死喰人
生きている人間が、物理法則に従って徐々に加速しながら落ちていき、最後には激しい音を立てて文字通りばらばらになる光景を、素晴らしいと思うようになったのは、いつからだろうか。
事件や事故などで、誰もが目を背けたくなるような凄惨な遺体を見た時に、その遺体が芸術作品のように美しく見えてしまうようになったのは、いつからだろうか。
この時から、とはっきり言える時はないだろう。おそらくこれは、生まれた時から私の奥底に眠っていたどす黒い闇で、それが少しずつ巨大になっていき、いつの間にか体の外に出てきてしまったものなのだと思う。
ただ、初めてその感情の存在に気づいた時、私は“自分に関わりない人のことだから”そう思うのだろうと思って、さして気に止めなかった。身近な人が悲惨な目に遭った時は、素直に悲しむのだろうと、そう思っていた。
それが間違っていたことに気づいたのは中学二年の時。両親が交通事故に遭い、揃って死んでしまった時だ。病院の霊安室で二人の亡骸に対面した時、私は何よりも先に、綺麗だ、美しい、と思ってしまった。その瞬間に、私は完全に闇に侵されてしまったことを悟った。
その日から、私の中で何かが狂った。凶悪事件などのニュースが流れるたびに、様々な手段で死傷者の画像を探すようになった。画像が見つからなければ落胆し、見つかったら新しいおもちゃを与えられた子供のように興奮した。
最初のうちは、それだけで私の心は満たされていた。画像フォルダに溜まっていく、常人なら目を背けたくなるような写真の数々を眺めては、人知れず興奮していた。
だが、時が経つにつれて、私の中に巣食う闇はそれだけでは満足できなくなっていった。私は自分の手で、生き物の命を奪ってみたいと思うようになった。私は次第に、野生の動物を捕まえて、それらをなぶり殺すようになった。時には解体した動物の肉を食べることもあったし、切り離した体の一部と共に寝ることも少なくなかった。
だが、私の体を蝕む闇はそれでも満たされなかった。人が、生きている人が、殺される間際にどんなことを言うのか、叫ぶのか。殺された後、どのようになるのか。人の体の内部は、どのようになっているのか。それを知りたくなってしまったのだ。
私はまず、両親を殺した。その次に、近所の身寄りのないホームレス、一人暮らしをしていたおばあちゃん、深夜のコンビニで偶然出くわした男性客……
より美しい死体の姿を見つけるために、様々な人たちを様々な手段で殺していった。死体の肉は、証拠として残らないよう、ほとんどを自分で食べた。豚肉に近い味わいがあって意外と美味しかった。
また、ばらばらにした死体のうち、食べるのが勿体ないほどに形が綺麗なものは、食べずにそのままの形で保存していた。特に、若い女性の四肢は形容しがたい美しさがあった。
こんな調子で、私は実に十一人もの人を殺し、その肉を喰らい、気に入ったパーツを集め続けた。集めた体は、家中に装飾品のように飾っていった。
人の形をしただけの、ただひたすらに死を喰らう化け物になっていた私は、殺した人の骨や皮膚までをも加工して使うようになった。剥いだ皮膚を継ぎ接ぎして、バッグや財布にし、日常的に使用していた。骨も、ペンダントなどのアクセサリーにして身に付けたり、箸や時計などに加工したりして、一切の無駄を無くしていった。
こうして、名も知らぬ人の死体と共に暮らすという異常な生活を私は一年半近く送り続けた。だが、どんなことにも必ず終局は訪れる。私のこの生活も例外ではなかった。この周辺の人や、この周辺を訪れた人が多数行方不明になっている、ということで警察が聞き込みにやってきた。
普段人が訪ねてくることが全くないため、私は安易に玄関を開けてしまった。そして、訪ねてきた警察官の顔を見た瞬間、全てが終わったことを悟った。彼の目は玄関の奥、廊下の壁に所狭しと飾られている人の頭部や腕などに向けられていた。
もはや言い逃れの余地はどこにもなかった。警察署で全ての罪を認めた私は、裁判で当然のように死刑を言い渡された。そして、死刑執行までの長い時間を、拘置所内で過ごすことになった。
拘置所での生活は、自由が多い反面、暇な時間も多かった。生活のほとんどを人体解剖に費やしていた私には、趣味というものがまるでなかった。
そこで私は、死体とともに歩んできた私の人生を、文章として残すことにした。それが今書いているこれだ。
これが外の世界に出ることはまずないだろう。それでも私は、この『私自身の記録』を書き残す。いつか、同じ感性を持つ者に読んでもらえることを願って。
どうも、悠香です。二作目です。
私の拙い文章を最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回も前回同様に、「三つの単語を使って文章を書く」というものでした。今回は「物理、寝る、時計」の三つでした。
ただでさえ文章力がないのに、縛りみたいなことしてる余裕あるのかとか言わないでくださいね……
ということで、この先も同じような感じで創作活動を続けていくので、これからもどうかよろしくお願いします。