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57 式前夜

 執務室に戻る。デスクではなくソファに体を投げ出す。

 それにしても……フェリシア・メーヴィス、面倒なことをしてくれたものだ。

 最悪、山岡がこっちに来る話はこれで流れるだろう。次の手を考えなければならない。

 控えめなノック。

「開いているよ」

 フィーラとエシュリア、アリサが部屋に入ってくる。

「あの、あなた……」

 フィーラが小さく呼びかける。視線を合わせると、しばらくの沈黙。

「その、フェリシアさんの件なんですけど……」

「リッザとの関係を再構築しなきゃならん。頭の痛い問題だ」

 私の言葉に、三人が顔を見合わせる。フィーラがそっと私に近づく。

「その……あなた?」

「なんだ?」

 座ったまま見上げていると、頭を抱きかかえられた。

 ほのかな甘い香りと柔らかさ。

「あー、フィーラさん? 新婚とはいえ、他に人がいるところでそういうことはどうかなと思うんだよね」

「よかった……」

「よかった?」

「ううん、なんでもない」

 俺から離れたフィーラはふるふると首を振り、その後微笑む。

 エシュリアは小さくため息、アリサは呆然と俺とフィーラを見ている。

「あん? アリサさんどうしました?」

「あ、いえ、その……なんでもないです」

「そう?」

 俺がじっとアリサを見ていると、アリサは俯いて小さくなる。

「……フェリシアさんとリッザの件だけど、お父さんが預かるって」

「あー、まあ、そりゃあね」

 フィーラの言葉に頷く。

「たぶん、フェリシアさんは戻されます。無礼の謝罪として山岡さんはそのままヴァイアブリーへ、となるでしょう」

 フィーラはうつむきながらそれだけ言う。

「一つ、聞きたい。フェリシア・メーヴィスはどうなる?」

 フィーラは首を振る。エシュリアを見る。

「私に期待するなよ、ケイタ。リッザの法については多分アリサのほうが詳しいと思うぞ」

 アリサを見る。視線が絡む。目をそらされた。

「ふむ……仮に、俺が『何もなかったよ』としたとしたら、どうなるかな?」

「難しいと思います。目撃者が多すぎます」

 アリサの言葉に唸るしかない。まいったな。

「多少なりとも縁ができてしまった人だからなあ」

 俺のつぶやきにフィーラがクスクスと笑う。

「あなたらしいわ」

「そうか?」

「そうよ」

 エシュリアが咳払い。ああ、うん、すまん。

「あのう、ケイタ様」

 アリサが小さく手を上げながらら言う。

「ん?」

「私、リッザに留学していた時期があるので、リシャルト王とも面識があります」

 暫く考える。

「取り成しをお願いできるかな?」

「はいっ」

 嬉しそうに言うアリサ。使えるものは何でも使え、とはいうものの、なあ……。

「ベストは、まあ痴話喧嘩扱いだろうな」

 ため息。

「あーあ、先越されちゃいました」

 フィーラが残念そうに言う。

「……いやあ、フィーラとあのレベルで喧嘩したら俺死ぬかもしれん。それに痴話喧嘩ならほら、エシュリアさんと初めて会ったときにやっただろ?」

「……あ」

 思い出したらしい。

「でも、あれは……ううん、そうですね」

 微笑みながら頷くフィーラ。かわいい。

「殴り合いならあたしのほうが先だな」

 エシュリアがウィンクしながら言う。まー、そりゃフィーラを殴るわけにはいかん。

「わ、私はたぶん最初に助けてもらいました」

 アリサが俺をまっすぐ見ながら宣言。

「んあ?」

 あー……いや、高木のほうが先……というかガルのほうが先、か……。

「あー、アリサさん、大変言いにくいのですがね、一番最初に助けたのはガルさんなんですよ」

「ガルさん?」

「ガルグォインヴァーデンズィーク」

 アリサはそのまま固まり、そして絞り出すように言う。

「じょ、女性で助けて貰ったのは、私が最初……ですよね……?」

「あー、それも……クラスメートの高木が最初だ」

「クラスメート? 高木様?」

「あとで説明と紹介するよ」

 あ、アリサ泣きそう。エシュリア、フィーラに睨まれる。あー、えーと、うーん……そうだ!

「パーティ組んだのは初めてかな」

「そうなんですか?」

「基本単独行動だったからねえ」

 エシュリアが頷く。

「ケイタ、おかしいからな」

「……エシュリアさんに言われるのは甚だ心外である」

「一人で500人潰す人に言われたくないね」

 アリサもコクコクと頷く。ひどい。

「とはいえ、まあしょうがないよな。ぶっ壊れてるし」

 独り言が漏れ出ていたようだ。フィーラに抱きしめられる。

「あなたは、強い人。だけど、弱いの。だから私はここにいる」

「あー、アリサ。そろそろ部屋に戻るか。じゃ、明日な」

 エシュリアがそう促すと二人はそのまま出ていった。


 ガルが来た。

「いや、まあ前夜にすまんな」

「あー、うん、大丈夫だ」

 ちょっとフィーラは怒っているが、そこは後でフォローすることにする。

「フェリシアの件だ」

 ガルをソファーに促す。

「ちょっと規模の大きい痴話喧嘩って感じでまとめる。向こうの立場もあるしな」

「異論はない。というより落とし所としてはベストだろう」

「まあな」

「一応、アリサさんがリッザに留学経験があるってことで取り成しをお願いはしてある」

 ガルは指を組んだ手を見つめてしばらく沈黙する。

「なあに、アルピナには貸しが一つある。リッザには借りが一つあったがこれでどうにかなるだろ」

 俺が軽く言うとガルは呻くように答える。

「すまぬな、ケイタ。ヴァーデンに力があれば」

「いやいや、それはヴァイアブリーも同じだ。むしろ俺の力が足りず、フィーラに苦労をな」

 ガルは顔を上げ、俺をしばらく見つめて、また視線を手に落とし、その後ゆっくり首を振る。

「そもそも、な。ルヴァートが仕掛けたこととはいえ、何の罪もないケイタたちをこの世界に引きずり込み、そして」

「あー、やめやめ。それはいいよもう」

「だが!」

「なあに、三国一の花嫁がここにいる。十分だね」

「三国一?」

「……こっちでいうなら五国一ってところかね。俺の故郷ではかつて世界は三国――唐、天竺、日本の三つで構成されていたと考えていた。その三国の中の最高の花嫁ってことだ」

 ガルは俺を見て苦笑する。

「そりゃどうも。うちの娘はそこまでのものかね」

「ええ。少し胸は足りませんがね」

 すごい勢いで後頭部を叩かれた。

「照れ隠しだよバカたれ!」

 フィーラに文句を言ったところでガルが大笑いする。

「いい婿殿だな。フィーラ、幸せになるよ。断言する」

「はいっ! 幸せにしますっ!」

「……それは俺のセリフのような気がするんだがな」

 俺のボヤキに二人は顔を見合わせてから笑う。

「大丈夫、幸せにもしてもらいますよ」

 フィーラに抱きつかれた。ガルは苦笑を浮かべて腰を浮かせる。

「じゃ、前夜に悪かったな。明日は初日だ、頑張れよ」


 控えめなノック音。

「はい?」

 ドアを開けるとルテリアがいた。

「ちょっといいかしら?」

 招き入れるとフィーラに近づいてヒソヒソ話。とりあえず離れた場所にあるライティングデスクに座る。

 久しぶりに【解析】を自分に向けて発動。


〈解析結果〉―通知


 祝福と感謝を。

 【他者送還】【異世界視察】を与える。

 観察後、送還するといいだろう。

 世界の歪みは予想以上に深刻だ。だがこれ以上我々が干渉することは難しい。すでに危ういバランスにある。

 送還することで歪みは修正されるが、その皺寄せは――介入(インタラプト)。これ以上の通知を停止する。


 深いため息をつく。なるほど。瞬間移動(ファストトラベル)千里眼(セカンドサイト)の強化版、か。

 そして未だに敵対しているなにかがいる。

 わかったことはまだしばらく休ませるつもりはない、ということか。

 俺のため息に気がついたのかフィーラがこっちにやってきた。

「どうしたの?」

「俺はすでに世界に組み込まれている」

「国王ですものね」

「違う、そうじゃない。いや違わないんだけど、そういう意味ではない」

 首を傾げて俺を見るフィーラ。

「ルテリアとの話は終わった?」

「いいえ」

「じゃ、先にそっち片付けて。その間に考えまとめるから」


 しばらく母娘の会話を遠くで眺める。

 二人は抱き合い、そしてルテリアは部屋を去る。立ち上がり両手を広げフィーラを迎える。両手の中にフィーラが入ってきたのでそっと抱き寄せる。

「ね、あなた。さっきの話だけど……」

「ああ、俺はこちらに来たときにまとめられたらしい」

「まとめられた?」

 ヒュー・エヴェレットの多世界解釈の話を簡単にする。俺の腕の中ではてなマークを大量に浮かべるフィーラ。

「ま、とりあえず俺の中には一人分どころではない俺がいる、ということのようだ」

「あなたは、あなたよ」

「そりゃそうなんだがね」

「それで十分じゃない。あなたは、あなたなのよ」

 なおも何かを言い募ろうとするフィーラの口をキスで塞ぐ。

「んもう!」

 怒られた。

「俺には【解析】というスキルがある。これで自分を【解析】すると通知が届くことがある。今日も届いた」

 真顔で俺の言葉を聞くフィーラを見て右手で頬をそっと撫でる。

「今日の通知には、2つのスキルを渡す、とあった。【他者送還】【異世界視察】だそうだ。これで彼らを帰す」

「……あなたは、それでいいの?」

「目の前に、世界一の妻がいる。それ以上を望んでは罰が当たるってもんだよ」

 俺の軽口をじっと目を見つめて聞いているフィーラ。

「私には隠し事をしないで欲しい」

「……多少は寂しさもあるさ。向こうとの繋がりだからな。とはいえそもそも希薄なんだよ。大量のまとめられた俺ということは、関係性はその逆数になる」

 再び何かを言いそうになったフィーラの口を塞ぐ。

「それに、俺はもうこちらに(フィーラ)所縁(ヴァイアブリー)もある。こちらのほうが重要だ」

 無言で抱きつかれた。そっと頭を撫でる。

「さ、明日のために、そろそろ寝ようか」


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