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ある商人の話

 ニル・ザールは商人の跡取り息子。本当は兄がいたのだが、何をとち狂ったかハンターになるとか言い出して、養成所だけは出してその結果次第となったらなんと才能があったと言うか見事ミドルハンターになって家を出て行ってしまった。僕は家を継がないって話しだったので、すでに手に職をマジックアイテムの職人として修行してて急遽戻された。


 そんな異色の経歴が後々役に立つとはそれもこれも子供の頃から周りを振り回して生きてきた兄貴のせいじゃないかと思ってる。そもそも僕がこうなったのも


「俺が家を継ぐからお前は何か手に職を持ったほうが良い」


 なんて言うから父さんと相談してこうなったのに。ただ僕は案外この紆余曲折の人生気に入っていた。僕の中にただの商人じゃない一面がそのおかげで育った。一部の商人で自分で新しいものみつけてきて大きくなる商人がいる。父さんの自論として


「商人として儲かるのは、真似する2番手だ」


 3、4番手は最悪の選択らしい。まあこれは商品による。ただ父さんが言いたいのは、真似をする1番手になるのが良い商人って事らしい。実際うちの商品ってちょくちょく新商品の類似商品やヒットしてからすぐ仕入れたものが多い。こういう情報通な部分は確かに見習うべき点がある。


「でも1番の稼ぎと2番の稼ぎじゃ雲泥の差でしょ?」

「そりゃお前売れなかった新商品を見て無いからだ。俺はそれを見てきた経験がある。それを平均すると失敗したら無視をして成功したら利益をちょっと頂こうとした方が儲かるんだよ。お前は商品そのものを見てる。良い商人ってのは数字だけ見てれば良いんだよ」


 何故この事を思い出してるか?と言うと僕は良い商人になれそうに無いからだ。跡取りとしてそれなりに軌道に乗ってきてもう父さんの口出しもほとんどなくなってきた。ムクムクと職人としての気質が面に出てきた。新しいマジックアイテム作って売りたい。何故父さんの自論を思い出したか?はまさにそれを破ろうとしてたから。


 僕だって父さんの言いつけを守って商人をしていた。だが、ある日本と出合ってムクムクと昔の気持ちを思い出していた。商人となった僕も何か作れるんじゃないか?そこで新商品を売り出す商人を思い出した。そういう形でアイテム制作をする事が出来るってふと思ってしまった。


 様々な人脈がありツテを辿りやすかったので、その人にとりあえずあって見る事にした。


「始めましてアラン・アダムスです」

「ニル・ザールです。あなたの著書を読みました。モンスターが魔力を食べているってフレーズは面白かったです。そこでピンと来て考えを聞いてもらおうと思いました。逆に言えばモンスターから魔力を取り出しやすいんじゃないか?と思いました」

「その発想は無かったですね。なるほど利用法ですか」

「ええどうしても何か商品に繋がらないか?と思いまして」


 アランには予め商店を営んでるのは話してあった。


「しかし、ただの商人でどうそれを作って良いか?分からない。だからある程度出資するので作ってくれそうな人を紹介してもらえないか?と思いました。アランさんは様々な方と交流があると聞いていまして」


 それからそういった方面に詳しい人物を紹介してもらいマジックアイテムの作成の流れになった。アランさんに頼んだのは人脈だけじゃない。彼の著書を読んでるような人物が望ましいと考えたため。すぐに意気投合して商品開発の手助けをする事になった。おそらく父さんが知ったらあまり良い顔をし無いことをしている。そういえば父さんはこんな事も言っていた。


「だからって数字だけ見て満足できる商人ってのはごく一部だけどな。そいつはきっと変わり者だよ」


 意外と目的のマジックアイテムはすぐ出来た。元々モンスターを利用したマジックアイテムは各種揃っていたので、直接魔力補充アイテムみたいなものをつくろうって試みはスグに上手く行った。これちょいと使い方がややこしい。そこが商品としては弱いと思っていた。妥協した。いろいろ有用なものを作りたかったけど、理論を元に安直に作ったらこうなった。高位の魔法使いの魔力切れ充填の様なアイテム。


(売れるかなこれ…)


 売れなかった…。もちろん売れたことは売れた。しかし需要が少ない。しかもこれ材料費が高い。肉はどうも変換効率が悪くて、その他の素材が適してるが、肉は供給されてるが、その他は一部を除いてほとんど無い。残飯を集めて堆肥にするようなもので、一般的に流通してる肉以外の素材は高価でとても適さない。


 一部のマニアの知る人ぞ知るアイテムになってしまった。アイテムとしてはこれは成功だと思う。目的を果たしてるから。でも商品として失敗してしまった。ただ投資が安くて痛手じゃなかったけど。ある日転機が訪れる。


「コレ買い取ってもらえませんか?」


 話を聞きつけたハンターか?何かが分からないがごっそり素材を持ってきた。買い取った後


「ニルさんの商品を面白いと思ってる人が居て、是非協力したいそうです。会ってくれませんか?」


 ある村まで連れて行かれて


「ここから先亜人国に入ります。秘密を守ってもらう事になります。それについて約束できますか?出来なければこの話は無かった事にしてください」


 亜人国は知っていた。ただわが国とは国交が無いはず。でも取引してはいけないとも言われてない。


「じゃ取引はあくまでこの村までで、その先は亜人国と切り離して商売できるように出来ませんか?」


 おそらくあの大量の素材についてだろう。かなり自分に有利になるように話してみる。多分ここから先突っ込んだら引けない気がしたから。


「良いですよ」


 良いのかーー。それを決めに行くと思っていたのでかなり無茶な事を言ったのは分かっていた。わざと飲みにくい要求して引こうかなと思ったら予想外。なんとなく分かるのは亜人国の内情を見せたくないって事。だからここで帰れば噂話で終る。こうなったら行くしかないな。族長の所まで連れて行かれた。


「ようこそニル・ザールさん亜人国へ、族長の田中祐二です。早速ですが、モンスターの肉以外の素材を集めてるんですよね?かなり安く提供できますよ?量の方が潤沢に用意できるのでこのさい大安売りでこんな商品あるんですよって多くの人に広めてはどうですか?必要な人は数買っていくだろうし、売れ残っても元が安いんだから問題ないでしょ?」

「良いんですか?」

「大半ゴミみたいなものですからね。確認しますが肉は使えないんですよね?」


 この人変わってる。駆け引きが無い。


「使えないわけじゃないです。ただ効率が悪くて肉として売った方がおそらく高く買い取ってくれますよ?謎なのですが、肉だけがどうも魔力への変換効率が悪い」

「なるほど」

「個人的見解ですが、肉は人間や魔族の肉体に近いんじゃないか?と思います。人間や魔族は魔力で出来てるわけじゃないですよね?あくまで相互作用してるだけで。魔力の変換がしっかり出来すぎてもう不可逆なものになるのじゃないか?とそれと言うのも肉だけじゃなくて、内臓などの柔らかい器官もあまり良くないんですよ。肉脂肪よりは良いですけどね」

「何かアランさんの説に近い考えですね?」

「アランさんの説知ってるんですか?」

「ええ彼一度ここに来た事がありますよ。私と話したモンスターについての対話が元になってるかな?と著書を見て思いました」


 そういって族長はアランさんの本を持ってきた。


「実は僕もあの本に着想を得てマジックアイテムの職人に頼んで作ってもらったんです」

「ほーそれは面白い。何か商人らしくないですね」

「ええ父からもそういう事を言われます。元々は職人をやってて家庭の都合で後を継いだのでちょっと変わってるのかもしれません」

「亜人国はこれから大きくなります。でもそれはただ大きいだけで、中身が無いと思っています。余剰のお金が最近は国民にも増えてきました。でも使う事が人間の国からの物資だけに成っています。ニルさんの商売の仕方は何か一つの商品に関わるすべての人を抱えるような感じがします。それを丸ごと亜人国でやりませんか?

以前はいやだったのですが、これからは人間の居住区を作って技術職や知識人を囲うような事がいるかな?と思っています。ただ私達商人の人とは知り合いが多いのですが、その先となると全く知り合うきっかけが無い。ニルさんの様な人は稀有な人材です。

将来的で良いのでまずはニルさんの商売の助けがしたいです」

「ええまずはモンスターの素材からですね」


 魅力的な話ではあったが、ぐっと堪えて商売をしながらゆっくり付き合えば良いと取りあえずは保留にする。安くしたおかげで思わぬ効果が分かりハンターの間のヒット商品になった。疲労回復になるそうだ。安くて消耗品だからこそ出来る使い方で、以前からこの効果は高位の魔法使いの間では知られていたらしい。なんとなく族長の話を思い出していた。


「僕はハンター向けの商売ってあまり好きじゃないです。ハンターが売ったものをハンターが買うじゃお金が外から入ってきません。今は人間の国に売ってますが、自国でもこのグッズを使うようになると農業を軸でやってる国民には広がらないなと思ってる部分があってもう一つだなとは思っています。

商品の批判じゃなくて、この商品から派生して一般の人にも使ってもらえる商品が出来たら、全面的に支援するので覚えておいてください」


 元々マジックアイテムの職人をやっていたからその発想は無かった。マジックアイテムの一般利用。興味のある職人探しからかなと。面白そうだったが、一旦思考をやめて現実の今の商売に頭を切り替えた。


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