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多々木さんの受難  作者: 大原英一
第一章 転生しまっしょい
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再会

 その求人広告をどこで目にしたか、はっきりと思い出すことができない。

 アパートのポストに入っていたのか、街で配布されているのを受け取ったか……それくらいしか考えられないのだが、現物が残っていない。


【時給1600円 営業事務 090-XXXX-XXXX】


 オレの字だった。だからつまり、オレが残したメモだ。それなのに出処がどうしても思い出せない。怖っ。

 だが、時給一六〇〇円というのは悪い金額ではなかった。場所が書かれていないのが、ちと不安だが、電話で聞くしかないだろう。

 オレは勇気を出して電話してみた。

「お電話ありがとうございます。株式会社スパンキーです」

 電話の声は女性だった。

「あ、あの……求人広告を見た者ですが」オレは、おそるおそる言った。

「はい、ご応募ありがとうございます」

「えっと、営業事務の募集を見たんですが、じつは、そちらの会社のことをよく知らないもので」

「構いませんよ。会社説明は、面接のときにさせていただきます」

「あの、ホームページとか、ないんですか」

「ただいま立ち上げているところです。まだ若い会社なんですよ」

「わかりました」オレは言った。「では、さしあたって、住所を教えてもらっていいですか」

 オレは電話の女性が言った住所をメモに書き加えた。意外な場所だった。都内ではあるが都心ではない。むしろベッドタウンだ。地域密着型の企業なのだろうか。

「それでは、近々に面接に来ていただけますか、山元・・さん」

「あ、はい……」

 言われるまま、あさっての午前一〇時に面接を組まれてしまった。話がはやい。

「それでは、お待ちしております」

「あ、すいません」オレは慌てて訊いた。「お名前を」

「若林と申します」


 なんとなく腑に落ちないまま電話を切った。それから三〇分くらいして、オレはようやく違和感の正体に気づいた。

 若林という女性は、山元さん、とオレのことを呼んだ。はたしてオレは自分の名を言っただろうか。

 記憶が定かでないが、たぶん言っていないような気がする。すると、彼女はオレのことを知っているのだろうか。知らないまでも、オレの名前と携帯の番号くらいは事前に登録されていた可能性がある。

 なんだか妙な気分だった。スパンキーとかいう会社、以前にコンタクトがあったか……。思い出せなかった。



 面接の日がやってきた。株式会社スパンキーとかいう、得体の知れない会社だ。

 オレは履歴書を準備して、ひさびさにスーツを着て出かけた。わりとローカルな駅で降りて、目的地まで一〇分くらい歩いた。

 予想どおりの雑居ビルだった。つーか、これってビルなのか……。一階がほか弁で、その二階だった。二階しかなかった。よくある、町の会計事務所みたいな感じだ。

 階段を上がって行くと、社名のプレートが貼ってあるドアにつき当たった。オレはひとつ深呼吸し、呼び鈴を鳴らした。

 ガチャリとドアが開き、そして――。


 いきなり何千というフラッシュを同時に焚いたような、ものすごい光の渦がオレを包んだ。オレは思い出した。それともデジャヴなのか……。

 オレはスパンキーという会社を知っていた。ここにはオレの知る人物がふたり、いるはずだ。彼らの顔と名前も、はっきりと思い出せる。

 徐々に光の加減が和らぎ、目を開けられるようになった。すると、ぼんやりと視覚が戻ってきた。

「やあ、久しぶりだね、ヤマゲン君」

 多々木さんの声がした。まだ視覚が戻りきっていないようで、彼の姿がシルエットしかわからない。若干、後光が差しているようにも見える。

「お久しぶりです、ヤマゲンさん」

 今度は横から若林さんの声だ。が、彼女の姿ははっきりと見えた。なんだか、とてつもなくエキセントリックな恰好をしている。

 ともかく視覚が戻ってよかった。オレはもう一度多々木さんを見た。げっ、

「あれっ……多々木さん?」

 彼の姿はあいかわらず、ぼんやりとしたままだった。オレの目がおかしいのか?

「彼はいま、やんごとなきお方なんです」

 となりで若林さんが言った。

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