表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
多々木さんの受難  作者: 大原英一
第一章 転生しまっしょい
6/25

ウォーキング部

 なにがツラいと言って、毎日ひたすら歩き続けなくちゃならないことだった。この時代、クルマや電車は走っていない。

 ロバにすら乗ってはいけないのだ。なにここ、ウォーキング部? 日に二〇キロとか歩かされるのは、ざらだった。

 正確に距離を測ったわけではないが四、五時間もぶっ通しで歩けば、それくらい歩いた計算になる。

 なぜ歩き続けるのか。むろん生きていくためだ。が、べつに歩くことが仕事ではない。あくまで移動の手段だ……あと布教?

 そう、布教活動がオレたちの仕事だった。イエスの教えを説き、彼が起こした奇跡を伝えるのがオレたち弟子の使命だ。


 地理的な移動には「教えの伝播」以外にも重要な意味があった。そもそもオレらは無制限に拡大しているわけじゃない。

 実際は逆で、おなじ行程を往ったり来たりしている。むろん意味があってのことだ。

 この辺りで最もデカい都市はエルサレムだ。できるだけ都市の周辺で活動したいと思うのは、宗教家に限らずどんな職業の人でもおなじだろう。

 ただし都市というやつは、人が多くて活気がある代わりに敵も多い。ここエルサレムにはイエスを否定し弾圧し、死に追いやったユダヤ僧たちがウヨウヨいる。

 彼らがイエスの弟子であるオレらを、よく思っているわけがない。いつどんな因縁をふっかけられるか、わかったものじゃない。

 だから都市部で布教活動はするが、あまり長居しないことが肝要だった。それでオレらはエルサレムへの出入りを繰り返した。


 エルサレムを出ると、オレらはきまってガリラヤの地へ戻った。そこにはイエスやその母マリアが暮らしたナザレという村がある。いわばオレらのホームグラウンドだ。

 そのナザレがまた、めっちゃ遠い。歩いて余裕で三日はかかる。三日かけてエルサレムへ行き、ナザレへまた戻るということを繰り返した。もちろん布教活動をしつつ、である。

 基本的におなじ道程を辿った。ローラー作戦のようなオレらの活動に、この周辺の人たちはまたか、と思っているかもしれない。

 疎まれることもあったし、歓迎されることもあった。施しを受けたり宿の世話をしてもらったりもした。それがないとオレらは生きられなかった。



 途中、サマリアという土地をきまって通る。北のナザレと南のエルサレムの、ちょうど中間地点にあたる。

 サマリアはガリラヤ人にとって、かつてアウェーの土地だったらしい。それをひとりのガリラヤ人が、ぐっと心理的な距離を縮めることに成功したという。わが師イエスの功績である。

 イエスがここでどんな言動をとったか、具体的なことをオレは知らない。オレはこの世界に途中から転生してきた身で、いまは記憶喪失という設定になっている。

 ペテロのおっさんにくっついて、いろいろと教えてもらっている最中だった。だが、当然すべてを一遍にというわけにはいかないし、彼もオレの進捗状況をすべて把握しきれているわけではない。伝達漏れも起こりえた。


 その日、オレとペテロはサマリアにいた。いつもどおり伝道の旅の途中だった。

 ふたりで町を歩いていると、急に男が話しかけてきた。ペテロがこれに応対し、彼はすっかり話に捕まってしまった。話の内容はむろん、イエスが起こした奇跡(復活)についてだ。ふたりで熱く語り合っている。

 オレはちょっと手持ち無沙汰だった。まだ会話に入っていけるほど、この世界の事情に詳しくない。それと喉が渇いていた。

 ペテロにかるく合図して、オレは水を飲むためその場を離れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ