浜の上なんだ。

 あの暑さは拷問です、はっきり言って。パラソルの下や木蔭で、息をハアハアさせてやっと体温調整している。その苦しさは伝わっていない。

 そして海で出会った犬連れの人とお互いに自分の犬自慢を始める。やれ

「今、この犬種流行っていますね」とか、

「ミニ黒柴って言われて飼ったのに、大きくなっちゃって、食事制限しているの」だとか自分達の都合の話しばかり。

 大型のアフガンハウンドが来れば、

「シャンプー大変でしょう」

「月に二万円かかるのよ。私の美容院代より高くてもう大変」とか、

ミニチュアダックスフントが来れば

それよりも小さな「カニンヘア」という品種があるだとか毛並みや柄の良さとか言った品評会みたいなこと始めるんだ。それで人前で見世物みたいにさせられる。嫌気も差してくるぜ。

そんな中で、

「可愛いですね」って言って近寄ってくる人に誰でも僕のことを触らせるんだけれど、中には香水プンプンの夫人が居てさ、(最近は男でもオーデコロン付けてるしなあ)

 酷いのは、飼っている俺達にも香水振り撒くババアもいる。俺達には良い迷惑なんだ。その愛犬の困惑した顔に気づかないのかな?て思っちゃう。

 忘れて貰っちゃ困る事は、犬にも人格(犬格)がちゃんと有るし、自尊心や、ポリシーだって持っているんだ。ファッションアイテムじゃあ無いんだ。もっと、ちゃんとした「一生物」として敬意を持って接して貰いたいんだよ、本音はね。

 それでも、何年もお世話になっていると、情も移ってくる。俺だって野生の世界にはもう戻れない事は判っちゃいるのさ。それに、生き抜く自信も無い。ホームレスでは、今の日本じゃ暮らしていけないのだから。

 昔なら、「忠犬ハチ公」みたいに慣れたかもしれないけれど……。

 だから、生涯を今の主人に捧げるしか無い。媚びを売り続けるしかないと、格好よく言えば「悟りの境地」、つまりは諦めの心が生まれている。そうしないと、棄てられちゃうか、「保健所」と言う名の強制収容所でガス室に入れられちゃう。つまりは殺処分されちゃうって事なんだ。

 まあ、今のご主人様は優しいし、大抵の日本人は生涯を終えるまでちゃんと可愛がってくれる。これがフランスだったら大変だよ。毎年来る夏のバカンスで、邪魔だと平気で街中に棄てられちゃうんだ。日本でも、家の引っ越しで、事情が変わったと言って俺達を棄てる人も結構居るんだ。俺もせいぜい気を付けようっと。

 確かに今の生活はぬるま湯に浸かったしらけた日々だけど、案外いけてるし、気に入っているんだ、本当の所はね…。

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