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問題のある新入社員 最終話

「と、いうわけなんだ」


「鴻はバカなの? いやバカなんだな」


 田上にジトリとした目付きでそう断言される。その言い様は酷いと思う。


「だいたい、大川専務のことはどうしたの? 教育係が新人に手を出すとか一番やっちゃいけないことだろう?」


「まだ手は出してない」


「そういう問題か、バカ」


「痛っ」


 眉間に軽くチョップを食らった。痛みはさほどないが、パシリというやたら良い音がする。もしかして日頃から叩き慣れているのだろうか。


「鴻、お前なんでそんなのんびりしてるの?」


「というか、自分でも状況が良く呑み込めなくて。あと、付き合うとかそういう話はまだしてないし、これからして良いかどうかもわからないから、相談してからにしようかと思って」


「お前ら中学生か!」


 もう一度チョップが飛んで来たので、今度は避けた。


「避けるなよ」


「いや、一度受けたんだからもう良いだろう。俺はプロ芸人じゃないから、痛みはあまりなくてもそう何度も額を叩かれたくはない」


 俺がそう答えると、田上は缶ビール片手に、深い溜息をついた。


「それで何、付き合いたいの?」


「できれば付き合いたいけど、彼女の気持ちがわからない」


「じゃあ、本人に聞けよ。僕に聞かれてもわかるわけないでしょ」


「そうなんだが、その前に自分の気持ちを整理したくて」


「あーそう。整理したいなら一人で勝手にそうすれば? 僕の出る幕なんて無さそうだけど、何、お前はいったい何を相談したいとか言い出したわけ?」


「それは勿論、大川専務と小清水課長への言い訳を」


「……バカなの?」


「頼むからそうバカバカ連呼しないでくれるか? さすがに凹むんだが」


「本当に心底バカだからバカだって言ってるんだよ。そういうのは、バレないように隠せよ。言っておくけど社内でそういうのがバレたら、二人いる内のどちらかが別の部署に異動させられるぞ。

 しかも、音無さんには引き受けたいという部課長がいないから、必然的に異動を命じられるのはお前ということになる」


「マジで?」


「そう、マジで。だから、お前がこのままシステム開発課にいたいなら、彼女とは付き合わないか、誰にもバレないように隠し通すしかない。

 音無さんが結婚とかで寿退社するって言うなら話は別だ」


「……そんな前時代的な」


「一応社則に堂々と『社内恋愛禁止』とは書かれていないが、『社内で秩序や風紀を乱すものには相応の処分を下す場合がある』といった項目があるから、事情や状況によってはそれが適応される。

 別に不倫じゃなくて独身同士の交際でも、馘首(かくしゅ)や減俸するとまでは行かなくても配置転換は普通にある。

 だからそれでも付き合いたいのならば、絶対誰にもバレないよう隠し通せ」


「……マジか」


 ガックリと肩を落とした。


「だいたい、なんでそんなことになるのかサッパリ理解できないよ。

 面接の時の彼女の人間を見る目はどう見ても、養豚場のブタでもみるかのように冷たい目か、あるいは道端に転がる石ころを見るような目だったのに」


「はぁ?」


 何だ、それは。


「おい、田上。いくらなんでもそれはないだろう」


 そう言って田上を睨むと、田上は大仰に肩をすくめた。


「おっかしいなぁ、単純で大ボケでうっかりな鴻がどうあれ、絶対彼女が人間の男に興味を持つはずがないと睨んでたのに、見込み違いだったか。

 人を見る目にはそこそこ自信があったけど、やっぱり短時間で人を見極めるのは難しいなぁ」


「おい、こら、田上。訂正しろ」


 睨み、声を尖らせても、田上は頓着しない。


「まぁ、おめでとう、で良いのかな? あんまり祝福する気にはなれないけど、鴻がそれで良いなら良いんじゃない?

 とにかく大川専務と小清水課長には何がなんでも隠し通すってことで決まったんだから、それ以上相談することはないんだよね?」


「……お願いですから、デートする時の服を買いに行くのを手伝って下さい。あと女の子が喜びそうなデートコースを教示して下さい」


 俺がそう言って床の上で土下座すると、田上が胡乱げな目付きで俺を睨め付けた。


「ああ、なるほど、そっちが本題か」


 面倒臭いと言いたげな顔と口調ではあったが、何とか拝み倒して了承して貰った。


 自分で考えたり努力したりしてどうにかなることであれば、考えるまでもなくそうしている。


 独力ではどうにもならないからこそ、本当に、切実なのだ。



   ── 完。

というわけで完結です。


ここまで本編に入れたかったけど、文字数の関係で全面カットした分です。

後から思えば、プロットの段階で破綻している気もしますが。


元々は「私にしか書けない恋愛小説を書いてみよう」というコンセプトと作られたプロットで、

初期段階では「自分に自信のないデブ男を、デブ専女子が恋して変身させちゃうラブコメディ」でしたが、

どう考えても需要がなさそうな上に、どこかで聞いたようなコンセプトなので、一般受けしそうな内容に大改造してみたら、何故かこうなりました。


元の原型はほぼ皆無です。


他キャラ視点の話や続編など、需要やリクエストがあれば、感想欄などで受け付けます。

なければ今後は、他作品の更新に戻りたいと思います。


今回は資料書籍を大半をKindle Unlimitedで読み、いくつかを購読しました。

ASDに関する資料として個人の方が書かれたものにも目を通しましたが、小説を執筆する際の参考にはならなさそうだったので、それらを除外しました。

たぶん執筆時間の総合計より、資料収集および閲覧に掛けた時間の方が多かったと思われますが、すごく楽しかったです。


重度の活字中毒患者なので。

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