迷い込んだ転移者5
俺(土田武)は田中から相談を受けた。
「困った事になった。何故こんな早く?と疑問もあるけど、人間がいよいよ攻めてくるようだ。軍隊が配備されてる。数が微妙に厄介。なんとかならないかな?」
「俺に戦ってくれと言ってるんだろ?悪いが俺は直接はまだ戦わない。それは戦いたくないわけじゃない。まだ人間の敵だと知らせるのは早いと思ってるからだ」
「その通りだスパイみたいで悪いが武にはそういう自由な動きをして欲しい」
「あくまでモンスターだけならばれないように動かすつもりだ。ただその前に具体的にどれぐらいの規模か直接見てくる」
「大丈夫かい?」
「ああ考えがある」
田中の情報から軍隊が食料を集めてるのは知っていた。町も近く補給が簡単なので直接持ってきて無いようだ。俺はよく取引をする肉屋に話を持ちかけた。
「おやじさん、何割か払うからこの店の商品として肉を軍隊に仕入れちゃ駄目かな?軍隊が来てるって言うから量捌けるからさ、でもモンスターの肉なんて買ってくれるか?不安でさ」
「良いよ。俺は上手いの分かってるけど、確かにモンスターの肉は一般的じゃないな。その分安くすれば良いんじゃないか?」
「親父さんありがとう。後で払うけど良いかい?」
「良いさ名前貸すだけだろ。その代わり腐ったものとか気をつけてくれよ」
「ああ何かさこの町よりモンスターの森に近いからそのまま持っていくよ。新鮮に違いないさ」
俺は予め田中に借りた荷車が一杯になるまでモンスターを狩り続けた。その後すぐに田中から聞いていた軍隊が集まる場所に向かった。
「どうも○○肉屋です。食糧を買ってくれると聞いて駆けつけました」
「モンスターか」
「安くするので買い取ってもらえませんか?やっぱモンスターなんて食べないですか?」
「いや何を言ってる。俺らは前線で散々モンスターと戦ってる。良く食うぞ?今狩って来たばかりに見えるし新鮮さも確かだ。しかし○○肉屋俺も知ってるがモンスター肉をこんなに大量に取り扱ってるのか?」
「ああ俺、あの肉屋のモンスター肉を買いとってもらう常連で、直接俺が売ると信用が無いと思って親父さんに相談したんですよ。なら俺が買い取ってお前が売りに行くって形で良いだろ?って店の名前貸してくれたんですよ」
「中々考えたなお前。良いぞ運んでくれ」
ちょっと嘘が混じってたけど、大筋は間違ってない。俺はかなり中心まで入る事ができた。そして大体の規模を見て帰った。
「田中、あれならモンスターだけで倒せる」
「念のため。僕の奥さん連れて行ってよ。確かベルに指揮とってもらえるんだよね?規模が大きくなるともっと多くないと不味いでしょ?」
「ベルは俺の嫁だからな。前駄目だったんだよな。大丈夫かな?」
「それはさ多分信頼の問題だよ。普通のモンスターとは違うからそういう相互の許可みたいなものが要るんだよ。僕が頼めば多分問題ないと思うよ」
言われたとおりやってみたらテイム状態になった。作戦はものすごく大雑把。ひたすら突撃。ただ相手が体制を整えて反撃してくるだろうから。田中から借りた3人で3方向からモンスターと突撃させて囲む。
俺はひたすら中心に向かって回りのモンスターと集めて補充し、3人に任せる。俺は後ろで姿を現さずにそれだけやる。ベルはやっぱり辞めた。人間に近いので目立つ。田中の村の存在がまだばれるのはまずい。
まず最初に大部隊の奇襲をする。この作戦は上手くはまった。相手の体制が整う前に、3人の指揮官が軍隊に逐次突撃を仕掛ける。俺はその間に回りからどんどんモンスターをつれてくる。そもそも準備段階にたっぷり集めておいた。
体制が整った後に3人からの逐次の追撃が掛かるのでどんどん数は削られていく。作戦と言うほどの物じゃない。単調な突撃をひたすら繰り返す。ポイントは取り囲むように戦力を集中させる点だけ。
洪水で例えるなら、平野にばらけてしまうと水の勢いが薄くなる。それを一点に集中されるように扇状に広がらないように工夫してるだけ。たったこれだけ。でもそれが頭が無いモンスターの集団じゃ成り立たない。
そしてそのモンスターの洪水が途切れることなく繰り返される。全滅もありうると思った所で邪魔が入る。田中から聞いていた魔王討伐隊だと思う。桁違いの強さですぐに分かる。ただしもう大勢は決まってしまった。
全滅は避けたようだが、この戦いは負けだ。俺達はすばやく撤退した。魔王討伐隊に怒りが湧いた。だってあいつらの大半が同じ元日本人だと知ってるから。日本人が日本人の邪魔をした。なんなんだよお前らってマジで腹が立った。初めて俺が指示を出して大量虐殺したけど、そんな事どうでも良くなっていた。全滅を邪魔したのが元日本人だという事に腹が立った。
何故俺は今回腹を括ったのか?その根幹にやつらと相容れないものがあったからだ。何故こんな世界の連中を日本人より優先して守るんだ?これに腹が立った。だから俺はその国を捨てたんだ。俺は別に田中に感情的に強いつながりは無い。
ベルを貰ったけどそれはそれベルの気持ちがあくまで俺を好きなってくれただけだ。ノーテンキだな田中の戦略結婚だろうが?とは思ってない。ベルはそんな器用じゃない。田中の娘は田中が信頼した相手なら本気で尽くせるんだ。それは田中のためじゃない。
じゃなんだ?この国の人間よりは俺は田中の家族を守る。もしこれが魔族なら俺は多分迷っている。お前らには一体命を賭けるほどの何がこの国にあるんだ?すげー不快だった。ただその気持ちは隠して田中に報告しに行った。隠したのは魔族ならどうしたか?突っ込まれると面倒だからだ。
「快勝だと思う。かなり大打撃を受けたのであれで攻めてくることは無いと思う。でもまだやるだろう。人間の出してくる数はあの程度の規模じゃないの俺は戦場は見てないけど多角的に判断して分かってる」
「じゃ何故今回そんな少なかったんだい?」
「それは調べなければ分からないが、憶測で良いならまだ前回の戦争の傷が癒えてないんだろう。でそれで戦いを挑むのが謎だけどな…、だから調査し無いと分からない。でもハッキリしてるのはこれで次責める時はこんなものじゃない。悪いが俺だけの力じゃ次は無理だから」
「ああ出来る限り遅い事を祈るよ。戦力を整える。次は決戦だと覚悟する」
「それでな、魔王との同盟もっと戦力増えてからで良いから秘密裏に進めたほうが良い。魔王も秘密にしておかないといけないのは多分分かってると思う。でも万が一があるからギリギリまで粘ったほうが良い。俺がその間にツテを探すから」
「武何かやる気だよね?」
「まあ第3勢力に魅力を感じてる。それでも俺は遊撃に徹するからな」
「それで良いよ。武のモンスター部隊に複雑な動きは出来ないよ。僕とは独立した部隊の方が良い」
「水攻めや火計みたいなものだと思ってくれれば良いよ」
俺は魔王のツテを探すべく行動を開始した。狙いはつけていた。新しく魔王の指令で作った人間との共存区域なら魔王に近い人間がいるんじゃないか?と当たりをつけていた。人間、魔族両方にモンスター肉を売りに出かけた。
自分としてはこれを同じ食べ物を食べるという事を強調して融和の印としたかった。俺は魔族を攻撃する元日本人や王様に腹を立てていただけで、融和政策には賛成だった。人間が憎いわけじゃない。
お前も人間じゃないか?それは違う。結局大雑把には皆人間だ。明確に田中の家族ほどかけ離れたものじゃない。俺達はやっぱり異世界の人であって、この世界の人間じゃない。だから魔族人間と言う距離があるなら人間異世界人ぐらいの距離もある。そういう意味で俺はこの世界の人間を自分とは違うものとして区別していた。




