ありがちなハンター
俺は子供の頃から体を動かす事が好きでそれがハンターを目指す根底にあるんだと思う。誰かを守りたいとかモンスターに復讐するなどのドラマは俺には無い。養成所に行くとそういうそれぞれの動機に触れ合う事が多かった。でも一番多い動機は別の理由があっても共通するのは若い頃から自警団でモンスター討伐と関わっている事だった。
間違いなく自分は平均的な人で考えたら向いてるんだと思う。でもそんな奴らばかり集まる養成所では平凡ありがちな生徒だった。子供だったし俺も単純に強いやつらに憧れた。でも卒業まで特に変化は無かった。もちろん変化はあったでも回りも変化するので立ち位置は入学時とそう大差なかった。
俺の村は中途半端に豊かな村だと思う。余程小さな村じゃないとどの村でもモンスターに立ち向かう自警団みたいなものが存在する。でもその中でハンター資格を持ったものがいる村ばかりじゃない。だから俺の村は豊かな村だった。ハンターのありようは村の規模で決まる。俺の村は町と言っても良いぐらいの大きな村だった。
ただ街らしいいろんな職業の人が揃った便利さは無かった。だから村だった。便利じゃないけど貧しくは無い。だから余裕があるから自警団の若者にハンター資格を取らせようとって余裕がある。それでも俺は半農半ハンターだった。農業のあり方と俺のハンターとしてのあり方に都合が良かった。
大体の農地で土が荒れるのを防ぐための休閑期がある。俺は忙しいときこれを利用していたので全農の農家の人にもいつも俺の畑は豊かだと褒められている。休みが多くて土が肥えているから。
モンスターがたくさん出るとかそういう話じゃない。新しく自警団に入る若者を指導するのに時間が取られるので、そういった時期は畑を全て休ませて休刊期に当てるようにしたら、逆に効率が良いので定着してしまった。なんだかんだ理由をつけてハンターばかりやる時期を作っている。
状況でありようが変わるってのは、俺はたまに昔の同期に会いに行く。自分が村の中で最高レベルなのでそれ以上の意見が聞けないのが難点だった。それで困った事があった場合の相談相手にしていた。町に近いレベルだとハンターは専業になる。新人を指導したり、団員の訓練など数が多くて兼業なんかでやってられないから。
質が伴わないなら最後に物を言うのは数だから。そもそも困難な状況ってのは弱いモンスターでも玉に発生する数の多い集団との戦闘になる。こっちも数さえ居ればそんなに対した敵じゃない。
「俺ミドルハンターって好きになれない」
そう俺は愚痴をこぼしていた
「壁にぶつかるといつもそれ言うよな」
「でもよ、町の規模が大きくなってもハンターの質は頭打ちじゃないか。町が大きくなる時は兵士が警護全般に加わるので一般的なハンターってどこか馬鹿にされてる所がある。それはさ一定の所を越えたハンターは皆ミドルハンターになってしまうからなんだよ。
ハンターって間がごっそり抜けてるから警護って点でいきなりスペシャルハンターになるわけだからすごい格差あるよな」
「ただな、モンスターの脅威を未然に防ぐって意味でモンスター密集地域の撲滅を担ってるミドルハンターって間接的には自分達のためになってるんだよな」
「お前はアレだこういう大きな町でやってるからそういう広い視点になるんだよな。俺の視野が狭いって言えばそうなのかもしれないけど。頭では分かっていても感情は割り切れない」
「羨ましいのか?」
「あるかもしれない」
自分ではそんなつもり全く無かったから予想外の指摘に驚きもあった。自分の仕事に満足してると思い込もうとする気持ちの裏返しで攻撃的になっていた。ただすべてをとっぱらって素直になってみると羨ましいのかもしれない。
同じだけ頑張って結果に違いがある。そんな時何に不満をぶつければ良いのか?過去の自分か?例えば魔法などは貴族の連中はすでに高いレベルにある。入学時に皆同レベルのスタートだというのは無い。座学は圧倒的な差があるが、これは無しでも結果に差がある。
自分はここまでと決めた中でそれを着実にこなす事で得られる達成感満足感。多くのアリガチ平凡といわれる人間はそれで満足して納得するのが良い人生なんだろうか?
俺は心のどこかで皆のために働くハンターって位置を面倒に思ってるのかもしれない。ミドルハンターが多くの人のためになるのは結果論に過ぎない。俺たちは違う前提からそうじゃないと成立できない。だって俺は村の皆のお金で兼業してるんだから。
ハンター専業でやる新人の指導が始まる。
「ダック、まずは魔法から教える」
ダックはちょっと驚いていた。
「前もっていろいろ聞いていたか?勉強してくれて悪いが方針を変えたんだ。近接戦闘から教えるとやってきた。いざとなったら身を守るのが大事だと思っていたから。でもな新人危なくなったら逃げろ。だから距離をとれる魔法から教える。俺はそんな風に指導した覚えが無いけど、無茶する奴が多くて変えたんだ。
お前ら新人はビビッて動けないだろうと思ってたけど、ビビッテルけどそれでパニックになって特攻するケースが多いって分かった。まずモンスターとの戦いに慣れろ。オマケに自警団全体に迷惑が掛かるしすべて刷新しようと思ってな」
「分かりました」
(素直でよろしい)
まあ、いきなり魔法なんて使えるわけが無い。ただ適正を見てる。適正があるなら魔法、無いなら近接戦闘に切り替えて魔法は長期間かけて学ぶようにすれば良い。実際適正があるケースなんてそう無い。だから俺の前の方針は間違ってない。
ただ、武器を持たせるより無い方が逃げてくれるかと。俺の経験では3割程度しか魔法を先でよかったとならないと見てる。明らかに効率悪いのは分かってる。前の方針も考えてやったものだから。
俺は、新人のパニックが迷惑だと言うのを知らない新人ハンターだったという事かなと。基本的にハンター資格は個人の力量のための資格になる。集団でどう戦うか?なんて全く教えてくれない。これは不満が無い。だってそういう経験はしてきた連中の集まりだから。
ただ資格を取った後ハンターとして全体をまとめる立場だと変わってくる。今までは大人のリーダーの指示で戦っていただけだから。
夢も希望も無い地味な仕事だと思う。俺はモンスターへの復讐心とか、酷い現場で生き残って皆を守りたいとかそういう動機になる事に直面してこなかった。多分それが俺のモチベーションが上がらない一つの理由だと思う。
ハンターじゃなくてもどんな仕事でも経験できる事をしてるだけじゃないか?それが命の危険があるリスキーな仕事をやってる事の嫌さだった。ハンターの喜びは全て危険が低い時にしかない。
皆俺と同じだ。向いているからそのまま延長でハンターになる。でもそれは子供が大人の仲間入りしたいって背伸びの部分が大きい。大人になってしまうと子供に戻りたいと思ってしまう。大人になると見えてくるんだ。どーせ嫌なら危険が少ないほうを選びたいって。
俺皆に期待されて良い気になってんだろうな。今更ハンターをやめたいと思わない。この村にいられなくなる。皆が生活の一部から削って集めた金で俺はハンター資格を取った。そして俺はハンターになる前にはハンターになりたい少年だった。
養成所で平凡な生徒である自分を自覚して、2,3年ハンターの仕事に慣れてきた今、根本の所でハンターになりたかった少年だった自分の気持ちが理解できなくなってしまった。頭ではいろいろな理由が思いつくが、そのどれもが本当に?って思ってしまう。
何かものすごい感情が隠れていて気がついてないだけじゃないか?そして将来それに気が付くんじゃないか?なんて淡い幻想をハンターと言う仕事に抱くの背一杯の俺のやる気だった。
頭では7割近くののハンターは俺と同じなのが分かってる。皆辛いんだから受け入れよう。だから?そんなのどうだって良いだろ。だってそれは皆=人生は辛いものなんだと子供に教えるのか?
ああ止めだ止めだ。酒でも飲んで誤魔化して寝てしまおう。明日になって朝日でも浴びれば、どうでも良くなってるさ。




