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文芸部にて  作者: おじん
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初めての美術館

 あれから数日が経過した。

 私のフミ先輩と文芸部に対する謎は深まっていった。別に誰にだって過去はあるのは当然だ、それを明らかにして理解する必要など無いことは理解している。知らない方が幸せなことが世の中に多いとも言うし私もそう思う。それでもフミ先輩の関わる文芸部の謎は気になってしまうのだ。


 ある日、フミ先輩に部室で話してもらったことがある。

「知ることは悪いことではないよ、ここにある本の内容は大体が必要のない知識の集合体だけど私は貪欲に知りたい」

私はフミ先輩の謎を知りたがっている心を読まれたようでヒヤリとしたがそうではないようだ。


「なんですか、また本の話ですか?」

フミ先輩との距離は縮まったように感じる。こうやってフミ先輩に自然と話す事も出来るようになった。


「まあそうだけど、最近の古実さんはなんかもどかしそうな顔をしてるから」

フミ先輩は微笑んでいる。自分が顔に出やすい人間だとも思っていなかったがフミ先輩にはやはり隠し事は出来ないのかも知れない。それ程フミ先輩との自分には人間の深みというか格差を感じる。


 それも気になっている点の1つでもある。フミ先輩は他の高校生に比べて数歩先を進んでいるように感じる理由の正体が気になるのだ。単純に上級生で文芸部の部長を務めているという理由だけなのか。それとも新堂先輩が関係しているのか。



 フミ先輩と学校以外で初めて会ったのは次の休日だった。

 普段は降りることの無い駅で乗り換えて地下鉄に乗る。駅に到着するとフミ先輩からメールが来ている事に気が付く。普段はSNSを使う私もフミ先輩とはメール。それはフミ先輩のガラケーではメールと電話の他は出来ないからである。しかし吹奏楽部の人達と関わりたくなくて気まずくて消してしまったアカウントをもう一度作るのは面倒くさかったので丁度よい。

 迷惑メールとキャンペーンメールだらけのメールボックスをスクロールしていき新着のフミ先輩のメールを開く。



駅を出たベンチで待ってるね。


倉敷史



短い必要な内容だけの文章だった。でも何故だろうフミ先輩らしいというか可愛らしいと思ってしまう。



 すぐ行きます。



 流石にこれでは味気無い。フミ先輩には文芸部内で勝てる要素が多くは無いので勝てるところでは勝って置きたい。


 最後に女子力のありそうな顔文字を追加してフミ先輩に返す。フミ先輩が待っているであろうベンチに急ぐ。


 フミ先輩はベンチで座って待っていた。

 紺色のニットに純白のロングスカート、上から黒色のコートを羽織っている。まだ冬には完全には入っていないのに寒がりなのだろうか。


 フミ先輩ってやっぱり綺麗だな。目的があって忙しい社会人や目先の楽しいことや彼氏彼女に夢中の人たちはフミ先輩の素朴な綺麗さには気が付かないだろう。


 私しか知らないフミ先輩の魅力に妙な優越感を感じながら先輩の肩を叩く。

「おはようございます」

最初の頃に比べると少しは愛想よく挨拶が出来ていると思う。


「おはよう、私服だとちょっと大人っぽいんだね」

私は動きやすい服装を意識してきただけだのだがフミ先輩にはそう見えたらしい。フミ先輩こそ大学生だと言われても信じますと軽く返した。


「今日は私の美術館巡りに付き合ってくれてありがとうね」

嬉しそうに手を顔の前で合わせている。


「それは全然構いませんけど、絵なんて分かりませんよ」

芸術はフミ先輩の領分。私が入り込む隙なんて無い。


「大丈夫、私が調べてきたし安心してね」

カバンから何かを取り出したと思ったら紙の地図だった。


 私はスマホの地図アプリを起動して見せる。

「これを見ながら行きましょう先輩」

未知のテクノロジーに触れたようで驚いている。同意を意味する縦の首の動きを確認して先輩の前を歩き出す。先輩は興味があるのかスマホの画面を歩きながら覗き込んでいた。


「そうだ聞きたかったんだけど、これどういう意味なのかな?」

先輩はドットが目立つガラケーの画面をこちらに向けている。数分前に私が送ったメール文が表示されていた。しかし最後の顔文字が先輩のガラケーでは対応して無かったのかはてなマークの記号になっている。私の女子力はガラケーの前には無力だったということだ。


 スマホのアプリを切り替えてメールを見せる。

「フミ先輩のガラケーでは表示出来ない顔文字だったようです。本当はこんな顔文字だったんですよ」

先輩は両手で私のスマホを持ち珍しそうに見ている。


「私もスマホに替えようかな…」

フミ先輩は真剣な顔をしてスマホを見ている。このままでは動かなさそうだったので先輩からスマホを救出すると美術館に向かって再び歩き出す。 

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