VII.星を求めて
僕は単に星空を眺めるだけが好きなわけじゃ無い。誰かが僕と同じようなことを思って眺めて、その時には言葉なんかいらなくて。背が小さい僕でも、あの場所……歩道橋の上でなら他の誰でも等しい位置で、夜空の月を眺めることが出来る。そんな空間をキミと分け合いたいだけなんだ。
天文部は確かにあった。だけど、僕の想いはそこにいた月愛先輩には伝わらなかった。歩道橋の上で星空を眺める僕が変わっている。そんなことを思う彼女はやっぱり凛星とは違うんだ。
次の日になっても、僕は先輩のことを探し回っていた。彼女の声を聞きたい。彼女に会いたい。また一緒に、夜空を眺めたい。同じ高校に入った僕は、まだ凛星のことを知らない。それでも、先輩と後輩としてでも会って話がしたい。
そんなに大きい学校でもないのに、僕は凛星に会うことが出来ずにいた。背の低い僕はこの時ばかりは、自分のコンプレックスを悔やんだ。凛星を探し歩くと、必ずと言っていいほど先輩女子たちに囲まれて、身動きが取れずにいた。
「と、通してください~」
こんな弱々しい一言を言うのがやっとで、どうしてか分からないけどいつまでたっても、僕は先輩である凛星に会うことが出来なかった。通学路の歩道橋でも会うことが無かった。どうしてだろう? 僕はもしかして嫌われていて、避けられているんだろうか。
同じ高校に通うことが出来ているのに、凛星に会えない日が続いた。学校には慣れて来たけど、元々僕は、男女関係なく友達を作ることが上手くない。だから、少ない男子たちとも話すことが出来なかった。
凛星と話がしたい。それだけでいいのに、同じ学校にいるのに会えない。頼れる友達もいなければ、先輩もいない僕にとって、凛星の存在が僕にとってかけがえのない人となっていた。
僕は星を眺める想いが違う人でも、頼れるのはあの人だけだと思っていた。どこを探しても、どこを歩いても巡り会うことの出来ない彼女を見つけてくれる。そう思えた。そして僕は、再び天文部の扉に手をかけた。
「し、失礼します」
「あれっ? 静かな月くんだ。入る気になった?」
「あ、あの、月愛先輩」
「なに?」
「天文部に凛星という人はいないですか?」
「……いるけど、何で?」
「会いたいんです。だから僕は……」
やっぱり天文部にいたんだ。あんなに星のことを話せる人がいないわけがないんだ。
「あぁ~やっぱりそうなんだ。キミが歩道橋の静月くんって子なんだ」
「えっ?」
「凛星から聞いてたよ? 面白い子がいるって。だけど、彼女もキミに何を話せばいいのか分からなくて、それで会わなくしていたみたい。さすがに後輩の男の子には戸惑うんじゃないの? 出会った時は中学生かぁ。冬から春、春から再会までの短い間に気持ちなんて変わるものだしね」
「そ、それでもいいんです。僕はもう一度、凛星に会いたい。星が好きだから。だから、月愛先輩。次の満月の日に、あの場所に僕はいるって伝えてもらってもいいですか?」
「それはいいけど、凛星が行くとは限らないんじゃない? キミの思っている想いと彼女の想いは違うかもだし。それでもいい?」
「はい、お願いします」
この気持ちが何なのかなんて、僕には分からない。でも一つ確実に言えるのは、もう一度会ってくれるならそれだけでいい。それだけで僕は、この学校に来れて良かったと思えるんだ。