魔王討伐隊3
魔王を無事打倒して僕は王様から魔王討伐の特別な謝礼を貰った。しかし勇者に何か幻想を抱いてた僕は見事にそれを打ち砕かれた。
(え?これっぽっち?)
魔王討伐後、トムを討伐隊に引きこんだ人から助言があってトムはお払い箱になった。彼はまた元の地方のハンターに戻っていった。僕は酒場でトムが抜けて何か拍子抜けしたのでグレンさんと二人きりで祝賀会みたいなものを兼ねて飲んでいた。
「グレンさんトムの処遇酷すぎませんか?無駄飯くらいに払う金は無いって事ですか?」
「まあ魔王討伐のメンバーなら普通はミドルハンターかSハンターだろうな。でもトムにそれが勤まると思うか?」
「確かに無理でしょうね」
「俺も酷いと思ったよ。だから紹介した人に聞いたらある人の助言で、また違う魔王が復活する事もあるから切り札となるトムを死なせちゃいけないって助言があったらしいんだよ」
マインはパッと知り合いのアランさんの顔が浮かんだ。トムの話はアランさんから聞いていた。王国と直接やり取りはし無いので彼がトムを紹介したわけじゃないけど、多分その人物ってアランさんだとピント来た。
「ああそうだったんですか。正直言えばトムをダシに僕の報奨金の少なさを愚痴りかったんですよね…」
「まあ俺たちだけにしか出来ないミッションなのに少ないよな」
「はい、王長島クラスの活躍だと思うのですよ。国民栄誉賞もの」
「んん?イチローじゃないの?」
「誰ですかそれ?」
グレンは少し間をおいて
「えええーーマインって日本人としては年上の人なのか?」
「ああ僕の死んだ後の野球選手ですか」
「メジャー行って大リーグ記録更新しまくった世界的選手だぞ。国民栄誉賞も検討されてる。何か世代間ギャップ感じるな」
「最近の若いものはってやつですか。立場逆ですけどね。まあそれはそれで面白いですが置いておいて、だから一流プロ野球選手みたいなものだと僕は思ってるわけですよ」
「でもさアメリカの特殊部隊のエリートってメジャーリーガーより金貰うか?」
「まあ言われて見ると。でも勇者って国民の英雄でしょ」
「まあこの国日本に較べたら動くお金が小さいよな…」
「これでも結構な高給取りってもんですか」
お互い溜息をついてしまった。
「まあ他にも理由があるんだよ。まさかマインってこの後魔王討伐隊解散だと思ってないか?」
「あ、はいトム帰ってしまったし」
「違う違うあれはトムだけの特例措置で、俺らまた戦場で魔族と戦うんだよ」
「だから一度に払ってくれない?」
「うんただでさえ対したお金持ってない国がいくらあっても足りないからな。魔族がモンスターを追い払える力を持ってるの知ってるか?」
「はい」
「そのモンスターどこへ行くと思う?」
「あ、まさか前線?」
「ああ、ちと兵士じゃてこずる大型モンスターを狩る部隊としてまた前線にかり出されるんだよ。Sハンターでも出来るけど、そうなったら国内の強力モンスターをどう対処するんだ?って話しになるから。あれでもレギュラーメンバーで対応できない場合は臨時で引退教師とか集めて無理矢理成り立たせているからな。いっぱいいっぱいでやってるから軍隊との連携に長けた俺達が当たるのが合理的なんだよ。魔王討伐ってボーナスで通常の給料があると割り切ったほうが良いぞ」
「なら結構払ってるんですね」
「ハンターって基本儲からないからな、今の年になると転移者が魔王討伐やりたがらないのすごく分かる。段々元の日本人の価値観に戻っていくから命かけてこの程度のお金って割に合わないと思うよ。一攫千金のような夢物語はまずないな。酷い底辺ハンターだと農業や狩りと兼業で当たり前だからな。幻滅したか?」
「うーんなら何故グレンさんこんな長くやってるんですか?」
ニヤとグレンさんは笑った。
「俺死にそうか?」
「いえ全然」
「能力は不公平だと思うよ。俺にとって魔王討伐は命かけてやる仕事じゃ無いんだよな。こんな楽に儲けられる仕事多分この世界じゃそうそう無いと思う。マインお前は違うけどな」
「そりゃ僕も他の兵士よりはまるで死ぬ危険なんて低いですけど、グレンさんと較べたら確かに」
「だから普通ランク落としてSハンターやるか?ミドルハンターやるんだよ。魔王なんてマジで戦ったらいつか死ぬぞ?大体皆引退が早いのこういうわけだよ。特に勇者だった時は早く次の勇者来てくれないかなーって俺思ってたよ。金にならないのに行事の出席はやたらと多いからな。
勇者なんて負けたりしたら勇者が弱いって一身に批判されるからな。面と向かっては言われなくても目立つからな。トムが居なかったら今回かなりやばかったと思う。俺はマインがやられたら逃げるけどね…」
「ええあの魔王強かったんですか?」
「今回のパーティートムのおかげで歴代最強に近いぞもう3代も俺含めて勇者と魔王の戦い見てるだから。今回のパーティーが特別優れてるのはすぐに分かる。結果だけなら楽勝だったけど、トムが居なかったらマインの立場ならこんな安い報酬でやってられないって思うわな。
俺らって強いじゃない?いざとなったら魔王が占拠した国でも楽勝でやっていけると思う。日本人としての気持が強く出てきたら何故俺魔王討伐なんて危険な真似してどうでも良い国民守ってるんだろ?ってなってくるよ。まあ現場で遣ってると兵士殺したくないなってなって頑張ってしまうけどな。それだけ魔王をどうするか?は戦局を大きく左右するから」
僕達は魔王討伐が終わって、繰り返される終わりの無い魔族との戦いの日常を繰り返した。昔あれだけ成りたかった勇者って何なんだろうか?とわけが分からなくなっていた。
勇者が魔王を退治して物語が終り。そんなハッピーエンドじゃない。僕は物語を閉じられずにその後の続く人生のため相変わらず魔族と戦っている。早く一生遊んで暮らせるお金をためて魔王討伐隊辞めてしまいたい。
僕が抜けると言う事はさすがに出来ない。次の転生者の登場に大きく期待してる。僕はもう魔王討伐と言う大任を果たしたから早期にやめる理由はある。勇者への憧れの気持ちが磨耗とすると魔王が最後に言っていた事が頭に浮かんでくる。
魔王を退治する事って絶対なのだろうか?正直モチベーションの問題でやりたくないなと思えてきた。何故勇者のサイクルがあれほど短いか分かってきた。もちろん次の世代の登場で前の世代の勇者が衰えるのが大きい。
しかし根本的には自分の持ってる力の割にその働きへの対価がしょぼすぎると感じてあまりやる気にならない。勇者が略奪者になったって歴史は無いのだろか?馬鹿馬鹿しくてやってられないものがある。一人で何百人も多分兵隊を殺せる。だから僕は100人分の報酬を受け取る権利があると思う。それなら不満なく命を賭ける気にもなるのだが。
暴力は略奪してこその力だなと強く感じる。それが正しい暴力の対価なんだろうな。




