冒険者
闇色に街が染まる。歓楽街や酒場から光が漏れ出ている。道に街灯などあるわけもなく、夜空には美しく輝く星々があった。静かな街を中世ヨーロッパ風の城から見ていた少年はすぐ側にいた二人の男女に何かを話し、推定30m以上地上から離れたラウンジから飛び降りた___。
___時は昨日の夕刻まで遡る。折角の貴族服の袖を捲り茶髪に焼けた褐色の肌を空気に晒している一人の男、斎藤充は同じく茶髪の美形の妹、斎藤凛と共にある一人の少年の部屋にいた。その少年とは、言わずとも分かるであろう。天草蓮である。
紺色の髪に少し青が混じった黒の双眸。極めつきは少し幼く見えるその顔つき。目元は少しつり上がっているのだが、それも蓮の魅力を掻き立てる一つの要素となっていた。着ている貴族服と合わせて想像できる正体はどう見ても何処ぞの貴族のお坊ちゃんであった。充と凛が必要以上に世話を焼きたくなるのも頷けるだろう。
「蓮、今日の夜に城を出るからね。あ、資金はくれるみたいだよ?確か…銀貨1枚だったっけ」
「うわっ、マジで?あの豚ウザすぎ。全然足りないじゃん!蓮君は冒険者になるのに!」
凛が苛立ちを露にする。
一家庭の一ヶ月の生活費が銀貨3枚程度だという。但し、それは街中で仕事をしている場合の話だ。
冒険者は魔物を狩る際の武器や防具、素材の剥ぎ取り用のナイフなど、まあまあ金がかかる。それに加えて冒険者になるには銅貨3枚が必要になる。冒険者になるなら銀貨5枚は用意しておいた方がいいらしい。つまり、5000ギルだ。因みに、日本円に換算すると五万円である。
初心者用の武器や防具もあるが、耐久性が弱く精々ゴブリン程度しか殺れないのであまりオススメできないとか。それに、始めは少ない報酬の依頼しか受けられないので、当分の生活費も用意しておかないと野垂れ死にするかもしれないらしい。
ランクの高い魔物もゴブリンの生息地付近には生息しているので、武器や防具は幾ら高くても良いやつにしろ、というのが冒険者ギルドの言い分である。勿論その後には、死にたくないならな、の言葉が続いている。
命懸けだが金は稼げるので冒険者になる人は結構多かったりする。まぁ、冒険者になった奴は大体がSランク冒険者になるという夢を掲げた阿呆らしいが。…そんなことはどうでもいいか。
因みに、白金貨は滅多に市場には出回らず、大規模な討伐依頼や貴族間の取引や奴隷商との取引に使われているのだという。まぁ、庶民には関係のない話だ。
…ここまでの情報は充が侍女から聞き出してきたものである。侍女が何でこんなこと知ってるんだよ
「…充と凛は本当に着いてくるのか」
「「当たり前」」
即答で返され、蓮は溜息をついた。今後、必ず二人の存在が障害になるだろう。信用していないわけじゃないが、仮に正体を明かしたとしてもどこから情報が漏れるか分からない。何より、ステータス値に差がありすぎる。危険すぎる賭けに乗るほど蓮は馬鹿ではなかった。
前龍皇は度々人間の姿でこの国に来ていたのだが、此処の冒険者ギルドで最速でSランク冒険者になったという偉業を成し遂げている。今は色々な国を放浪中ということにでもなっているのだろうか。…話を戻そう。前龍皇はドラゴという偽名を使っていたらしいのだが、冒険者として活動している最中に色々な素材や武器、防具等を亜空間に保管していたのである。その所有権は既に蓮に移っており、蓮はそれらを使えるようになっていた。
…が、充と凛がいると話は違ってくる。これは正体を明かさない前提の話だが、まず全力を出せないし、保管してある武器や防具も使えない。前龍皇のものを使うのもどうかと思うのだが、このステータスで使っても耐えられるのは前龍皇の持っていたものぐらいだろう。売っている武器や防具を使ってもすぐ壊れてしまうに違いない。
それに、正体を明かして怖がられたり軽蔑されたりしたら一生人を信用できなくなる自信がある。
故に、蓮は絶対一人にならなければならないのだ。…何そのぼっち宣言。悲しすぎるだろ。
「…ちょっと待てよ?」
蓮は自分のステータスに書かれていたスキルを思い出し、これならいけるかもしれないと少しだけ歓喜した。眷族化である。すぐにステータスを開き、眷族化のスキルがどういうものなのか調べる。
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眷族化Lv.MAX
対象を自分の眷族とする。
対象にステータス補正。
対象を支配下におくことができる。
対象がLv.999以下なら100%成功する。
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まさに望み通りのスキルだった。思わず蓮は心の中でガッツポーズをした。
これならステータス値の差も縮まるし、情報漏洩も防げる。…まぁ、正体明かして怖がられでもしたら意味無いんだけど。
覚悟を決め、恐る恐る口を開く。
「…なぁ、充、凛。ちょっといいか」
若干声が震えているように思えた。…いや、間違いなく震えているだろう。
「何、蓮。まさか俺らを置いてくなんて言わないでよ?」
「そうそう!私たちは蓮君がいなきゃ死んじゃうんだから!」
「愛が重いよ、凛…」
そんなことを言いつつ笑いあっている二人を見て、蓮は、自分は何に怯えていたのだろうと思った。この二人に拒絶されることなんて、あるわけがない。今までどんなに馬鹿らしいことでも、この二人は受け入れてくれたのだ。
そう考えると、震えていた声は元に戻り、自然と口が動いた。
「俺、人間じゃなくなっちゃったんだ。…龍皇っていう種族になったんだ」
視界が歪む。
充と凛の顔は見れなかった。 どう見られているのかを考えるだけで恐ろしかったのだ。
「…なぁ、蓮。俺らは蓮の幼馴染みだろ?そんなに震えるなって」
「蓮君が何者でも、私たちは蓮君のことが大好きだよ!」
そんな思いは、充と凛の言葉で打ち消された。
涙がボロボロと溢れてくる。不安でしょうがなかったのだと初めて気がついた。本当は、早く誰かに打ち明けてしまいたかったのだ。得体のしれないものになってしまった自分に、自分で恐怖していたのだ。
自分という存在を心の底から受け入れた瞬間、蓮は、受け継いだ膨大な力が本当の意味で自分のものになった気がした。
「充、凛。…俺の眷族になってくれませんか」
涙を拭い、今度はしっかりと顔を見て言う。
充と凛はキョトンとし、顔を見合わせ、
「「勿論」」
と言った。
直後、充と凛が紺色の光に包まれる。その光は蓮の胸の辺りまで伸び、蓮を包み込んだ。それはとても温かい光だった。
暫くして光が消える。眷族化が終わったのだろう。
「ステータスを確認して見てくれ」
充と凛がステータスを開く。そして、開いた瞬間沈黙した。
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斎藤充[Lv.1]17歳
種族:人族(龍皇の眷族)
体力:20000/20000
魔力:10000/10000
攻撃:20000
耐久:20000
精神:10000
魅力:2000
幸運:1000
取得魔法:初級魔法・中級魔法
適性属性:火属性・闇属性
スキル:剣術Lv.1・魔力操作Lv.1・成長促進Lv.1
加護:太陽神の加護
称号:異世界人・勇者・過保護の極み・龍皇の眷族
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斎藤凛[Lv.1]17歳
種族:人族(龍皇の眷族)
体力:15000/15000
魔力:20000/20000
攻撃:15000
耐久:15000
精神:15000
魅力:1500
幸運:1000
取得魔法:初級魔法・中級魔法
適性属性:風属性・闇属性・光属性
スキル:錬金術Lv.1・魔力操作Lv.1・成長促進Lv.1
加護:太陽神の加護
称号:異世界人・勇者・溺愛症候群・龍皇の眷族
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「「凄い…」」
充と凛が同時に呟く。俺もそう思う。眷族にしただけでこれとか凄すぎだろ。
どうやら、ステータス値は全て10倍になり、使える魔法やスキルも増えているようだった。称号に過保護の極みと溺愛症候群があるのは笑った。当の本人は首を傾げていたが。自覚なしかよ。
因みに、俺のステータスは対して変わっていない。
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天草蓮[Lv.999]15800歳
種族:龍皇
体力:99999/99999
魔力:99999/99999
攻撃:99999
耐久:99999
精神:99999
魅力:9999
幸運:999
所得魔法:初級魔法・中級魔法・上級魔法・神級魔法・龍魔法
適性属性:火属性・水属性・風属性・土属性・闇属性・光属性・龍属性
スキル:鑑定の魔眼Lv.MAX・魔力制御Lv.MAX・眷族化Lv.MAX・威圧Lv.MAX・隠蔽Lv.MAX…
加護:龍神の加護・太陽神の加護
称号:龍皇・龍を統べる者・超越者・異世界人・勇者
眷族:斎藤充・斎藤凛
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眷族の欄が出来ただけだな。他に変わったところはない。
俺はステータスを閉じ、嬉しそうにしている充と凛を見て微笑んだ。
これからの旅は楽しくなる。そう思いながら。
このままでは話が進まないので強引に進めました。
ごめんなさい。
内容を少し変えました。2016/09/29




