VIII.星に願いを~Wish Upon a Star~
夜に浮かぶ星空は、僕のちっぽけで些細な悩みも忘れさせてくれるほどに、夢中にさせてくれる空間。僕はそれまで誰と会うでもなく、ただ一人で眺めていればそれでよかったんだ。だけど、出会った。彼女に。
僕は同年代の男子と比べても背が低い。これが僕のコンプレックス。道行く人の顔を、まともに見ることの出来ない自信の無さと、自分の背の低さも相まっていつしか僕は、空ばかりを眺めるようになっていた。
お母さん以外の人とも話が出来ない。友達も少ない。それでも、夜空に浮かぶ星々は道行く人全てに等しくて、優しく語り掛けてくれる。僕の名前と同じ月、満たされた月もまた、静かに浮かび、静かな夜空から優しい光を輝かせてくれていた。
それでも僕は、1人で眺める夜空を寂しく感じることがあった。そんな時、何てことの無い彼女の声が僕の所へ届いたんだ。
「静かな月がキレイに輝いているね」
「う、うん」
「キミは何かを見つけられた?」
「え?」
「わたしと同じ学校に来て、何かを見つけることが出来たのかな?」
何て答えればいいのかな。僕は自分の声を言葉を上手く出せないよ。でも――
「凛星を見つけたんだ。僕の星を」
「そっか、そっか~面と向かって言われると、照れるね」
「声が聞こえたんだ。凛星の声が……だからあの……」
「静かな月くん、天文部入るよね? 入ったら、一緒にまた歩道橋で星空を見ようよ。ふたりだけで! 月愛は天文部じゃないんだ。わたしが頼んでいてもらっただけだから」
「え、じゃ、じゃあ……」
「そ。キミが入ってくれたら、わたしとキミだけの部。正式な部でもないんだけどね。わたしひとりだけの名ばかりの天文部だったから」
「は、入る。僕、凛星の天文部に入るよ」
「うんうん、これからよろしくね。静月くん」
そう言って、凛星は僕に手を差し出してきた。僕も彼女の手を取り、握った。歩道橋の上で大きく輝く満月を見ながら、僕と凛星は握手を交わした。そして僕は初めて彼女の顔を正面で見ることが出来た。
出会った時から決まっていたんだ。凛星、彼女と一緒に同じ場所、同じ時間に星空を見るってことを。