つるはしを持った転移者8
僕は戸村君の森が燃やされる指摘を受けて対策を練っていた。今更森が燃やされる事の対策は打てない。だから人がその被害から逃れるための対策だけ打った。燃やされた森にたまたま居たモンスターは全滅すると思う。後は武にこの事を伝えておいたおそらく戦争なら直接的被害は彼が一番問題だから。彼なら上手くやるだろうって丸投げした。
だって仕方ないだろう。僕はやる事が多すぎるんだ。まず森の外の緩衝地帯は一切変化無し。そもそも森が無い。元々モンスター対策で村はすべて森から一定の距離をとって作られていて土塁などしっかりしている。後は外に完全防備はいかないが水堀などで対策を打った。元々モンスター対策していたおかげで大した事はしなかった。
水はモンスター対策にもなるのでまあ火計対策としてじゃなくても良かったと思う。徹底させたのは、村に一人は水魔法の使い手を置く事ぐらいかな。そこそこの規模の村が多いのでその辺り亜人は魔法が得意なので徹底だけで大きな変化は無かった。
一番大きかったのは、森が燃やされると聞いたときの皆の衝撃のほうだと思う。考えてみたら当たり前なのだが、生まれたときから森に囲まれて暮らしてきたので森は自分達の一部だった。僕だってこっちに来てからずっと森の中に居る。衝撃を受けた。
その何倍も衝撃だと思う。人間に対する憎しみが広がらないように、人間も森は大切にしてる話はきちんとしておいた。モンスター討伐でも森をむやみに燃やしたりしない。モンスターが討伐できたら後は豊かな恵みをもたらすので燃やすなんて方法は昔から取ってない。ただ敵国の森なら別なだけだ。僕らはそれでも森を燃やす戦術は出来ないだろうけど…。
今回きつかったのは、数本は森と繋がった木が村にある。それもばっさり切った。皆悔しい悲しいって顔をはっきり出していた。それでも皆の命を守るためだと僕は言い聞かせた。モンスター対策ではここまで徹底してやっても意味が無いからだ。これは火計だけへの明確な対策だった。
何故気がつかなかったのか?でやっぱりこれも公にしたため今まで問題にならなかった事の表面化の一つに過ぎなかった。改めて不意打ちで2回勝っただけなんだと良く分かった。相手が明確になって最初から対策を打つなら当然の選択肢の一つだ。
卑怯だという気持はある。だが人間側からは散々卑怯だと思われてきた遣り方をしてきた。だがその事は皆には伝えなかった。ある意味自業自得のしっぺ返しなのだ。卑怯な事されたから仕返しをされるんだ。背一杯やった家族に卑怯なやり方だっと言えない。
さて次の戦略だ。船をどうにかできないか?と言う事。実は人間の国は魔族の戦いにおいて温度差が国内に生まれている。城と境界線。ここまでは対魔族の意識が強い。でも、奥地北方の海岸沿いなどはそういった気風が薄い。すぐに亜人をこの付近を町にもぐりこませた。国からの監視の目が緩いから。
この付近と交流をもてればかなり大きいし、このあたりなら上手く亜人のテリトリーを築く事が可能じゃないか?と思うから。僕は基本外に出た子供達を僕の指揮系統から外してしまう。それは無用な人と亜人の軋轢を生むからだ。人の生き方の中に溶け込むというのは、僕との繋がりを薄くする事だと僕自身が思ってる。
人間界に溶け込もうというのに、何時までも族長様様じゃ困るんだ。ただ情報だけは貰ってたけど。スパイ行為の様な事は一切させてない。そうじゃなくても森に引きこもってる僕達にとって情報はありがたい。
他に出来る限り小さな範囲で南方の融和地域。これは緩衝地帯の延長で見ててそんなに意識してない。明確に飛び地を作りたいと思ったのはここ。深い繋がりを持つにはどうしても大量で早い輸送が可能な船が欲しい。だが森の海から港町まで行く船は高い。そこで僕は海岸沿いの土地を作って村を作ってすぐ近くにしてしまおうと決行する。
今度は半島のような事はし無い。もっとこじまり海岸沿いを村が出来る程度に改良していく。森と海と間に山脈があり、そのせいでこちらとの陸路は断絶していた。じゃ海と山脈の間に十分な土地を作ればどうか?となった。長い道のりではあるけど、こつこつやれば…。さすがに大変なのでキャンプと言う形で何人かお世話係りについてきてもらった。
開拓に関しては手が空いたらで無理しなくて良いとしておいた。真水は一応確保しておいたけど。ただ森だけはしっかり作っていった。何か今回の事で森が必要だという思いに駆られていた。今は即効性の高い2種類の木だけだと、やがては伐採して様々な木を植えていこうと思ってる。
後で開拓するとき森は邪魔になると前は思って計画的に半島では作った。でも今は違う。まず森があって開拓するって気持ちに変わってる。まだ使われてない火計だけど森を増やさないといけないってアレルギーの様になってしまった。無駄と言えば無駄なんだけど…。
海岸線は丁寧に浅瀬を作り砂浜を作ってなだらかにした。砂が湧き出す様子は昔見た日本神話の海と山の兄弟の話のようだ。そういえばすっかり塩の事業は上手く行って、半島でもそれが真似されて塩は輸出できるぐらいになってる。
元々山脈と海がぶつかって出来た場所なので、土地が無いわけじゃなかった。だから上手く山を利用して森をつくったので殺風景だった場所が緑豊かになって景観は中々良いと思ってる。2ヶ月掛かってやっと小さな船でもすぐいけるような場所までたどり着いた。
まあ陸地を見ながら移動できる。それにはそもそも浅瀬向きの小型船が向いている。後はちょっと先端部分を工夫するだけだった。湾の様にすると、波が外側に吸収されるから穏やかな船の停留所になるため使いやすい港になる。ただまだ小さな船なので港と砂浜を併用したような土地にした。いずれ大きな船が出来たら水底が深い港の方に船を置くように出来れば良い。
生きていた魚介類はどこに行ったんだろうか?など疑問もあったが何故か隆起した土地にはそういう痕跡は無く、そもそも塩気すら無くなってるのも謎だった。船を買うのは村ができてからの話しになる。
その前にミドルハンターの亜人に頼んで飛び地を作る事を優先した。まだまだそこら中にモンスターの危険地帯は多くて、北方の奥地もその例外ではなかった。そういえばちょっと離れてるが、ジョナサンが雪食草を見つけたのもこの辺りの山脈の麓じゃなかっただろうか。忘れてしまったけど。
急いで戻った。何か合った時連絡する様に言ってあるが、それでも不安だった。すぐに戻って何も無かった事を確認して、ウルの元に向かった。今回の事知らなかったようで、すぐに二人で半島の東側に向かった。
「祐二なんですかこれ?」
「何といわれても小さな船買うお金しか無いから。なら小さな船で移動できる距離にするかと…」
「馬鹿でしょ?」
「うわーウルにそんな事言われるなんてー」
いや実際僕も何かおかしいとは思ってた。いろいろ影響とか考えて軽率だったんじゃないか?など考えてしまって。
「悪いけど、半島が軌道に乗ったらそのうちこっちも考慮しておいてね。僕もちょっとノリでやってしまったところがあって、そんなに急がなくて良いから。
後さ何かここの海岸線変えたいなーとかあったら調整するから半島について注文つけて」
「ああそれならありますよ」
そういってまた半月ほど半島の地形を変える作業を行った。後で分かったけど、作ったものを削るのが良く分からなかった。それを話したら。
「やっぱり馬鹿ですー」
ってウルに言われてしまった。でもな勢いでやってしまわないと、大事過ぎて踏み出せ無いんだよな。ただこれからはもっと計画的に行こうと反省した。それにしてもこの文化レベルじゃ収穫量って酷い。石川県?この大きさあったら1000人規模じゃない。
まあでも昔って確かに人口少ないんだ。麦と稲なら違うのかな?稲が無いから分からないけど。それでもジョナサンのおかげで他の地域よりは恵まれない土地で頑張ってるけど。そもそも耕作向きの土地なんて一つも無いからな。元々村が合った南部の融和地域が一番耕作向きだと思う。すぐに亜人村だけ大きくなったのは普段厳しいところでやってるからだと思う。
この大陸って小さいと思う。船が発達して無いから分からないけど、他に大陸無いのかな?境界線を左右に100KMって感じ南北もそれぐらい。大陸と島?そんな感じの所。北海道ぐらいの大きさの島。そんな感じ。国というより県ぐらいだと思う。すかすかの農地。農地自体がまず開発されて無いし、できた農地も大体現代と比べ物にならないほど収穫量悪し、人力じゃそもそも管理できる面積が少ない。
国力としては戦えるものになったと思う。特に相手はこちら側の広大な土地を知らない。だからここからは全面戦争を回避するためには?で考えるべきだ。どうにかして小出しにさせるか?各個撃破で個別に潰してしかなくてはいけない。
後は魔族VS人間の対立自体無駄なのと、他にはそれを亜人にすり変える事の履き違えた考えを改めさせなくては。多少ズルしてるけど、こちらに攻撃の意思がはっきり無いと伝えないと。
こちらの基本方針としては、人間は敵じゃないが、過剰な武力は悪だと明確な考えがある。それに対して攻撃するって方針が決まっている。でもあっちはそういうのが無い。そもそもこっちは職業軍人なんて一人も居ない。なんのために戦うか?がはっきりしてないから僕らの敵になってる。
やっかいだな明確に侵略の意図があればこっちも戦うしかないのだが、今まで放置してきた危険地帯を侵略する価値なんてあるわけが無い。何やってるんだろうな…。おかしいのは分かるけど、止まらないのはすごく分かる。もつれた糸をなんとかほぐそうとしてるけど、難解すぎてお手上げ。
もしこのまま放置すれば魔族への攻撃的な気持がそっくり亜人になるし、僕らもなる。専守防衛に徹して攻撃し無い僕らが我慢してる間になんとか結論を出して欲しい。下手に攻撃できる国力が出来たからやったやられた繰り返したら、止まらなくなるから困ってるんだよな。
火計の可能性のせいだと思う。それがなきゃ全兵力を相手に見せ付ければせめてこれないと思うから。魔族と人間の戦いの歴史ほどもつれてないから多分無いんだよな。でも勝てると思ってるとやるだろうな。森から出て威嚇できない。僕らは職業軍人じゃないからそんな暇じゃない。やっぱまだまだ国力が違うよな…。
ただあっちも僕らを致命的に打撃しようとするなら数年かけないと兵隊集まらないけど。火計さえ無ければ防衛戦なら確実に勝てるといえる。それだけの準備は出来た。火計があっても負けないまでは言える。
僕は戦争は馬鹿げているとは思わない。ただこの戦争は無意味すぎる。馬鹿げていると思っていた魔族VS人間なんて比較にならないほど意味が無い。あまりにやる気が無い魔王のせいで魔族と停戦したって事が根幹にあって、亜人との戦いなんて全く関係が無い。でも人間の向かうのはすべて亜人になってる。
これ八つ当たりだよな…。




