VI.気づきの気持ち
先輩女子たちの囲みから何とか抜け出した僕の目の前には、凛星、彼女がいた。僕は嬉しくて、彼女に近付き声をかけようとした。
「り……」
「……ここ、人たくさんいて通り抜け出来ないし、向こうから回ろ」
「え? いいの? あの子、凛星のこと見てたよ」
「ん、いい」
彼女は僕を一瞬見たけど、すぐに向こうへ行ってしまった。確かに僕のことを呼んでいた気がしたのに。気のせいだったのかもしれない。だけど、凛星は同じ学校にいるんだ。それだけでも僕は嬉しくなった。
さっきまで僕を囲っていた先輩女子たちは、チャイムが鳴ると同時に素早く移動していた。僕は自分の教室を何とか見つけ出して、中へ入ることが出来た。
教室の中を見回すと、少ないながらも僕と同じ男子は、確かに席に座っていて思わず僕は胸をなで下ろした。良かった、女子高じゃなかった。
それでもどうしてこんなにも女子ばかりが多いのだろう。なんてことを思っていると、教壇に立つ先生がきちんと説明をしてくれてようやく、理解することが出来た。朝にお母さんが言いかけたことはまさに、このことだったんだ。
僕と同じように、肩身を狭くしたままどうすることも出来ない少数の男子。かろうじて男子トイレはあったけど、そこは先生たちも使うからやっぱり緊張してしまう。
僕は休み時間にはなるべく、校内を歩き回ることにしていた。早く慣れるのと、天文部があったらいいな。そんな希望もあったから。
幸いなのかどうなのか、分からなかったけど天文部は確かにあって、ちゃんと部活として活動しているみたいだった。そこに彼女がいるわけでもないのに、僕は勇気を出して教室の扉に手をかけた。
中に入ろうとする僕に、一人で本を読んでいた彼女は声をかけてくれた。
「希望の子? いいよ、入って来て」
「は、はい。あ、あの、僕は静月……です」
「綺麗な名前だね。と言うか、今年から共学なりたてだけど、キミは平気だった?」
「な、何とか」
「そっか、そっか~あ、ゴメンね、名乗ってなくて。私は2年の月愛って言うの。月の愛って書くんだ。キミは静かな月くんでいいのかな? よろしくね」
「は、はい。月愛先輩」
何をどう言えばいいのだろう。名前を聞けたのはいいけど、話が続かない。緊張もあって、僕は教室の中を見回してしまった。それに気付いて彼女が声をかけてきた。
「ここへは誰かを探しに? それとも星を見るのが好きだから?」
「えと、僕は星空を眺めるのが好きで、だからいつも歩道橋の所で見ていて……」
「ふぅん? 歩道橋って、通学途中のあそこ? 静月くんって変わってるね」
あぁ、やっぱり違うんだ。そんなことを聞きたいわけじゃ無いのに。やっぱり、凛星じゃないと通じないんだ。僕は誰でもいいわけじゃ無いんだ。彼女の声、彼女との空間が良かったんだ。
「静かな月くん、どうかした? 天文部に入る?」
「あ、あの僕は……月が好きなんです。でも、それだけじゃなくてだから、あ、後でまた来ていいですか?」
「うん、いいよ。考えといてね、じゃね」
天文部で星空を眺める……僕はそれだけじゃないんだ。眺めるのに、隣には彼女がいてくれないと駄目なんだ。同じ月の名前をした先輩に出会えた。だけど、僕は教室を後にして彼女に会いたい、それだけを思いながら、教室を探し回った。