I.夜空の下で
ボクは身長が低いことをコンプレックスに感じていた。だけど、夜空を眺めていると自分が思っていることなんて、すごく小さいことなんだって思えた。宇宙の空に浮かんでいる無数の星たち。ボクはいつも星空を眺めている。
出来れば自分の家よりも高いところから見たい、そんなちょっとの努力を思い付き、春から通うことになる高校の通学途中にある歩道橋の高さと場所がすごく気に入って立ち止まってしまった。
歩道橋の真ん中に、どうしてかまるで星空を眺めるボクのためにあるようなスペースがあって、行き交う人たちを気にすることなく、ボクはそこで星空を眺めていた。
歩道橋のちょっとした空間、星を眺めるスペースで夜空を眺めるキミと出会えたんだ。声をかけてくれたのはキミの方からだったけど。
「キミって、中学生?」
「えっ? う、うん」
「星、好きなんだね。わたしも好きなんだ。ここって、歩道橋なのにまるで星空を眺めてくださいって場所だと思わない?」
「うん、たぶんそうだと思う」
「キミはおうち、近いの?」
「えっと、ここ、通学路の途中だから真ん中くらい」
「もしかして春から丘上の高校に通うんだ? わたし、そこの生徒なんだ。それじゃあ、キミは後輩くんになるのかな。またいつ会えるか分かんないけど、なんて名前なの? わたし、凛星って言うの。キミは?」
「ボクは静月……あの、歩道橋にいたらまた星空を見ますか?」
どうしてか分からないけど、この人と一緒に星空を眺めたい。そう思ったら、こんなことを口にしてた。
「そうだね、うん。約束できないけど、わたしもここの歩道橋が通学路なんだ。春になる前の今の時間なら夕方からでも星は見えるし、気付かないうちに星空を眺めてるかもしれないかな」
「ボ、ボクも高校までの道を覚えるためにここを通るから、だから……もしいたら、また声聞いていいですか?」
「声? あ、話をするってことだよね。うん、いいよ」
「じゃ、じゃあ僕、そろそろ帰らないと。えと、凛星とまた会えたら……またね!」
「えーと、静月くん。またね」
星を眺めるのが好きで、通学路になる歩道橋で眺めていたボクは、同じく星を眺めるひとに出会えた。また会って、話がしたいな。春が近づきつつある冬の空。少しだけ寒さで手がかじかんでしまったけど、ボクは歩道橋の上、星空の下で彼女と出会えた。またキミに会いたい、そんなことを思いながら家に戻った。