第一話
動物フェロモン~以下略~がついに100000PVを超えたのでお礼小節を投稿します。
現代モノで幼馴染モノです。興味がありましたらどうぞ。
「はぁ~~~っ!かぁっこいいーーーーーーーーっ!」
「そーだね」
「きめたっ!あたしっ!ぜぇーーーーーーーったいにあのひととけっこんするっ!」
「ふうん」
幼馴染のアイツとあたしの父親は飛行機馬鹿という共通の趣味を持つ幼馴染同士。
そのせいもあってあたしとアイツ……は気が付いたらいつも一緒にいた。
…………多分、哺乳瓶に吸い付いていた頃から。
「あははは……ショーちゃんはそんなにブルーインパルスが好きなんだね」
「うん!だいすきっ!」
「おい、しょう。ブルーインパルスのパイロットにだって嫁さんを選ぶ権利があるんだぞ?」
「じゃあ、あたし、えらんでもらえるようにがんばるっ!」
航空ショーで見た大空に描かれた星。
感動したあたしは、ぼーーーーーーーーーーっとした状態の幼馴染とその父親、そして自分の父親の前で宣言したのだった。
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「成田さん、お疲れ様。花束が届いてますよ?………女・性・か・ら!!」
三つ揃えの背広を抜いだあたしは、劇場のスタッフから小さなブーケを受け取った。
あれから23年。
とうに三十路となったあたしにはもうあの頃の夢を叶えようと言う気は無い。
……ってか、結婚事態現実問題として厳しいのだ。
「翔、今日も素敵だったわよ」
ニコニコ笑って拍手しながら楽屋に入って来たのはあたしをこの世界に引きずり込んだ人物だ。
高校を卒業し、就職試験に落ち続けたあたしを仕事とお金をやるから…と言って無理やり引っ張って来た彼は口調は女でも立派な日本男児である。
てっきり裏方をやらされるのかと思いついて来たら………いきなり男役でしかもヒロインに横恋慕する役だった。
………お父さん、何故あたしは貴方に似てしまったんでしょう?
身長は170を超え、スレンダーと言えば聞こえがいいがようするに凸の限りなく乏しい身体付きにちょっと低めの声。
だからと言って、学生時代から男と間違われる事が多かった訳じゃない。
……何故なら田舎ではちゃんと女子高生をしていたのだから……
「全国キャラバンの途中でアンタを見つけたのは本当にラッキーだったわ!ド田舎なのに客席に妙に目立つ顔がいるなって思ったのよねぇ……」
思えばアレが二度目の人生の分岐点だったのかもしれない。
田舎にたった一か所しかない劇場に東京の有名劇団が来るって事で興味半分時間つぶし半分で観に行ったのだ。
演目は忘れたけど、確か魔女が出てくる話だったと思う。
舞台を右に左にと駆け回り、その上素晴らしい美声で歌い、ダンスもバッチリでしかも宙吊りパフォーマンスまで……。
悪役なのにもかかわらず主役のお兄さんよりも目立っていたのがこの目の前にいるオカマ…もといっ!…お兄様だったのだ。
「……そりゃどーも」
「あら?褒めているのに嬉しくないの?」
「まさか!恐れ多くも団長様にお褒め頂き、成田 翔子、恐悦至極に存じます」
あたしは今一人暮らしをしている。
ちなみにアパートの保証人になってくれたのもこの目の前の男である。
父はあの航空ショーの翌日交通事故に遭い、帰らぬ人となった。
そしてそんな父を溺愛していた母はそれが切欠で身体を壊し、あたしは母と一緒に母の実家に行く事になったのだ。
そんな母は父の七回忌の時に後を追うように亡くなった。
だけど、彼等が残しておいてくれた保険金と、母方の祖父母のおかげで高校までは卒業出来た。
………さぁ!沢山働いてお金を稼いでじーちゃんばーちゃんを楽させてあげるぞっ……!!
そう思い気合入れて就職試験に臨むも敢え無く惨敗。
………自分を育ててくれた祖父母に会わせる顔が無い
途方に暮れていたその時町の掲示板に貼ってあったチラシが目に入ったのだ。
ミュージカルは面白かった!気分転換にもなったし、これでまた明日から就職試験頑張るぞ……と思ってロビーに出た途端、スタッフらしき人達に囲まれ、連れて行かれたのが“彼”の楽屋である。
………仕事と金をやるから自分のところに来い。
そう言われて何の疑いもせずに書類を書いて拇印を押した当時の自分を殴りたいっ!
気が付いたら東京につれて来られ、脇役専門の劇団員にされていたのだ。
そう。主役ではなく脇役。
主人公が男なら彼のライバルか友人。
主人公が女なら彼女に恋する当て馬くんか主人公を優しく見守る友人A。
ちなみに今日の芝居でのあたしの役はイケメン御曹司でありながらもヒロインに振られる当て馬くんだった。
「楽日も無事終了したから、これから打ち上げに行くんだけど、アンタも来る?」
あたしは団長の言葉を聞きながらウィッグをつける為にまとめていた髪をほぐした。
背中のあたりまで伸びたストレートヘアーはあたしのポリシーだ。
「……すみません。今日もバイトです」
実は6年前、田舎の祖父が脳溢血で倒れたのだ。
治療費を送金する為に、その頃から夜だけ別のアルバイトをしている。
「そっか。で、明日はレイのイベントに行くんでしょう?」
「勿論!」
「ふふ……思いっきり楽しんできなさいね?あ、そうそう。来週には次の台本が出来上がるから…」
ッチ。今日が金曜日だから二日しか休めないじゃん!
「……了解です」
「それじゃあねぇ~よい週末を~」
そう言って後ろ手を振りながら出て行った団長。
……黙って立ってればイケメンなのに………
何て言葉は飲み込んで、あたしはバッグの中をそっと開けた。
中で存在を主張するのは一冊の雑誌。『航空ファン』だ。
今月号の表紙を飾るのはブルーインパルスの飛行班員で昨年から人気急上昇中の一人のパイロット……千歳 真飛路2尉 33歳独身……である。
「あんなに近かったのに……いつの間にかこんなに離れちゃった」
いつも自分の隣でぼーーーーーーーーーっとしていた癒し系可愛い系草食男は誰もが認めるエリートイケメンに進化していた。
航空自衛隊第4航空団第11飛行隊……それがブルーインパルスの正式名称だ。
青と白にカラーリングされた6機の機体を操るのは全国で選ばれた精鋭のみ。
『ぜったいぷろぽーずには“きゅーぴっと”をおねがいするんだぁ~♪』
『ふぅん』
結局幼馴染の男は、将来パイロットになると一言も言わずに防衛大学を卒業し航空自衛隊に入りパイロットになった。
成田 翔子
千歳 真飛路
赤ん坊の頃から小学校までいつも一緒にいた単なる幼馴染同士。
でも今は、しがない脇役専門女優と超有名エリートパイロット。
いつの間にか自分とは違う世界にいる幼馴染に複雑な感情を抱きつつ、今年もあたしは航空ショーを見に行くのだ。
団員の中ではあたしのブルーインパルス好きは知れ渡っている。
「さて、今日も稼がなきゃ……」
あたしは背中に広がる髪をまとめてお団子にすると黒いゴムで縛ったのだった。
ご愛読ありがとうございます。
中編くらいの長さなのでまだまだ続きます。