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新しい開拓地2

 エリック・ガウンは今国が緊急で進める新開拓地事業に参加していた。正直言えば自由さが良さであるミドルハンターがこうして国に行動を縛られるのは不愉快な面がある。あくまで国はミドルハンターの自主的な開拓事業を支援するのが名目上の役割だからだ。しかし背に腹はってやつで国の補助金が無いとやっていけないのも事実。


「しゃーねーだろ」


 前の開拓地で一緒だった先輩の田中太郎さんに愚痴をこぼしていたらそう返答された。


「それにしても田中さん魔王って皆こんななのですか?」


 今回の魔王は驚きの連続だけど、それでも最新の情報で発せられた魔王の次の政策は異常とも感じるものだった。人間との防波堤のように作ったモンスターによる緩衝地帯に穴を開けて人間と魔族が暮す中立地帯を作ろうって言うんだから。とにかくこの魔王は何を考えてるかさっぱり分からない。


「魔王ってのは基本猪突猛進。こんな策士見た事が無い。そりゃ利己的利他的って性格の違いはある。でもそのどっちも皆を守るため前にたつか?逆に率先して人間支配するぞって連中だ。どっちにしても己を最大戦力と理解して前に出て人間に痛烈な攻撃を加える力の象徴みたいなものだ。

俺もさっぱり今回の魔王の考えてる事は分からないよ」

「策士って事は裏があると思ってるのですか?」

「それは何か?はさっぱり分からないけどな。でも停戦をしてる以上は確かに双方攻撃ってのは無いよな。それを利用して不意打ちするような状況でもない。圧倒的にあっちがそんな事したら不利だ。人間に大義名分を与えてしまうし穴あけるんだぞ?そこから攻められてしまう」

「それだけ分かってても策士と取るんでしょ?」

「マジで元勇者の俺が読め無いんだよな。グレンたちとも話したけどさっぱり分からんらしい。ただな裏ってのを無視すると実は案外今回の魔王すっきりしてるんだよな。人間と魔族の争いの根底にあるものをずばりついてる」

「どういう事ですか?」


 田中はしばらく考えてことばを選んだ。


「そだなエリックは一般常識としてしか魔族を知らないんだな。前線で魔族との戦いを経験したものなら分かるのだが、どうも人間って魔族を偏見で見てるんだよな。連中は差別的で攻撃的な人間に対して防衛してるだけなんだ。稀に我こそは支配者なりって独裁者が現れるけど、それも魔族は人間への反抗に利用してるだけで心の底からそんな事考えてる奴は少ない。

魔族は基本良い奴だよ。ただ良くも悪くも魔王に忠実で、魔王次第なんだよ。だから今回の魔王が良心的なら狙いが見えてくる。人間が魔族を嫌うのはモンスターを追い払う力によるものなんだ。魔族の領土はいった事が無いが、おそらくモンスターがほとんど居ないと見てる。

モンスターをすべて人間の領土に追い払ってる。ハンターはおかげで飯の種が豊富にあるんだけどな。一般の人は迷惑極まりない。だからだよ。魔族の追い払う力が人間の役に立てばどうなるか分かるか?」


 僕は田中さんのもたらした見解をじっくり考えた。


「魔族と人間は共存できる?」

「そういう事。でも魔族をそれなりに知ってる俺も裏があるんじゃないか?と考えてしまうんだ。良くも悪くも魔族の方針は魔王次第だからな。魔族は馬鹿ってわけじゃないのだが、どうも考えが殴りあいで解決の単純さがある。

どうしてこんな魔族らしくない魔王が登場してきたかさっぱり分からない。だから素直に受け入れて良いか?悩む。俺ら前線の人間と違って、後ろに引っ込んでまともな情報を持たない王様は疑心暗鬼でがんじがらめなってるだろうな。

一見弱腰の魔王に見えるけど、人間をある程度追い詰めたかなり強い魔王が討伐されて、ガタガタだろうと予想される魔族を上手くまとめて撤退して、緩衝地帯という防衛線を作った今度の魔王の手腕は夢想的な平和主義とは思え無いんだよな。今回の提案をとっても的確で一つ一つが高度に戦略的なんだよ。人間はこの魔王苦手にすると思う」


 これらの方針に対して人間側が対処に奔走してる時に、開拓地に魔族からの使者がやってきた。騙してるのか?配慮してるのか?分からないけど、ほとんど人間と見た目が変わらない肌の色も普通で角も無い村に魔族が遣ってきた。最初は当然誰も魔族だと気がつかなかった。村のまとめ役をしていたジャックさんに話を繋いでほしいと言われ案内した。


「ああエリックそのまま居てほしい。この人魔族なんだ」

(ええジャックさん特殊能力でもあるのか?全然分からなかった)


「どうも良く分かりましたね」

「なんとなくね。昔兵隊やっていた時があってね。兼業してるハンターってたまにいるよ。ところで今日は何のようですかな?」

「魔王様からの使者としてまいりました」

「何故俺?」

「魔王様は逆にミドルハンターの方々と直接話したいと思っていらっしゃるようです」

「前から分からない魔王だなと思ってるけど、より一層わけが分からないな。それにミドルハンターの存在知ってるの?」

「魔王様は人間好きと言うかすごく人の世界の情報に詳しいです。おそらく王様じゃまともに判断できないだろうから、話が早いミドルハンターに直接話したほうがよいと考えていらっしゃるようです」

「王様より話せるって何かムズ痒いな。で用件って?」

「緩衝地帯に共存エリアが出来たら、モンスターの肉を魔族に売ってくれないか?と言う提案です」

「自分達で狩れば良いじゃないか?大体平均的に人間より強いだろ。人間なんて一部の化物と数で辛うじてやりあえてるだけだぞ」

「それは正しい認識が出来ない情報不足があると思います。私達魔族はモンスターを追い払える力があるのと同時に基本モンスター寄ってこないんですよね。あっちから攻撃的に向かってきてくれる人間と違って狩れる事は狩れますが効率が悪いです。倒せないのじゃなくて、食肉を目的として狩りをする場合難易度が高いんですよ」

「そりゃ不便だな。ただわざわざ何故モンスター肉なんだ?」


 使者はしばらく考えた。


「魔王様には意図があるんですよ。そこを悪いように人間側に受けとられてしまってるかな?と感じます。未来将来的にエリアを作っときに人間は集められたモンスターの圧力を負担だと感じると思うのですよ。だからそれは生活の役に立ってるんだと裏返してしまえばその反発を軽減できると魔王様は意図しています」

「そりゃミドルハンターが利用されてるんじゃないか?」

「でもミドルハンターって将来的にすべての開拓が終ったら用済みの仕事になりますよね?それでミドルハンターの将来について魔王様は最終的な就職先を斡旋しようと考えてるわけです」

「本当に魔王様何者だ?ミドルハンター自身でもそんな未来考えて無いよ。ただそんな事独断で出来るわけ無いだろ」

「だから私が来たんですよ。魔族だと思わなかったという言いわけ成り立ちませんかね?」


 エリックははっとした。自分がここに居た意味が出来た。ジャックはエリックの表情を見て


「何も考えてなかったけど、エリックが居た意味があったな。この人魔族ってエリック分からないよな?この人に俺の責任で肉を売って咎められると思うか?」

「そもそも万が一ですよね。ミドルハンターが誰にモンスター肉を売ってるか?なんて干渉し無いし、これまでもされた事無いですよね」

「それでもさすがに俺だけでは無理だ。元勇者の人居るからその人ともあんた話して欲しい」


 田中さんと使者の人が話しこんでいた。ジャックさんを交えて話がまとまって魔族に見えない魔族にモンスター肉を売る事になった。


「ちょっとまったーー、そういえばあんたどうやってここまで来たんだ?」

「そりゃ避けてくれますからね」

「なるほど、なら空白地帯が出来なくてもこれ始められるのか?」

「そうなります。その方が都合が良いでしょ?」

「それも魔王の想定なのか?」

「はい」

(なんて奴だ)


 エリックは魔王の底知れなさに田中さんと同じ感想を抱いた。言ってる事はすべて魔族と人間の共存に繋がってるのに何か裏があるんじゃないか?と感じてしまう。踊らされてる?そういった不快感が常に付きまとうから。結局知らないふりをしてこの使者に保存が効く乾燥肉を売る事になった。


 しかし魔族ってのはとんでもないな。人間なら元勇者の田中さんでも単独では危険なモンスター多発領域を一人で悠々と帰っていくんだから。これは魔族だなんて知らなかったで済む話だ。しかもだ魔族にモンスター肉を売ったら何が悪いんだ?国は何の罪で俺たちを裁くんだろうか?俺にもさっぱり分からなかった。


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