つるはしを持った転移者6-2
ウルへの変化は、軍事国家しか目的が無かったこの国の変化だと思う。もちろん僕は腑抜けになったわけじゃない。もうこれ以上軍事力では対抗できないからだ。だから他の方法を考えてる。1個体の強さが無茶苦茶強いので、単純に人口増やす。僕はこれしかしてこなかった。僕を神の様に讃える子孫達が居るけど、冷静に見るとなんだそんなの誰でも思いつくじゃないか?となる。
限界無く数を増やすなら人間なんてゴミみたいな存在だ。それが出来ないから困ってる。全員で突撃かけて王様だけ狙って殺すの多分可能。そんな一か八か遣りたくないけど…。多分王様さえ殺せばなんとかなる。王様個人が悪いわけじゃない。ただ亜人と敵対する個々の気持ちを集約するのにあまりに上手く機能しすぎる。王様って個人の存在は。
本気であれさえ排除すればなんとかなると思ってる。全く馬鹿馬鹿しいものだ。魔族との戦争と根本的に違うのは、伝統が無い。馬鹿馬鹿しい話だが、魔族VS人間の長い歴史が無い。だから王様さえ排除してしまえば亜人と戦わなくてはなんて一丸となる国家としての気持ちは絶対に生まれるわけが無い。
それを歴史が証明してるのは、すでに何代も王様が変わっても同じ事してるのは王様個人の意思じゃないから。面倒臭いな、王様の個人的疑心暗鬼で僕ら絶滅させられるんだから…。時間がたったらまた兵隊集めるよね?ってやっぱ考えてしまうんだ。
さてそれに対してどうするかな?一応最低限はなんとかした魔族が来てくるから。でも魔族って魔王こないとイマイチなんだよな…。多分魔王こない。何故か?と言うと対等な同盟関係じゃないから。奥に引っ込んでばかりいる魔王が、従属的な同盟国家の前線に立つか?まず無いと断言できる。
これはかなり実現困難だが、武が魔族の将軍として立ってくれれば勝てる。これは奇策だと思う。今では無理だな。今でもかなり無理を言って手伝ってもらってる。なおかつ魔族側が従わない。だが彼が魔王以外の魔王候補を倒していけばすぐに信用を築ける。まあ頼むのすらまだ無理、すべて手を尽くしたら奇策として頼むしかない。
「キコ、リサ」
「「はい」」
「二人に頼みたい事がある。前から考えていたけど塩が欲しい。山脈の谷を抜けると海に通じてるでしょ。あの向こうに土地があるからそこを拠点にして塩を作って欲しい。魚も取れたら取ってほしいけど、食い物は出来る限りこっちで用意するから。
開拓じゃないから、塩の濃い土地は作物が育ちにくいからあそこ放置してきたから。だから考えなくて良いから魚が取れれば同時にこなして塩作りに専念して欲しい。2人任せるのは海と言う未開の地で種族特性で不利になるかもしれないから、そういうのあんまり無い二人に頼んでる。だから家族連れて行きたいなら僕のいった事を考えて選んで欲しい」
「「分かりました」」
あの二人ウルに較べるとどこか固いな…。ウルは長い時間かけて砕けて話してくれるようにしてきたけど。奥さんは基本対等って言ってるんだけどな。塩の作り方など詳細に話してなんとかやり取りが終った。つかー僕の知識もあてにならんけど…。
こういう知識は奥さん世代は強固に共有出来てるから楽だ。世代を経ると馬鹿に成るわけじゃないけど、日本の知識共有は徐々に薄くなってくる。汎用的な部分だけはしっかり残るというか。まあコピーらしさが消えていくのは良いのかも。
今まで塩無かったのかよってわけじゃないけど、わざわざ買ってた。呑気に塩作りしてるような時間無かったから。変えなくちゃいけない所が山ほどある。しかも上手くいってたから誰も危機意識持ってない点。まああれだけ強いと人間に負けるってのが想像できないと思う。辛うじて僕のコピー部分が役に立ってる。
それでもすべてコピーじゃない勝ちまくった経験は確実に自分らしさになってて、それが悪い風になってる。僕がいえば聞くからまだ良いけど、イチイチ言わないとまともに考えられないのは弱い。皆考えてないわけじゃなかった、その判断すべて稚拙で僕が不満なんだ。上から目線だけど。
ああもう頭使う人材がいねー。どうしようもない馬鹿なこの世界の人間達だけど、一部は確実にこの国に欲しい頭脳。全体では経験不足を考慮に入れて決して負けてないと思うけど、経験をつんでもこの1部に成長するのは苦しいだろうな。
それにしても第3世代でヴァンパイヤ増やしたのがすごく大きい。美形が多いし、人に近いし、この世代の子孫を簡単に魔族人間の世界に送り込めてるから大体の外への戦略が成り立ってる。血が薄くなると吸血も薄いし、夜型も薄くなる。種族の中でもかなり強い部類だし、翼が無くて飛行できない個体も、人間魔族に混じりやすい。
さて次の手を打つか。人材が居ないけど、国が小さいので致命的には困らないのと、任せたくない事もありそこは良かった。この手は僕がつめないと駄目な所だ。緩衝地帯への進出だ。南部の融和地域と境界の森をこれで繋げる。
すべてじゃないが南部の土地は一部僕らが貰う。もちろん秘密裏にだ。魔族に対しては慎重に慎重を重ねて気を使わなくてはいけない。僕らの境目はどこにあるか?で外の血を出来る限り入れない集団。これがキーになる。
これが軍事の要になる。他の外に出したメンバーは国を守ってくれなくても良い。外に出した子孫達は人口問題による口減らしの意味が大きい。そこにおまけでネットワーク構築をつけてるだけだ。軍隊にさえ入らなければなんの問題もない。
「あのさ、魔王に亜人部隊をそっちで養ってもらえないか?ってかけあってくれないかな?」
「なんだその都合の良い話は」
「いやいや、魔王の同盟って胡散臭いんだよ。リスクの高い部分を亜人が受け持つから魔族軍として亜人部隊を使ってくれないか?だから。養ってくれないか?は僕の本音、その逆で高い戦闘力を誇る亜人を魔族軍として使ってやってくださいってへりくだってるから」
「俺に上手く言えって事ね」
「ご免そうなるこんな高度なやり取りうちの連中に任せられない」
以前ソルベさんから教えてもらった魔王に近い人にこの話を持ちかけてみた。
「それはこっちでまとめる事になると思う。いろいろと問題が多いので魔王様と直接交渉は出来ないな。なんとも言えないからな」
「ああその部分なら、万が一亜人国が人間に滅ぼされたら、魔族の中の亜人部隊はすべて魔王様に忠誠を誓うとお約束します」
しばらく考えて
「よし分かった魔王様と相談してみよう。ただし公にしにくい部分なので魔王様とやり取りさせるわけにはいかんからな?」
「はいそれは分かっています。魔王様の命の元に遣るのは不味いって事ですよね」
「そそ、しばらくしたら返答できると思うので、ここに滞在してて欲しい」
戦争の準備を始めているとわざわざ人間側に知らせるようなもので、うちうちに処理される事となった。魔族はあまり人口が多くないので、軍人の数はなるべく緊急時以外保持しないようしている。以前の戦争から随分平和になってるため、軍人を減らして、代わりに亜人で補おうとなりすんなり通った。
余計な事考えまくってそうな魔王だけど、こういう所が案外シンプルだ。亜人の強さはおそらく把握してるし、それは組み入れれば多分すぐに分かるだろう。増強もありうる。後問題は自国を他国人に守らせるリスクだけど、これは万が一戦争になったら亜人国が戦場になるので逆にメリットであるのと、後は融和地域の亜人の評判の良さがかなり大きい。
雑談になった時その話を熱心にされた。魔王の先見の明を話したかったのは分かるけど、それでもその過程でどうしても亜人についてふれないといけないので。亜人がクーデターを起こすとか考えられないと俺なら思う。そして極めつけは俺が独断で話した事だ。これはイチイチ祐二には言わない。
自分が死んだらの話をされるのは不快だろうから。亜人の性質からおそらく魔王に忠誠を誓うから。それは俺の家族が別に祐二に忠誠を誓ってないのは分かってるから。そんな風に武は考えていた。
「上手く行ったぞ」
「ありがとう」
「ただ上手く行き過ぎて追加でもっと欲しいといわれるかもしれないからな?」
「それは大変だけど、嬉しい悲鳴だから良いよ」
おそらく自分には出てこない言葉が決め手になったと思われるが、何を言ったのか?詳しい事は分からなかったが、やっぱり武に任せて正解だと祐二は素直に喜んでいた。
さていよいよ、緩衝地帯への進出だ。国力の増加と、最も重要なのは南部との連携になる。表には出ない形でこっそり南部に物資を送ってたけど、それが楽になる。秘密にする必要は無いけど、あまり亜人国との繋がりは強調したくない。侵略じゃなく融和。これを前面に出したかった。
奥さん連中が護衛について、荷物運びとヴァンパイヤ系による夜間の警護。こんな集団でモンスターの中をかいくぐって物資を届けていた。おそらくここが一番の密集地。この世界でおそらく一番危ないモンスター密集地。
人間でコレをやれるのは、Sハンター以上だと思う。ミドルハンターもただ通るだけなら出来ると思う。これは食料の護衛任務だ。到着したのは良いが、食料が全て奪われてしまったじゃ成功したとは言えない。
「あいよ」
「いやー今回も大漁だね」
こんなやり取りが何度も繰り返されていた。到着までに倒したモンスターを食料として渡すのも仕事のうちだから。実は融和地域で亜人から提供されるモンスターはこうやって提供されていた。帰りももちろん村で食べるモンスターを狩って戻る旅になる。緩衝地帯に進出する事で、南部への物資の運搬が劇的に変わるため進出したい。




