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声の潜むところ


リシュリュー・アンデルセンは投獄されている。


投獄されていると言っても、彼は何らかの罪を犯したわけではない。



彼は清廉潔白を人型に押し込めたような人間で、いたって勤勉で、領主の城の庭師としての仕事ぶりから、領主や村人からの信頼も厚い。


彼自身も人を信頼し、何より神という存在を信じ切っている。


そんな彼が投獄された理由。それは、〝讒言〟によるものだった。その讒言とは「領主の娘との駆け落ち」であった。




もちろん無実である。




しかし、無実の中にも僅かながら事実があった。それは〝その娘を心から愛してしまっている〟ということだった。


その娘も彼を愛し、父である領主もそのことを知っており、出来ることなら名家の愚息共に嫁がせるよりリシュリューを養子に迎え一緒にしてやりたいとまで考えていた。



そんな時に讒言が流された。



リシュリューは仕事を終えて村に帰ったところを捕らえられ、そして村のはずれにある牢に繋がれた。



干し草が敷かれただけの簡単な寝床に腰を下ろし、鉄格子から入り込む月明かりに照らされながら彼は思考する。


彼には〝讒言〟を垂れ流した真犯人の見当はついていた。


村長のジャン・オークだ。



彼は昔から清廉潔白で皆からの信頼も厚いリシュリューを嫌い、ことあるごとに「羊子の皮をかぶった狼」と陰で罵っていた。


一村の青年であるリシュリューにそこまでの敵意を向ける理由。


それはリシュリューの方がジャンよりも村人からの人望が厚かったからである。


リシュリューが自分の村長としての座をその人望で脅かす存在になると彼は感じたのだ。



危険な芽は早いうちに摘み取る方がいい。



そう考えた彼は、リシュリューが領主の娘に思いを寄せていることに気付き、そこに目を付けたのだ。


村人たちはリシュリューが拘束されたことを聞くと、驚愕すると同時にあきれ返った。


「あの馬鹿はとうとうここまで来たか。」


村人たちは口をそろえてそう言った。


皆が寝静まったころ、リシュリューは牢屋で一人瞳を閉じ、思索を続けていた。


その時、かすかに酒の匂いを漂わせながら誰かが草を踏み分けこちらに近づいて来た。


誰が来たか見当はついている。リシュリューは構わず思索を続ける。


その足音は牢の前で止まり、音の主は牢の格子を蹴った。


「よう、狼。とうとう尻尾を出しやがったな。俺の大事な〝羊〟たちを食い荒らそうとしやがって」


その台詞にリシュリューは一瞬だけ憤ったが、冷静に無視を続ける。



「ここは俺の村だ。俺がすべてだ。それに従えない奴、俺に刃向かう奴には罰を与える。それが狼なら死んでもらう」



リシュリューは無視し続ける。


「まあ最期までそうしていい子ちゃんぶってろや」


そう言うと、ジャンはリシュリューの足元に唾を吐き捨て高笑いしながら去って行った。


リシュリューは彼の姿が見えなくなるまで毅然としていたが、姿が見えなくなると、深く息を吐いた。


彼はたった今、明確な死刑宣告を受けた。その事実が頭を巡り、記憶、想いが溢れ出す。


泣こうにも泣くという感情に脳が行き着かずただ焦りと不安に駆られ、彼はため息まじりにこう漏らす。



「主よ。私はどうすれば良いのでしょうか……」



「簡単だ。お前が変わればよいのだ。そうすればすべてが変わる。」



突然の声にリシュリューは辺りを見渡し、声の主を探す。だが今度の声の主は何処にも見当たらない。


「誰だ!?」


「これは失礼。普通ならば、自らの正体を明かすのが先だろうが、今はそんな暇はないのだ。許せ」


「どこから見ている!?いつから見ていた!?」


「お前の問いに答えるとするならば、こうだ。探しても見えんさ、今のお前ではな。


そして、ずっと見ていた。だが、いつまでたっても、お前の信ずる主とやらがお前に救いの手を差し伸べないので、私が救ってやろうというのだ。」


「己の姿すら見せないお前には救えるというのか?」


この問いにはあざ笑うかのような「お前次第だ」との答えが返された。



「で、お前はここから出たいのか?出たくないのか?生きたいのか?死にたいのか?」

さして興味も無さそうに声は問う。


「叶うのならばここから出たいし、生きたい。だが、この状況に意味があるのなら、主の〝思し召し〟ならば甘んじてどんな難も受けよう」


「思し召し?」


「そうだ。これは私の信仰心が試されているのだ。ここで死んだとて、それは神の思し召しだ。胸を張って死ねる」


その時、声はこれまでこらえていた感情を爆発させるように笑い始める。


そしてまたあざ笑うような話し方で続ける。


「すべての苦難を〝思し召し〟などという言葉で片付けることで全てをあきらめる。場合によっては自らすべての可能性を閉ざし死を選ぶ。



そんなものは私に言わせれば、敗北でしかない。完膚なきまでの大敗北だ。だがな、敗北にも二通りある。一つは今言った大敗北だ。もう一つは抗った末の惜敗だ」



この言葉にリシュリューは、今話している謎の存在に対し怒りを爆発させた。



「この悪魔め!何が敗北か!」


「苦難により信仰心が試されるというのは間違っていない。


だが、そういったものはすべて乗り越えなければ意味がないだろう。流れに身を任せ抗いもせず苦難を受け入れることを大敗北というのだ」




声はそんな言葉を今度は冷静に呟く。


リシュリューは混乱し、黙り込む。



今自分が話している存在は何が目的なのか全く見当がつかない。


悪魔なら甘い言葉で惑わせてくるはず。しかしこいつは、これまで自分たちが聞かされてきた教えこそ批判しているが、快楽や漬け込むような言葉をかけてきてはいない。


むしろ冷や水を浴びせ目を覚まさせるような鋭い言葉をかけてきている。



「よく考えてみろ、この件はお前に非があるのか?」



「……。だから、これは主が……」



「下らん!下らん!そんなことは聞いていない!お前の、『リシュリュー・アンデルセン』自身の話をしているのだ!


他人から教わったことをここで披露しろと誰が言った?己で体得していない者が披露する教えなど誰が信じる?本当のことを言ってみろ!



お前は神の操り人形ではあるまい?



本音を押し殺すのが信仰か?であるならばそんなもの人のための信仰ではない、


われわれ人間は神とやらのご機嫌取りのために生まれてきたというのか?




否。




厳然と何かを成すために生まれてきたのだ!



お前は何も成さずにただ諦めの前に倒れるつもりか!



さあ、本音を言え!人間!」





この言葉にリシュリューの理性がはちきれる。




「俺は潔白に決まっているだろう!確かに俺は彼女を愛している!それの何が悪い!?


俺は掟など犯してはいない!罪など犯していない!犯しているのはジャン・オークの方だ!


何の罪も犯していない人間を牢に繋ぎ、処刑しようとしているあの男こそ罪人だ!!



教えろ!姿も現さない声よ!


俺はどうすればこの苦難を乗り越えることができる?


彼女をもう一度この目に焼き付けることができる?


お前は知っているのだろう?さあ教えろ!」



絶叫する。


自分以外存在しないはずの牢屋で絶叫する。




その絶叫を聞き、声は冷静に応える。



「ああ、知っている。


お前がこの状況から抜け出す状況はただ一つ、他力本願をやめることだ」




「他力本願だと?」


「そうだ。


まずは他者にではなく、己を見てみろ」




「俺の中?俺には何も……」




「一度でもお前は自分の中にあるモノを信じたことはないのか?


己を信じれないものがどうやって他人を信じるというのだ?


そんなもの信仰ではない。


今のお前は『信仰心』という言葉のみで自分の自己満足を防御しているに過ぎない」



声はまたしてもあざ笑うように言う



〝信仰心というものは全て自分に返ってくるのだ〟



これまでになく冷静に声は語る。


「返ってくる?」


「よくよく考えてみろ、お前の信じる主は良い行いをしていれば天国に連れて行ってやると言っているんだろう?


それは最終的に自分が救われたいからその主を信じ、言うことを聞いているのだろう?」



リシュリューは声のぞんざいな言葉が癪に障ったが、納得させられてしまった。


黙るリシュリューを見てなのか、声は少しばかり呆れた風に続けた。



「まあいい、これまで自分を信じれなかったというなら、どうせ最後になるなら自分を信じてみたらどうだ?


主とやらは最後に己を信じたぐらいでヘソを曲げるような子供ではあるまい?」



「いちいち腹の立つ奴だ……」



そう言いながらリシュリューは内心、この声の言うことに惹かれていた。




“どうせ最後だ、ただ殉ずるだけでは残された村の人たちが苦しみ続けるだけだ。



なら、ジャンの罪をぶちまけて死んでやる!”




リシュリューの中で何かが噛み合った音がした。



「わかった、お前の言う通りにしよう」



その言葉を聞き、声は囁くように言う。




「やっとお前自身の戦いをするのだな」




「ああ」とリシュリューは短く返す。




「もうすぐ夜が明ける。

誰かが来る前にお暇させてもらうが、最後に何か言いたいことはあるか?」


全く名残惜しさなど感じさせないトーンで声はそんなことを言う。



リシュリュー自身も全く名残惜しくはなかったが、突然訪れようとしている別れに少し驚きながら思いついた言葉を発する。



「お前の姿を見せてくれないか?」



声は得意のあざ笑う言い方で返す。



「俺はお前が言うところの悪魔だ。何にでも化けることができる。


そんなものの姿を見ても何の得にもならんさ」


今度は逆に、リシュリューがあざ笑うように答える。



「目の前の迷える子羊を誘惑しない間抜けな悪魔のツラがどんなものか拝みたくなったのさ」




声はこれまでにない大きな声で笑う。嘲笑うようにではなく、正直な、友人と談笑する時ような音を牢に響かせた。



「いいだろう、別に出し惜しみするものでもない、見せてやる。振り返って外の木を見てみろ」


言われえるがままに牢の外に生えている木に目をやった。


そこには月明かりを背に纏った一羽のフクロウがリシュリューを見つめていた。



リシュリューは呆気にとられ声が出ない。



「どうした?これでは不満か?」



そう言うと、フクロウは牢の格子をすり抜けリシュリューに向かって狩りをするかの如く飛び掛かる。



それをリシュリューは寸前でかわす、そしてフクロウが降り立ったであろう先に目を向ける。




しかしそこに居たのは黄金に輝く獅子だった。




〝主よ、この美しいものは貴方の使いなのですか、それとも……〟




リシュリューは心の中で自然に呟いていた。


その獅子は一歩リシュリューに歩み寄り、そんな彼の心を読んだかのようにこう語った。



「それは違うな。あくまでそいつはただの他人でしかない。



真の姿はお前が知っている。

眼に映るものだけが真の姿に非ず。

己が心の鏡に映るものそれが真の姿なり。




リシュリュー・アンデルセン、己が鏡を磨け。そして皆の眼に焼き付けてやれ、お前の姿を」



そう言うと、獅子はリシュリューに飛び掛かる。




彼の視界は黄金に染まり、全身がにわかに発熱し、全く場違いな眠気に襲われた。






 ずっと続いていた体の熱が急激に冷めていくのを感じ、リシュリューは目を開ける。


すでに夜が明けていた。


リシュリューは先ほどまでの光景を全く夢だとは思っていない。


手についた小石、少し枯れた声、それと自らのうちにある〝何か〟がそう思わせるのだ。



仰向けになり自分の掌を眺めていると、数人の草を踏み分ける足音が聞こえた。


「おい、さっさと起きろ。呑気に床で寝やがって。


今日がお前の審判の日だってこと忘れてんじゃねえだろうな?」



声の主は親友のジョーイのものだった。


その後ろにはジャンから命令されたのだろう、後ろには奴と仲がいい兵士が立っている。



兵士は牢の前まで来ると、ジョーイの背中を槍の尻で小突き檻を開けるように指示した。


リシュリューは察した。


趣味の悪いジャンの事だ、発狂寸前のリシュリューを友人に見せつけたかったのだろう。


だが今の彼は発狂とはほど遠い精神状態であった。むしろ親友をいたわる余裕すらある。




「心配か?」




「当たり前だ、馬鹿。



俺だけじゃない。村長を除く村人全員がお前を心配してる。


でも村長が怖くて声を上げれねえんだ。


あの野郎、あと何人か自分で雇った傭兵を仕込んでやがるみたいなんだ。


規模は分からねえがな」



兵士に聞えないように小声で話すジョーイにリシュリューは「本当に趣味が悪いな」と笑いながら返す。


その姿にジョーイはい何か言いたそうな表情を浮かべたが、それをため息に変え前を向いた。



牢を出ると、リシュリューは村の広場へと連れて行かれた。


手と足に錠を付けられ歩く彼の姿を村人たちが不安げに眺めている。


神父が中央に立ちその右側にジャンがいる。


そして神父の正面にリシュリューが配置されることで辛うじてこの場が裁きの場となることを表していた。


村の神父が簡易裁判の開廷を宣言し、罪状を読み上げる。


リシュリューは黙ってそれを聞く。


その後でジャンが迫真の演技で入念に仕組んだ嘘のシナリオを話していく。


リシュリューには、その姿はさながら喜劇に思えた。


ジャンの喜劇が終わり、次はリシュリューの番であったが、枷を付けている人間は踊ることはできない。


かといって代わりに踊ってくれる者もいない。つまり、リシュリューを弁護する人間はいないのだ。


ジョーイが言っていた「誰も声を上げられない」とはこの事だろうとリシュリューは悟った。



しかし彼はこの状況を楽しんでいた。



「この騒ぎ自体もジャンの喜劇だと思えば、自分の踊る幕はないのは当然だ」



と下を向きながら笑みをこぼすのだった。



「リシュリュー・アンデルセン、最後に何か言いたいことはあるか?」




「神父様、私は何もやましいことはありません。


彼女を愛しています。」



リシュリューは冷静に、先ほどとは違う笑みを浮かべそう答えた。


彼はその笑みを浮かべたままチラとジャンを見ると彼は今にも吹き出しそうな顔でリシュリューを見ている。


リシュリューはその顔を視界から外し、大きくいいを吸い込み笑みを消した。





「だからこそ私はこの裁判に納得などしていません。


これは私への難であることは間違いないでしょう、しかし私はこの難で殉ずる気は一切ありません!


先ほど言ったように、私にやましいことは一切ありません!罪など犯していません!」



隣にいた兵士がリシュリューを組み伏せる。


その際にリシュリューは顎をしこたま地面に打ち付けたが構わずに叫び続ける。



「真に罪を犯しているのはそこにいるジャン・オークだ!」




その時、村人の中から声が上がった。

「いや、まだいるぞ」




ジョーイだった。




「そこにいる兵士もグルだ!


こんな不公平な裁判を認めた神父、あんたも同罪だ!」




ジョーイの声に神父は目を丸くするだけで、リシュリュー達を止めようとしなかった。


対照的にジャンは怒りを露わに喚き散らす。



「もういい!悪魔が正体を現した!あの二人を殺せ!」



その命を受け、ジャンに付き従った数人の兵士がリシュリューとジョーイを取り囲んだ。




その時、村の柵を飛び越え一人の騎士が村に乱入してきた。


しばらくして、さらに数十名の完全武装した騎士が続く。



その騎士団はリシュリューの周りを取り囲むジャンの兵たちを一瞬で蹴散らし、そのままのジャンを逆に包囲した。




成す術なく捕縛されたジャンは、最初に乱入してきた騎士に対してこう叫んだ。




「御領主様!これはどういうことですか!?」




村人たちがにわかにざわつく。


騎士は答えない。



「どうかご慈悲を!!」




このジャンの声に対し、騎士は兜を脱ぎ低く重い声で無感情に口を開く。



「お前に対して慈悲などあるものか、この〝狼〟め。


私の〝民〟を食い荒らそうとしおって」



その言葉にジャンは大きく目を開くだけで何も声を発しなくなった。



騎士は振り返り、村人たちに顔を向け、村人たちは慌てて跪く。



早朝にもかかわらず彼らの上空には何かを察したのか、無数の鴉が不気味に飛びまわる。



「これより、ジャン・オークの裁判を始める」



鴉の鳴き声が響き渡る中、領主は唐突にこう叫んだ。



村人は無言で領主と取り押さえられているジャンを見つめる。


「証人はこの場にいる皆だ。


こやつの悪事を今話すがよい」


領主のその言葉に堰を切ったように村人がジャンの悪事を暴露する。



金目のものを奪われた者、暴力を受けた者、不当に土地を奪われそうになった者、



皆がこれまでジャンにされたことを口が乾き、声が枯れるまで叫び続けた。




「皆もうよい、よくわかった。」


その言葉に村人たちはまだ言い足りなさそうにくちを閉じる。




「ジャンよ全て認めるか?」


ジャンに向き直り、領主は先程と打って変わって諭すような声で語りかける。


「ここは俺の村だ……」


絞り出すようにジャンは答える。




「俺がどうしようと勝手だろ!」



そう叫びジャンは取り押さえていた兵士を振り払い、懐に仕込んでいた短刀を取り出し領主へと襲い掛かった。




リシュリューを含む周りにいたものは誰も動けない。




だだ、領主は例外であった。




一瞬でジャンの手首を撥ねたのだ。



飛びかかった勢いのままジャンは再び地面に倒れ込む。


「さらばだジャン・オーク」



もう興味が無くなったかのように背を向ける領主にジャンは叫ぶ。




「どうか御慈悲を‼︎」





領主はこれまでに無い大きな声でそれに答える。




「慈悲なし!」





それがジャンが最後に聞いたこの世の言葉だった。



ジャンの兵士たちは恐れおののき腰を抜かし、悲鳴を上げ散り散りに逃げてゆく。




誰もいなくなったその場に残されたのは剣によって串刺しにされた村長ジャン・オークの骸だった。




村人たちは先ほど狂乱と打って変わり、何も言わずにその骸に向かって十字をきる。



領主はそんな光景に目もくれず、リシュリューに歩み寄り、口を開く。


「お前が来ないと、「話し相手がいなくてつまらない」と娘がうるさくてな。


まあ、今日は無理だろうが、明日にでも来てくれ。」



「どうしてここだと解ったのです?」




リシュリューは、顔のシワのせいか少し虚ろに見える顔に語りかける




領主は少し顔を上げ、「遠吠えが聞こえてな」とだけいい。城へ引き揚げていった。




領主達の姿が見えなくなったあと、リシュリューは改めてジャンの骸に向き合った。



その時、不意にあの声が聞こえた。



「お前の勝ちだ。お前はこの局面で最後まで自分を信じきり、自分の意思で戦った。



奴を見てみろ、あれが最後まで他者の不幸を祈り、己の欲に負け続け堕落した者だ。



あれが信仰心を履き違えた者の成れの果てだ。」




「後味が悪いな……。」




「仕方あるまい。奴は己ではなく、己に巣食う悪魔を最後まで信じきってしまったのだからな。」



「魔とのあくなき闘争か……」


リシュリューは足元に転がる剣に眼を落とし、小さく呟いた。


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