ださいたま・おさむの芸人失格
プロローグ 一つの詐欺事件が発覚した。
多くの被害届が寄せられていたが、証拠固めが難しくなかなか警察も動こうとしなかった。
しかしついにその事件の容疑者が、任意同行を受け、警察で事情聴取を受けた。
やがてその事件が、芸能界を震撼することになる。
プロローグ 魔法の壷 芸人の多くが騙された詐欺事件。
浅草のママといわれたその占い師に見てもらうと、みんな売れっ子になるという噂が広まったからだ。
浅草のママは実はインターネットの中に存在するなぞの占い師だった。
口コミが口コミを呼び、多くの被害者が生まれた。
ママが芸人に売りつけたのは「笑いの壷」という怪しい壷である。
「あなたが売れないのは悪霊がついてるからです」
などと悪いことを吹き込まれ、多くの芸人が笑いの壷を交わされた。
「この壷を買えば、明日から、笑いの神が降りてくるようになる」
そう言われて、壷を買った芸人は実際のところ、はっきり分っていない。
そんな壷を買ったということがばれるのを恐れて被害届けを出す芸人がいないからだ。
しかし、逮捕してみて、大御所たちの名前が犯人の口から次々に語られた。
そして名前の上がった芸人たちは「壷を買ったんですか」とインタビュー攻めにあうことになる。
みんなテレビで活躍中の売れっ子芸人ばかり。
芸能界は震撼した。
一番問題なのは、なぞの占い師、浅草のママは実は中年の男で、しかも売れない芸人だったことだ。
売れない芸人、ださいたま・おさむ。
その名を知る人はほとんどいない。
テレビで活躍したことは一度もない。
芸人でさえ名も知らないほどの無名な芸人だった。
そんな芸人に騙されたとあっては、芸人生命にもかかわると、多くの一流芸人が口を閉じてしまった。
ださいたま・おさむは取調べで、一流芸人の名前を次々にあげた。
壷の値段は、ピンキリで芸能人の格で値段を決めていたと思われる。
「ハモちゃんは、壷を1千万で買ったし、ヤボちゃんは2千万は出したね」
と、ださいたま・おさむはうそぶいた。
噂が噂を呼び、みんなが売れたのは本当に壷の能力のおかげじゃないかとさえ、言うものまで現れた。
芸人たちは口を閉じ、大御所が口をそろえて被害などあっていないとマスコミでコメントしたせいで、
被害届けを出した売れない芸人たちも先輩たちを立てないわけに行かず、被害届けを取り下げた。
こうしてださいたま・おさむは釈放された。
おさむの手元には数億円の金が残った。
笑いの壷で、本当に笑いが止まらないのは、この犯人なのかもしれない。
笑いの壷に本当に効果があるのなら、おさむが一番成功したはずなのに……。
そして、今もインタネット上で壷を買いたがる芸人がいっぱいいる。
売れていた芸人たちは人気がかげると、なぜだろうと考える。
そして、それは壷をないがしろにしたせいだと思うのだ。
「壷には流行があります。常に笑いの壷は時代と共に変化し続けるんです。だから新しい壷をあなただけに特別に……]
そしてださいたま・おさむは再び壷を売るのです。
何の変哲もない安物の壷を。
エピローグ 「だまされたと思って、買ってみたら、それから運気がぐぐっとあがったんです」
「あなたに特別な壷をしんぜましょう」
おさむは笑いの壷を差し出した。
「本当ですか」
「この壷を毎晩、布で3回拭いてください。あなたの運気はアップし、何を言っても大爆笑を取るでしょう」
今年も売れっ子芸人が次々に生まれては、消えていった。
彼らは心配で壷を買う。
そして売れてない芸人も売れたいと思い、壷を買う。
「どうしてあなたは成功したと思いますか?」
超一流の芸人のヤボちゃん。
「それはおもしろいからじゃないですか」
強気の発言で知られたヤボちゃん。
ヤボちゃんもまた新しい壷を手に入れた。
何の変哲もない安物の「笑いの壷」を……。
「これで今年も安泰だ」
ヤボちゃんは壷を布で拭いた。
そして多くの売れっ子芸人が毎晩毎晩壷を拭き続けている。