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55 会見

 アルピナとの会談は3日後に設定されている。

 それまでの間、ゆっくりしろと言われた。

「ああそうだった、クラスメートはどうしているの?」

「ケイタがヴァイアブリーの王になったってことで、こっちからヴァイアブリーへ移動したいという希望が出ている。移動したとして維持管理できるか今計算させているが、多分なんとかなるだろう」

「んー……なら山岡もこっちに引き取ったほうがよくない?」

 難しい顔でガルが考え込む。

「それはそうなんだろうが……一応リシャルトに親書は送ってみよう」

「一応?」

「多分受け入れられない。ケイタに対する人質みたいなものだからな」

「あ……そうか」

 しかし彼女はずっと一人で、今までは隣国だったが今度は遠く離れてしまう。

「これは俺のわがままなんだけど、どうにかならないかな?」

 ガルはしばらく考え込む。

「どうしても、というなら……多分ケイタは受け入れられないだろうが、リッザからの輿入れを受け入れるのなら」

 頭を抱える。

「フィーラなら多分受け入れるだろう。そのように育てたつもりだ」

「だからって!」

 一瞬ガルに掴みかかりそうになって、そこで我に返る。

 そうだよな、冷徹な事実を淡々と。損得勘定と愛情の天秤は別にある。

「ふふ、婿殿。いいやつだな」

 ガルの笑顔に更に毒気を抜かれる。

「強いな義父(おやじ)殿」

「何年ズィークをやっていると思っているんだ」

 顔を見合わせて笑う。

「あら、仲いいわね」

 ルテリアがフィーラとともに部屋に入ってきた。

「そりゃそうだ。死地から帰ってきた仲間だからな」

 ガルが両手を広げるとそこへルテリアがそっと入り込む。ルテリアがくるりと背を向けると後ろから緩やかにガルがルテリアを抱きしめる。うん、仲いいですね。

 フィーラがもじもじしていたのでため息を一つついてからガルと同じように両手を広げる。フィーラもそっと入り込んでくる。真似てそっと抱きしめる。俺の腕をそっと掴むフィーラ。なんかこう照れる。

「あ、ケイタ。これ別に魔族の風習とかじゃないからな? 外でやるなよ」

「え?」

 フィーラを見下ろす。俯いている。つむじを人差し指でつつく。

「痛い! 痛いですぅ」

「そりゃ痛いようにやったからな」

「ひーどーいー!」

「先に騙したのは誰ですか?」

 この会話中もずっと抱きしめている。

「あー、まあ……夫婦仲がいいのはいいことだが、できれば親の前ではやめてもらえないかね?」

 ガルが冷静に言うと包み込まれたままのルテリアがクスクス笑いながら言う。

「先にやっておいて何言ってるのこの人は」

「だっておまえ……」

「うん、わかりましたよ。我々は妻の尻に敷かれている。それでいいんじゃありませんかね義父(おやじ)殿」

 俺が苦笑交じりに言うとルテリアはクスクス笑いからアップグレード。ケラケラと笑い出す。

 つられてフィーラも笑い出し、俺もガルも苦笑い。俺は少し強くフィーラを抱きしめる。腕をキュッと握り返すフィーラ。

 家族というものは、いいものなのだな、とふと思った。


 会見当日。正装をして会議室へ入る。すぐ脇にフィーラがいる。

「アルピナ特使アルト・アルピノフ様到着しました」

「通せ」

 ガルと側近との会話を聞いて愕然。王子じゃんか。まじかよ。とりあえず無表情無表情。

 アルト・アルピノフ入室。その後ろにはアリサ・アルピノヴァ。なんですって?

 議事進行なんざ頭に入ってこない。

「ケイタ! 頭下げて」

 脇をフィーラに突かれる。慌てて頭を下げる。

「双方誤解があったということで、この件については解決でよろしいか?」

 文書が回されてくる。フィーラが読んで、サインすべきところを指し示す。

 Keita Verden Guarth

 まあこうだろうなという綴りでサインする。

「これで講和成立、だな」

 アルトが頷きながら言う。

「では続いてヴァイアブリーとアルピナ相互の関係を深めるための提案を一ついたしたい」

 嫌な予感しかしない。

「我が娘のアリサだが、見てのとおりの者だ。ケイタヴァーデングァ―ス、いかがか?」

「大変見目麗しい女性ですね。ただ、その……もう少し思慮をですね」

 言葉を濁して逃げる。

「ふむ。まあそうだな」

 苦笑いを浮かべるアルト。

「まあそこはおいおいケイタヴァーデングァースに教育してもらうしかないところだ」

 ハメられた。これで断ったら条約破棄。

 いや、破棄でいいんじゃないか。マルクの貸しの取り立てをしてもいい。

「お断りします。私は生涯フィーラルテリアヴァーデンを愛すると誓いました」

 アルトは苦笑いのままだ。

「王族というものは、民草のために自らを曲げるのもまた仕事ではある」

 アルトの言葉にガルが頷いている。援護射撃してくれよお義父(とう)様。

 ああ、そういえばマルクは側室の子だったな。王家をつなぐために、か。

 そもそも俺は一時的な王でしかないからあんまり関係ないんだけどな、そういう血族とかどうとかいうのは。

「仮定の話で申し訳ないが、この申し出を断った場合はどうなる?」

「残念だが、アルピナとヴァイアブリーは講和条約を結べなかった、と」

「ふむ。それならばそれで。数日中にアルピナが陥落しなければよいのだが。なんせ私にはマルク殿に貸しがある。そろそろ利息をつけて返していただかなければな、と思っていたところでしてな」

 私は頷くと席を立つ。立場の違いを理解させておく必要がある。

 アルトはため息をつくと書類を一枚こちらに寄こした。フィーラがそれを受け取る。

「マルク殿の継承権を剥奪、蟄居処分だそうです」

 フィーラに耳打ちされる。

「いかがですかな? ヴァイアブリー王」

 やられた。逃げ道なし。フィーラを見ると小さく頷いている。

「お受けしましょう」

 席に座る。アリサが赤い顔をして俺を見ている。悪いが、そんな顔をされてもな。

「一つ、いいですかな、アルト王子」

 俺が切り出すとアルトは鷹揚に頷く。そこはさすが王族だな。

「ヴィシュフ、コロトフ、ヴァレンコフ、ベゼロフのあのじゃじゃ馬たちはどうしているんですかね?」

「……なるほど」

 アルト・アルピノフは顎を撫で回し、うんうんと頷く。

「四伯爵家の娘たちはアリサの従者でもありましてな。当然、ついてまいります」

 頭を抱える。仕方ない。城内のどこかにまとめて五人暮らしてもらおう。

 輿入れに関する書類もまとめる。とは言え俺はサインするだけだが。

 ため息交じりにサインしているとフィーラが俺の肩にそっと手を乗せる。フィーラに笑顔を向けて、サインを書き終える。

「では、これで。アリサ、挨拶を」

「よろしくお願いいたします、旦那様」

 ……頭が痛い。


 ガルは優秀だ。だがなあ。

 このアルピナとの会見の翌日午前にフェーダとの会見が設定されていた。

 フェーダとの間に友好条約締結。これでヴァイアブリーは国境を接している国との間での戦闘は当面は起きないだろう。

 だが、悪い点も一つ。アルピナから輿入れがあるってことで、フェーダからも要請が来た。

 よりによってエシュリアだ。

 そうだった。あの子はフェーダの有力貴族カイルハーツ家の養女だった。なんてこった。

 そして更に午後。リッザとの会見をセッティングしていた。

 ヴァイアブリーはリッザと国境を接していないとはいえ山岡の問題もある。それの片付けということだろう。

 結論から言うと山岡はヴァイアブリーへ移動する。代わりにフェリシア・メーヴィスという女性を輿入れする、と。

 竜殺し殿の姪だそうだ。

 頭を抱える。

 俺に縁のある女性で絡め取る手かよ。

 ヴァイアブリー側の準備が必要だしそもそもフィーラとの挙式がまだということで、1年後に輿入れということだけは決まったが、それにしても、だ。

 ため息をつくと幸せが逃げるとは言うが、どうにもな。

 幸せが超高速で逃げているのを感じながら出立の準備をする。

「さっきからため息ばかりついて、どうしたの?」

 フィーラが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「ん、ああ……自分の今までの貞操観念を根底から覆されているからな。そもそもガルだって側室持っていないのに、なんで俺だけ……」

「ふふ、お父さんはお母さんが大好きですからね」

 笑顔のフィーラにため息で返事。

「んなもん、俺も同じだよ。なんでこうなった」

 フィーラが真顔になる。姿勢を正してフィーラを見る。

「以前、あなたは英雄(グァース)の器ではないけれども、世界に組み込まれた、と言いました」

 頷く。そのとおりだ。もう俺は世界に組み込まれている。最悪なことに()()()()

「すでに世界はあなたを中心に回っている。私はそう理解しています。その渦は強く、大きく、世界を変容させています。今回の三国からの輿入れの話も、その結果でしょう」

「魔族にとっての家族ってのは重要なものなんだろ?」

「ええ、もちろん」

 フィーラは静かに俺を見ている。

「それなのに、俺には……」

「彼らはあなたという力が怖いのです。本当はこんなに心優しい人だということを知らない。無知は恐怖を生み出します……私だって嫌ですよ。でも彼らの恐怖もまたわからなくもないんです」

「心優しい……ね」

 フィーラの評価に苦笑を返す。心優しい人間が、殲滅などやるかね。

 フィーラの両手で顔を挟まれた。頬を引っ張られる。

「まーた変なこと考えてる。ダメですよ」

 フィーラはそのあと両手でそっと俺の頬を包み込む。

「そうかな?」

「きゃ!」

 俺はフィーラを抱き寄せる。

「演者としては、こうするしかない、というのは理解しているが、ね。心はなかなか、な」

「それでいいと思います。あなたの心に私がいて、私の心にあなたがいる。それがはっきりしているなら、家族です」

 フィーラの銀色の髪をそっと撫でる。彼女は強い。俺は力があるのかもしれないが、心乱されている。弱い男だ。

「さ、帰るための準備、しましょ?」

 フィーラに促され、出立の準備を再開した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 力持ってんだから嫌なら断りゃいいのに。 なんだか負債押し付けられてるようで戦勝国に見えない
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