生意気生徒会長 St. Valentine's day 5
会長が笑顔で歩いてきて、
僕の頭をぽんぽんと叩いた。
「まだまだだねぇ、臣ちゃん」
「え?」
「ざんねーん。はずれだよ」
はずれ?
「そ、想像にはずれなんてありません!」
「あるんだよ。努力賞としてそのチョコ、あげる」
「え?だってこれは花沢先生が会長にって――」
「いいからいいから」
会長は笑いながら部屋の外に行きかけて、止まる。
「そのチョコはきっと、外見も中身も着飾った人からのものじゃないかな」
「え・・・」
外見も、中身も?
「紙袋も包装も見せかけで、奥底にあるチョコが本当のその人なんだと思うよ」
会長はそう言うと、部屋を出て行ってしまった。
呆気に取られる僕たち。
「・・・今日の会長は、いつも以上に意味がわかりませんね」
「わかるようなわからないような、だな」
「わかるんですか?武山さん」
「とにかく、チョコ食ってみりゃわかんだろ。臣」
「あ、はい」
丸いチョコレートをひとつ、口に放る。
「あ」
「なんだ?」
「いや、これ、ビターだ」
「・・・・・・へぇ」
大人っぽい紙袋の中の可愛らしい包装。
その中にはちょっと苦いビターなチョコ。
「・・・なるほどな」
「何がなるほどなんですか?」
「なんでもない。つーか気にすんな。どうせ妄想だろ?外見だの中身だの」
「はあ、ま、そうなんですけど・・・」
確かにただの遊び。
なんだけど、会長のあの様子が気になる。
もしかして・・・
「・・・これ、花沢先生からじゃないのかな」
「さあな」
「あ、あの!」
それまで黙っていた飛島さんが大きな声を出す。
思わず二人で彼女の方を見た。
「どうした?飛島」
「花沢先生・・・確か、今日いらっしゃらないはずです」
「え?」
「今日から3日間、大阪の方で研修だって。今日の花沢先生の授業、自習でしたし」
花沢先生がいない?
ということは、このチョコは絶対に花沢先生からのものじゃないってことになる。
じゃあ、誰からの・・・
「これで、証拠が揃ったな」
「・・・証拠?」
頭の中にはてなマークばかりが浮かぶ。
武山さんを見ると、人の悪い笑みを浮かべて僕の方を見ていた。
「そのチョコ、全部臣が食えよ」
「・・・な、なんでですか?」
「いいから。それにしても・・・ははは、あいつも人間らしいところあんだな」
「あいつ?」
今日は会長も武山さんも意味がわからない。
飛島さんも、ぽかんとした顔をしている。
なんだか腑に落ちないけれど、
会長が持ってきたんだ。怪しいものじゃないだろう。
僕はもうひとつ、
甘くて苦いチョコレートを口に含んだ。