V.先輩女子たちと僕
冬の夜空で凛星と見た月は、とっても綺麗だった。僕はあの日のことを忘れない。凛星と出会えた日でもあるんだ。そんな冬空もあっという間に過ぎて、春になっていた。
僕は凛星と見た夜以降、一人ででも夜空を眺めに出かけていた。だけど、どうしてだろう。僕はいつも一人で眺めていてもそれだけで満足していたのに、隣にいた彼女がいない。それだけのことなのに、寂しくて声が聞きたくて、一人だけで夜空を眺める日が減ってしまっていた。
そして、春が来た。僕は、彼女のいる丘の上の高校にもうすぐ通えるんだ。そう思っていたら、自然と嬉しさが込み上げて来て、期待に満ち溢れながら制服に袖を通した。
「静月、一人で行ける? 私も後で行くけど今から一緒に行こうか?」
「僕は大丈夫だよ。だって、夜に何度も歩いた道だよ? 歩道橋だって慣れ親しんだとこだし、平気だよ」
お母さんは何度も念を押して僕を心配してくれる。嬉しいけど、僕はやっぱり何かを期待している。だから、自分だけで通学路を歩きたいんだ。お母さんは式で見ていてくれる。それが分かっているから、今は甘えたくないんだ。
「あ、しづ、あのね……しづが通う高校はね……」
「大丈夫。僕は怖がらずに通うよ! だから、安心していてね」
「あっ……!」
僕は何の先入観も持たずに高校に行きたかった。いつも遠くからしか見ていないけど、行けばきっと分かるし、それがどんなことでも何とかなる。そんな気がしているんだ。何より、彼女が通っている学校なんだ。だからきっと、大丈夫に決まってるよ。
入学式を終えて、クラスが発表になった。僕はこの時まだ、気付くことは出来なかった。そしてそれは、凛星に会うことが難しいということを知るんだ。
教室に向かおうとする僕に立ち塞がるのは、圧倒的に女子、女子、女子……気付けば僕は、先輩女子たちに囲まれていた。あれ? 僕の通う高校って共学だよね。間違ってないよね? そんなことを思う余裕も生まれないくらいに先輩女子が僕を見ていた。
「ウソ、この子可愛いんだけど~~!」
「ねえ僕、新入生? どこに行きたいの?」
「小っちゃいね、抱っこしてあげよっか」
「え、あの、ぼ、僕は教室に」
「この子、僕だって! 僕ッ子、ヤバいんだけど」
「え、えと……」
うう、本当にここって共学だよね? 今のところ、先生以外で男子を見ていないんだけど、僕は大丈夫なんだろうか。囲まれた僕は、どうすればここから出られるんだろう。
そんなことを思っていると、囲いの向こう側から、僕の名前を呼ぶ声が聞こえて来た気がした。もしかして、彼女なのだろうか。必死になって先輩女子たちの囲いを抜け出した。そして、そこに彼女がいた。