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文芸部にて  作者: おじん
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逃げ出して文芸部

 今までの私だったら間違いなく押さないであろう自販機の炭酸飲料の位置にあるボタンを人差し指で軋むほど強く押し込む。


 古い校舎には似合わない最新式の自販機は短い機械音を発してペットボトルの炭酸飲料を吐き出した。


 派手なラベルで包まれたペットボトルを拾い上げる。窓際に移動して歪んで開けるのに力がいる窓を細い腕に力を入れて開け放つ。

 夏が終わった事を告げるような悲しい夕日の色が私の体を照らす。授業が終わってそれ程長い時間が経過していないはずなのに日は傾いているのだ。


 嫌な事を流し込むかのように炭酸飲料を喉に流し込む。

「……くぅ…!」

 炭酸の喉を駆け回るような刺激で苦しくなり変なうめき声が出てしまう。誰かに見られていたら嫌だと思いながら周りを見渡す、鈍い駆動音を出している自販機しか存在していない。


 ペットボトルの中身を半分も飲めずキャップを閉めて手に持ったまま目的地に向かう。これまでだったらこんなやる気の無い生活は送って居なかっただろう。


文芸部


 そう彫りこまれた古い校舎に似合う木製のプレート。

「すみません…今日から文芸部の1年の古実ですけど」

 部室の中は左右を天井まで届く程背の高い本棚で狭く感じる。

 中央に置かれたテーブル、そして本棚の隙間から漏れ出た夕日に照らされた空中のホコリしか見当たらない。


 誰もいないのか。

 パイプ椅子に座ろうとドアを通り過ぎて部室の中まで移動する。本棚に入っている本は私の趣味とは合わない難しそうな本ばかり。そもそも私は文芸とは何なのかも知らない。

 パイプ椅子に座って一息つくと向かいの本棚に収納されている本の背表紙を眺める。


誰も居ないと思っていた本棚の奥から綺麗で細い声が出てきたのはこのとき。


「古実さん、本は好きかい?」

 私は急に現れた声に驚いて立ち上がる。


「はいっ?」

 落ち着き払った声の主とは対照的に私はオドオドしてしまっている。


 これが私と先輩の最初の出会いだった。

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