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1 グンダールのルヴァート魔術師長による召喚

 栗原慶太、17歳、男。

 フツーに授業に出て、フツーにつまんない物理の計算式を眺めつつウトウトしていた、はずだった。

 突然椅子が消え床にしたたかに尻を打ち付けて眠気が飛んだ。

「な、なに、なに?」

 夢じゃないなこれは。尻が痛い。床は石造りなのかなこれ。

 クラスメート全員いる。物理の田中はいない。みんな尻さすっている。そりゃ椅子が急になくなりゃそうなるよな。周りを見てみるとなんかの大広間っぽいところだな。

 女子が集まり始めた。わけわからん状況ならパニックになるのも当たり前だろう。

「よくぞ我が召喚に応じてくれたな、異界の勇者たちよ」

 天井の方から声がするんだが、なんだこれ。

「我がグンダールは現在魔軍との戦争状態にある。状況はかなり不利ではあるがその窮状を逆転するために貴公らを召喚したのだ」

「おいおっさん、頭大丈夫か?」

 江藤智明が天井に向かって悪態ついた。その気持ちはよく分かるが相手の意図がわからないうちに喧嘩を売るのはあまり得策じゃない。

「ふむ、そうだな。いきなり言われても納得はできぬだろう。ただ召喚術を行い、貴公らはこの地に現れた。それは受け入れてもらいたいものだ」

 天井からの声のあと、突然光が溢れて部屋の真ん中に何かが降りてきた。

「グンダールの魔術師長ルヴァートだ。我が世界に隣接する世界の住民が我らの世界に転移した場合、我らよりも遥かに高い潜在魔力性能(ポテンシャル)を持つ。このため危機の場合に召喚し、その召喚に応じたものを引き寄せ、共に戦ってもらうようにしている。代わりにこの世界での生活、地位を保証する」

「断る……と言ったらどうなる?」

 江藤が探るように言う。

「本来、召喚を受け入れたのでここに来ているはずなのだが、極稀に召喚後拒否する例がある。その場合は次の世界近接時まで保護、元の世界に戻すようしている」

 俺はこのルヴァートの口元を見ながら話を聞いていた。全く発音と口の形があっていない。なんだこれは。江藤はまだ問い続ける。

「次の近接時のタイミングは」

「三ヶ月後だ」

 俺も少し口をはさむ。

「なあ、潜在魔力性能(ポテンシャル)って何?」

「我々は生まれながらにして魔力というものを持つ。貯め込める量の上限、消耗した後の回復速度がそれぞれ異なる。ありがたいことに私は大量の魔力保持ができ、回復速度もそこそこあるので異界召喚(トランスポート)のような大きな魔術を短期間で連続して行うことができる」

「へー、で、俺らはその潜在魔力性能(ポテンシャル)が高い、と。高いとどうなるんだ?」

「上限が高いか、回復が高いか、その両方か。潜在魔力性能(ポテンシャル)の高い人間は魔力の制御方法を学べば無敵の戦士になる可能性がある」

「わかった。とりあえず相談させてくれ。俺らは平和な世界に生きてたんだよ。急に戦争とか言われても困る」

 俺の言葉にルヴァートは頷く。

「願わくば我らとともにグンダールの一員として戦ってもらいたいものだが、な」


 ルヴァートは少し離れたところで俺たちを見ていた。

「とりあえず相談するか。司会、イインチョよろしく」

「なんであたしがやるのよ」

 高木可奈美が声を上げる。

「慣れてるから」

「栗原くんはいつもそうなんだから……」

 文句を言いつつもとりあえず全員を座らせ、イインチョが前に出て議事進行を行う。

「まずは現状把握。とても信じられないけど、私達はグンダールというところに呼び出されている」

 ぉ、冷静だなイインチョ。流石だ。

「現時点での選択肢は、戦士として戦うか、元の世界に戻るか」

「戻る一択じゃね?」

 岸上正隆の発言にそうだそうだと同調する何人か。

「あ。ちょっとすまん、相談続けてて。俺気になることがあるんでちょっとあのおっさんところ行ってくる」

「栗原くん、何聞きに行くの?」

「いやさ、一部だけ帰るとかできんの? って話。俺らまとめて呼ばれたような感じじゃん」

「なるほど、お願いするわ」

 イインチョに手を振ってルヴァートに近づく。


「何だ異界の勇者よ」

「その呼び名、やめてよ。俺には栗原慶太って名前があるんだ」

「クリハラケイタ」

「そう、他のみんなだって名前がある。っとそれはいいんだ今は」

 そこで一旦話を切って、疑問に思っていた帰還時のルールを聞いてみた。

「何だそんなことか。送り返すときは一定の範囲内にいる人間を元いた場所に送り返すことになる。範囲外にいる人間はそのまま、だ」

「範囲内にいる人間を、元いた場所に……元いた場所?」

「そうだ。元いた場所だ」

 ルヴァートの言葉を考える。

 そう。多分、俺らは帰ることはできない。


 ルヴァートのところからイインチョのところに戻る。

 多分すごい顔色だったんだろう。イインチョが心配そうに聞いてきた。

「何か問題があったの?」

「うん、まあ……なあ、イインチョと、そうだな……山岡さん、ルヴァートのところに行って『元の世界に戻るときはどこに戻るのか?』って聞いてみて。質問はイインチョで、答えは二人で聞いてくるって感じで。でその時の答えを一字一句間違えずに覚えてきて。で、それぞれ別々に俺に教えてくれ」

「なんで?」

 山岡志保が不思議そうに俺を見る。

「あまり理由を教えたくないんだ。俺の仮説が正しいかどうかの立証にはできれば余計な情報は与えたくないんだよ。ごめんね」

「わかったわよ。もう面倒くさいんだから」

 山岡はため息付きながら了承。助かる。

「一度聞いたのよね? 再度聞かれるって相当不審に思われるけど、そこはどうするの?」

 ナイスだイインチョ、いい視点だ。さすがイインチョ。

「そうだな……『クリハラケイタはちょっとお調子者だからどうも話を盛ってるみたいなの。だから私が聞きに来た』とでも言えばいい」


 クラスの会議は一旦停止。

 イインチョと山岡がルヴァートのところに行って何か話し込んでいる。二人はしばらくすると戻ってきた。

「それぞれ耳打ちしてくれる?」

 イインチョの答えはこれ。

「お前たちがそれぞれ元いた場所に戻す。大丈夫だ、安心しろ」

 山岡はこう。

「元いた場所に時間は保証できないが戻ることになる」

 イインチョはおそらく俺の顔色から不安を募らせていた。山岡はもとの時間に戻ると信じていたからそれが否定された形で聞こえている。

 そういうことなのだろう。

「ああ、こりゃ絶望的……だな……元の世界には戻れない」

 俺の言葉にクラスメイトがざわつく。そりゃそうだよな。

「戻れないってなんで⁉ちゃんと戻してくれるんでしょ⁉」

 相田加奈子がヒステリックに叫ぶ。あー、まあそうなるよなー。

「ルヴァートは『元いた場所に戻る』って言っていた。この元いた場所ってのが俺らがいたあの教室の、おそらくはそれぞれの席、だろう」

「それなら別に問題ないじゃんか」

 古澤直哉が俺にツッコミを入れる。

「そうでもない。元いた場所に戻るとき、時間がどれだけ経過しているか不明、ってのがまず第一のリスクなんだ」

 ちょっと説明内容を考えてみる。

「そうだな、俺らの教室は4階にあったけどもさ、これが1000年後も同じ場所に同じように教室があるかどうかの保証はない」

 古澤はびっくりした顔でこちらを見て、そして頷いた。

 クラスメイトも静かに俺の説明を聞いている。

「仮に俺らが消えた直後の時間に戻れたとしよう。それも結構問題があると俺は思っている」

 考えをまとめるためにクラスメイトを見回す。全員俺を見ている。イインチョですら。

「俺らはこの世界に召喚された。その時、俺らの姿勢はどうだった――児島、おまえ、どうだった?」

 俺といつも馬鹿話をしている児島龍汰に話を振ってみる。

「どうだったって、尻もちついたよ」

「なんで、尻もちついたんだ?」

「そりゃ座っていた状態から椅子がなくなったからだろ」

 俺は大きく頷く。よし、望んでいた答えだ。

「そうだよな。だから俺ら全員尻もちついた。これが問題なんだ……おそらくは移動するとき、()()()()()姿()()()()()飛ばされる」

「それは事実なの? 栗原くん」

 イインチョが俺に向かって聞いてくる。

「わからん。ただ情報の断片をつないで妄想するとそうなるんじゃないかなって予想だけど」

 ここで女子がガヤガヤ言い出す。まあそりゃそうだよね。脅すんじゃねえってなるよね。

「んだよ脅かすなよ。ただのお前の妄想じゃねえか」

 江藤が吐き捨てる。そう。妄想なんだけど、でもかなり確度は高いと思っている。

「ルヴァートの発言と口の形が全くあっていないから何か魔法的なもので言葉を理解させているんじゃないかと俺は思っている。そうなると俺の妄想ベースでの思考に合わせて翻訳されてるんじゃないかなあ、という予想をしている」

「根拠はなに?」

 イインチョが聞いてきた。ナイス質問。

「イインチョの質問に対してイインチョと山岡の二人で聞いた回答が大筋では同じ意味だけど微妙に文が変わっているので、翻訳については確信している」

「……どうすりゃいいんだよ」

 児島が天を仰いで言う。俺もどうすりゃいいのかわからん。


 クラス会議は膠着状態。そりゃそうだよな……選択肢がギャンブルで戻るか、戦うか、だもんなあ。こりゃどうにもならん。ルヴァート呼んでもう少し細かい情報を貰おう。

「ルヴァ―トさん、ちょっとお願い」

 手を振って呼んだらルヴァートはこっちに寄ってきた。

「決まったか、クリハラケイタ」

「いや、全然。決めるにしても情報が足りなくてね」

 肩を竦めてみせる。

「ふむ。どういう情報が必要なのだ?」

「まず、潜在魔力性能(ポテンシャル)って測れるの?」

「数値化できる」

「……そう。どんな感じに?」

「上限値と回復値という形で計測できる。私の上限値は53002、回復値が5184。回復値は一日での回復量だが一日経過でまとまって回復するわけではなく随時回復する」

「魔術はどうやって習得するんだい?」

「習得というものはない。自らが望んだ結果に対し魔力が消費される。その希望に対し足りなければ不発だ」

 ……とんでもないなこれ。願えば叶う。ただし魔力があれば、か。

「じゃあ異界召喚(トランスポート)なんて名前はどうやって決めてるの?」

「術者が定めるものだ。私が決めたから異界召喚(トランスポート)、だな。なので効果が同じでも違う名前の事があるし、同じ師匠から習えば同じ名前になることも多い。もちろん自分がやりやすいように独自の名前をつけることもある」

 形が定まっていないから潜在魔力性能(ポテンシャル)ってことなんだろうな。

「へー、そりゃ便利だ」

「だが魔力の制御は多少訓練がいる。望めば叶うとはいえそれを具体的に形にするには想像力が必要だ。慣れていないと同じ結果を得るにしても消費する魔力が異なる」

 クラスメートがざわつく。そりゃそうだろ。()()()()()なんてどんな厨ニワールドだよ。

「ルヴァートさん、とりあえず全員の潜在魔力性能(ポテンシャル)測定してもらえないかな? 結果によって多分選択が変わると思う」

「ふむ、一理あるな。では測定を行おう」

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