【8】着替えてみよう!
前話投稿から一年以上空いてました。文体や登場人物のキャラクターが変わっている可能性があります。指摘などくださると嬉しいです。それと、前半は一年前の文章なので古いネタが混ざっている可能性があります。ご了承ください。
ばこんっ
自宅のドアを開けるなり、上から黒板消しが目の前に降ってきた。
悪意を感じることに、チョークの粉をたくさん含んでいたようで白い煙がもうもうと立ち込める。
「え、えぇっと・・・・・?」
僕は困惑しながら床の上の黒板消しを見る。
玄関の扉が少し開いてて、怪しいとは思っていたけど・・・・・。
何故黒板消し?一体どこからこんなものがでてきたんだ?いや、犯人はわかってるんだ。絶対に歩夢と来夢だ。それ以外だったら逆に怖い。
僕に対する嫌がらせか?しかしなんて古典的なんだ。あの子たち自分のこと宇宙人とか言ってたけどこんな手法を知ってるなんて本当にそうなのか疑いを持つぞ。ていうか本当にどこから持ってきたんだこんなもの。
まぁいい。とりあえず上がろう。
黒板消しを下駄箱の上に置き、家に上がって、リビングへ通じるドアを開ける。
ガシャーンッ!!
・・・・・今度はたらいが落ちてきた。
「あーっ残念!!頭に落ちなかったぁー!!」
「だからバケツの方がいいって言ったんだよ?」
「黒板消しは当たったのかなぁ?」
「はずれみたいだよ。頭が白くなってないもん」
そして二人の少女の声が聞こえてきた。
「・・・・一体これは何事だね」
僕はできるだけ落ち着いた素振りで二人に尋ねる。
「あなた帰ってくるの遅いの!!今何時だと思ってるのよ!?」
どうやらリビングの床に座って歩夢とトランプをしていたらしいが、僕の登場によりそれを中断してこちらを向いていた来夢が叫ぶ。
「うー・・・・もう眠いよ・・・・」
歩夢も目を擦り擦り、僕に言う。
「あー・・・ゴメン。先に寝ててもよかったのに」
すると来夢は俯いた。そして「・・・・服」と一言ぽつりと呟いた。
「え?」
僕が聞き返すと。
「服!買ってきたんでしょ!?さっさと出してよね!?」
と言ってきた。
・・・・そうか。僕が買ってくる服が楽しみで寝ないで待ってたのか・・・・・。
「来夢・・・・・可愛いなぁ・・・・・・」
「はっ!?気持ち悪」
いけないいけない。口に出てしまっていたか。
僕は手に提げていた袋からさっき買ってきたばかりの服を出す。
それを見て、来夢の目が輝く。歩夢も眠たそうだが興味津々といった様子でこちらを見ている。
そして、僕が床に服を広げて並べ始めると来夢が持っていたトランプを投げ出し、四つん這いですごい勢いでこちらに来た。(まるでホ●ォみたいだ)
僕が出す服(全四着)を次々に見る。そして一言。
「・・・何でロリータ?」
「それが君たちに似合うと思ったからだ」
「キモい」
僕が服を全部出したのを確認して歩夢ものろのろと這ってきた。(トランプは持ったままだ)
焦点の合ってるのか合ってないのかわからないようなぼんやりとした目でぽけっーっと服を見つめる。そして、「かわいい・・・・・」と言った。
それを聞いた来夢は。
「うん!かわいいよね!!本当お姉ちゃんによく似合うと思うよ!!すごくかわいい!!やるじゃんあなた!!!」
と言った。
何だこの子よくわからん。しかし褒められて悪い気はしないので。
「ふっ。そうだろう。僕のセレクトにハズレはないのだ」
と気取ってみる。
「・・・着る」
ふと、歩夢がおもむろに着ている服を脱ぎ始めた。
露わになる白い素肌。
「・・・・は?」
突然だったのでびっくりして反応ができなかった。
歩夢は着ている服――と言っても僕のジャージ(上)を裸の上に着ているだけだが――をあっという間に脱ぎ終え。
「うーん・・・・どっちにしようかなぁ・・・・」
と並べられたゴスロリを見て悩み始める。
昨日も見たが、改めて見ても美しい裸だな・・・・っていかんいかん。
フリーズから解かれた僕は目線を下に向け、失礼にならない程度にチラ見する。
歩夢はしばらく悩んだ後(どちらも大して違いはないのだが)、「これにする」と言って一着のゴスロリを選んだ。
「ん・・・・しょっと」
そのスカートの中に歩夢はずるずると入っていき、顔を出した。
そして、立ち上がる。
「わぁ・・・・お姉ちゃん綺麗・・・・」
来夢が声を上げる。
僕も息を呑んだ。
とても似合っていた。
歩夢の美しい銀髪がさらりと揺れる。
巫女服も似合っていたのだが、ゴスロリみたいな服だと歩夢の持つ西洋的な美しさが特に引き立って見える。
これは僕、とっても良いチョイスをしたのではないか・・・・・?
心の中でガッツポーズをする。
歩夢は自分の着ている服を見て、後ろを向いたりキョロキョロしたり、落ち着かなそうにしていた。やがて一言。
「しっぽが出せなくて苦しい」
「・・・・・」
それを僕に言われましても。
「お姉ちゃん・・・そこは我慢しよう?地球の人は尻尾が生えてないんだから?」
たしなめるように言う来夢。
「えーでも気持ち悪いよー」
居心地悪そうに体をくねらす歩夢。それを見て僕はあるものを思い出した。
「あ、これとかつけてみたらどうかな?」
服が入っていた袋の中からそれを取りだす。
それに釘付けになる歩夢の視線。
「・・・・それは何ですかな?」
「なんかパニエって言ってスカートを膨らませるものらしい」
「ほほう」
言うなり歩夢は僕からそれを取り、盛大に自分のスカートを捲った。
ぶっ。
いや、穿いてるけど。穿いてたけど。当然だけど。
パニエに足を通し、スカートの中をしばしゴソゴソやったあと、歩夢は「うん!」と満足げに頷いた。
「どう?お姉ちゃん?」
来夢が尋ねる。
「完璧!全然苦しくない!!!!」
「そっかそれはよかった」
僕も安心だ。
「来夢も着たら~?」
「えっ、いや私は・・・・」
歩夢の誘いに来夢は僕の方に視線を送る。
「いや、僕のことなら気にしなくていいよ。君の体に変な気を起こすほどの変態ではないのでね。安心してここで着替えたまえ」
「そんなことするか変態!!!!!!!!」
頭にガツッという衝撃。
殴られた。
さっきリビングのドアに仕掛けられていたたらいで。
「いったぁーーーーー!?」
僕らしくもなく思わず叫んでしまった。
「あなたの前でなんか絶対着ないから!!!!!お姉ちゃんもいい加減恥じらいを持って!!!!この人はオスなんだよ!?」
急に矛先を向けられ目を白黒する歩夢。
「え・・・・えええええ?この人オスなの?」
「気付いてなかったの!?」
「地球人ってオスメスの区別あるの?」
「「そっから!?」」
思わず僕まで突っ込んでしまった。
「そっかぁ~オスだったんだ~・・・・・」
さも意外そうに言う歩夢。
「とにかく!!!わかったでしょ!?この人はオスなの!!危険なの!!!!だから気軽にこの人の前で肌を見せちゃ駄目!!!!」
「うん・・・・わかったよ来夢」
しゅんと肩を落とす歩夢。
そうか。もう歩夢が僕の前で脱ぐことはないのか。いや残念とか思ってないけど。
「あ、そういえばさ、この黒板消しもそうなんだがうちにはこんなたらいなかったはずなんだけど、どこから持ってきたの?」
事態が収束してきたのでこれ幸いとばかりに僕は咄嗟に話題を変えた。
さっきから気になってたことだしね。
「ああ?それ?ワープさせてきた」
「・・・・は?」
「お姉ちゃん見せてあげて?」
「あいさー」
ぱちんと指を鳴らす歩夢。途端、歩夢の背後にバスケットボールくらいの黒い球体が現れた。
「なっ・・・!?」
その中に来夢はたらいを放り込む。
球体だと思ったものは穴だった。
すうっと暗闇に溶け込んで見えなくなるたらい。
「黒板消しは?」
「あ・・・ああ」
何が起こってるのかさっぱりわからない。
呆けている僕に来夢が聞いた。
足取りがおぼつかない中、ふらふらと玄関へ黒板消しを取りに行き、来夢に渡す。
「ありがと」
短く言って来夢はそれも穴の中に放り込んだ。
「お姉ちゃんもういいよ」
「あいさー」
歩夢がぱちんと指を鳴らすと穴は消えた。
「い・・・いいいいいいまのは一体・・・・?」
わけのわからない僕に来夢は説明する。
「お姉ちゃんはね、ワープの能力を持つんだよ?」
「ワープ?」
「そう、今のはワープホール」
「はぁ・・・・」
「物体のみのワープも可能だし、自分自身も、複数の人数でもワープできるんだよ?」
そういえば昨日ワープしてここに来たとかいってたっけ。
「今はワープさせてきたたらいと黒板消しを元の場所に返したの。投げ込んだら勝手に元の場所に戻ってくれるんだよ。便利でしょ~っ・・・・てお姉ちゃんだいじょうぶ!?」
そこで自慢げに語っていた来夢は歩夢の異変に気づき、慌てて駆け寄る。
「きゅぅ~・・・・」
歩夢は疲労困憊と言った様子で荒い息を吐きながら目を閉じて床に仰向けになっていた。
「ごめんね無理させちゃって!!やっぱりまだ小さなものとは言え一日に二回ワープはキツかったよね!?本当ごめんね!?ごめんねごめんね!?死なないでお姉ちゃ~ん!!!!!」
今にも歩夢が死にそうであるかのような扱いだ。
「来・・・・夢・・」
歩夢が目を開く。
「お姉ちゃん!?」
来夢が歩夢を抱き起す。
「お姉ちゃんはね・・・・来夢がいて幸せだったよ・・・。来夢、今までありがとう・・・。そこの、部屋の主さんと・・・仲良く、ね・・・・」
息も絶え絶えに言い、ガクッと体の力を抜く歩夢。
「お姉ちゃん・・・・?嫌だよこんなの・・・・。お姉ちゃあああああああんん!!!!!」
涙を浮かべ叫ぶ来夢。
僕を置いて完全に二人の世界だ。
いや、落ち着けって。
何だよこの茶番。
今にも涙をこぼしそうな来夢にぱちりと目を開けて弱弱しく微笑む歩夢。
「へへ・・・・びっくりした?」
呆気にとられたような顔をする来夢。
「えっ・・・・お姉ちゃん?」
「嘘だよ?」
「っ・・・もう。お姉ちゃん大好き」
笑顔になり、今度は歩夢をぎゅっと抱きしめる来夢。
ていうか今までの本気だったんですね。
もうやだ付き合ってられん。
ぐるるるるるるる~。
と抱き合っている姉妹の横で空気の読めない僕のお腹が鳴った。
そういえばまだご飯を食べていなかった。
僕は腰を上げる。それに気づいた来夢は。
「夕飯の残りまだあるからそれ食べていいよ」
と言った。
姉との抱擁を解く気はないらしい。
気付くと。
「すぴー」
歩夢が来夢に抱かれながら寝息を立てていた。
まあ、夜も遅いしな・・・・。
こうして今日も姉妹との夜は騒がしく更けていったのだった。
だから僕は。
今日良太に会ったことも、そのときに感じた違和感も綺麗さっぱり忘れてしまっていた。